べらぼう第26話ネタバレ 『三人の女』が照らす蔦重の本心

べらぼう
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「三人の女」というタイトルが、ただの数合わせに聞こえるなら甘い。

この第26話は“飢饉”“策”“恋慕”の三拍子が絡み合う人間交差点だ。

江戸を揺るがす米騒動の裏で、蔦屋重三郎の心を揺さぶる三人の女──母・つよ、妻・てい、そして幻の女・誰袖──彼女たちが浮き彫りにするのは、男の孤独と矜持、そして「真の夫婦」になるまでの痛みの過程だった。

この記事では、ただあらすじをなぞるのではなく、登場人物の“内側”に踏み込み、あなたの胸を撃つ構成でお届けする。

この記事を読むとわかること

  • 蔦重が筆一本で飢饉に立ち向かった理由
  • ていとの仮面夫婦が真の夫婦へ至る瞬間
  • 米騒動を動かした“言霊”の力と影響
  1. “三人の女”が浮き彫りにする蔦重の本当の孤独
    1. てい:本妻であり、最も遠い存在だった女
    2. つよ:過去からやってきた未処理の感情
    3. 誰袖:今いないからこそ心を支配する“影の女”
  2. 江戸を揺らした天明の米騒動と蔦重の苦悩
    1. 米がなくなる現実──耕書堂が抱える危機
    2. 米の値を動かす“言葉の力”と黄表紙という反撃
  3. 商才は血か、知恵か──蔦重と母・つよの再会劇
    1. 髪結いと本の販促が交差した座敷の瞬間
    2. 「店を使え」母のしたたかさと愛情の裏返し
    3. “蔦重の血”に流れる、諦めの悪さ
  4. 「契約夫婦」から「真の夫婦」へ──ていと蔦重の関係進化
    1. 衝立の向こうにいた距離、消えた理由
    2. 「つまらない女房」であることの誇り
    3. 蔦重の告白:「誰とも添わぬつもりが、おていさんだった」
  5. 狂歌で世を変える──言霊が米の価格を動かす希望
    1. 大田南畝×歌麿×蔦重のトライアングル策謀
    2. 田沼意知が得た“仲間制度廃止”という改革の種
    3. 言霊は無力じゃない──言葉が人を動かすとき
  6. ていの家出が意味したもの──決別ではなく覚悟
    1. 置き手紙の「系図」が語る、ていの思いと静かな決意
    2. 「私には務まらない」女の劣等感と、それを抱きしめる男
    3. 「ただ、あなたの隣にいたかった」それだけの物語
  7. 意知と蔦重、その“交差点”にあるもの
    1. 地位も思想も違う。でも“空気を変えたい”は同じだった
    2. “学ぶ姿勢”を持った権力者は、信じたくなる
  8. 【まとめ】三人の女、米騒動、そして蔦重の“変化”が描いた第26話の核心

“三人の女”が浮き彫りにする蔦重の本当の孤独

「三人の女」──このタイトルを見て、ただの愛憎劇だと思ったなら、浅い。

これは蔦重という男の“心の深層”を掘り起こすための、静かで凶暴な問いかけだ。

そしてその答えは、意外なほど日常の中に潜んでいた。

てい:本妻であり、最も遠い存在だった女

ていは蔦重にとって“契約”の妻だった。

だからこそ、その距離はある意味で安全だった。

一緒に店を切り盛りしながらも、寝室は別。情に溺れず、利に徹することで成立していた関係。

だが、母・つよの突然の登場によって、それは崩れ始める。

自室を譲り、同じ部屋に寝るようになったふたり。

それでもなお間に置かれた「衝立」が象徴するのは、心の壁だ。

ていは、自分を「江戸一の利き者の妻」としては“不適任”だと思っていた。

「自分は華もなく、母のようなあしらいもできない」──ていの自己評価は低い。

でもそれが、女の“強さ”だとも言える。

蔦重は、そんなていの“黙って支える力”を愛していた。

契約関係のはずが、いつしか“空気のような信頼”に変わっていたことに、本人すら気づいていなかった。

「俺が目利きした、たった一人の女房がていなんだ」──この言葉が出た時、蔦重はようやくていを「選んだ」と言えた。

つよ:過去からやってきた未処理の感情

蔦重の母・つよ。

彼女は、蔦重の“過去そのもの”だ。

幼い頃に吉原に置き去りにされ、長らく行方不明だった女が、飄々と店に転がり込む。

米の不作、飢饉、飢え──世相の底にある“生存の本能”が、つよを江戸に呼び戻した。

だが蔦重にとって、それは未処理の感情が突如現実になった瞬間だった。

怒り、拒絶、戸惑い。

でも、つよは髪を結いながら客に店の本を渡す。無遠慮だが、商いのセンスは天性だった。

「商売の才覚は血に宿る」という、言葉では片づけきれないリアリティがあった。

つよの登場は、蔦重の“ルーツ”を直視させた。

それは、ていという“現在”と向き合う準備でもあった。

母を受け入れたことで、彼は「家族」という言葉の意味を、初めて真剣に考え始める。

誰袖:今いないからこそ心を支配する“影の女”

そして「三人目の女」──明言されていないが、多くの視聴者がそう予感したはず。

それは、蔦重がかつて本気で愛した遊女、誰袖の存在。

彼女は今、意知との関係にあると言われているが、画面にはほとんど登場しない。

しかし、いないことこそが重い。

ていとの関係が進む中で、彼の無意識は過去の幻影──誰袖──と対峙している。

ていを「比べた」わけではない。ただ、「比べてしまう自分」がいる。

本当の夫婦になるということは、“幻の女”を心から手放すことだ。

それが第26話の終盤で、蔦重がていに伝えた「選んだ」という言葉の背景だ。

選びなおす勇気。それが、彼に必要だった最後のピースだった。

「三人の女」は、ただのタイトルじゃない。

過去・現在・未練──それぞれが女という形で現れ、蔦重に向き合う“自分”を突きつけていた。

この回は、恋愛の話ではない。

これは、孤独だった男が、ようやく「ひとりじゃない」と認められるまでの物語だ。

江戸を揺らした天明の米騒動と蔦重の苦悩

米がない。

それは贅沢の話じゃなく、“生きる”ことの根底が崩れる音だった。

江戸中を巻き込んだ天明の米騒動──そのとき蔦屋重三郎は、ただの商人じゃなかった。

米がなくなる現実──耕書堂が抱える危機

冷夏、噴火、飢饉。

大坂の米市では価格が二倍に跳ね上がり、江戸も連動して米価が急騰。

江戸城では田沼意次が頭を抱え、御三家の紀州藩・徳川治貞が怒声を上げる。

でも蔦重にとっては、もっと切実だった。

店を守るために抱える奉公人、出入りする客、文化人、戯作者。

彼らの“食い扶持”を支えるのは蔵に残るわずか一俵の米だけ。

「なんで俺が米の心配なんざ……」

そう呟く背中は、時代の矛盾そのものだった。

本を売る奴が、まず“飯”をどうにかしなきゃならねぇ。

出版も文化も、空腹の前には無力だった。

その現実に直面した蔦重は、行動に出る。

米の値を動かす“言葉の力”と黄表紙という反撃

ただの買い出しじゃない。

蔦重の武器は「金」じゃなく「言葉」だった。

狂歌師・大田南畝、絵師・喜多川歌麿、そして札差との裏交渉──。

札差を耕書堂に招き、狂歌を通してご機嫌を取る。

狙いはただひとつ。米を安く仕入れるチャンス。

札差は応じるが、南畝が呟いた一言がすべてを変える。

「これ、本当に天災だけが原因か?」

──米を持ってる連中が売り惜しみして、値を釣り上げてるんじゃないか。

その瞬間、蔦重の中で“企み”が生まれた。

「言葉で空気を変える」──それが彼の反撃の始まりだった。

「歳旦狂歌集」。正月に向けて、おめでたい狂歌を集めた黄表紙。

笑いと皮肉、風刺と希望。読む者の感情を動かす“仕掛け”を施した。

「俺たちゃ米一粒作れねぇが、言霊は投げられる」

それが蔦重の覚悟だった。

文化で世の中が動く? 馬鹿げてるか?

でも、この男は本気でそう思っていた。

言葉が空気を変え、空気が流通を変え、流通が価値を変える。

それは今でも、SNS時代でも、変わらない理屈だ。

そしてこの動きは、田沼意知の心にも火をつける。

仲間制度──つまり、問屋や札差が独占する米の流通構造──。

それを一時的に“解体”することで、値を抑える。

これが米騒動を鎮める決定打となった。

蔦重の書いた狂歌集が、直接流通を動かしたわけじゃない。

でも、蔦重が動いたからこそ、意知も動けた。

世の中を変えたのは“声”だった。

筆一本で時代の空気に風穴を開けた──

それが、蔦屋重三郎という男の“本当の商い”だった。

商才は血か、知恵か──蔦重と母・つよの再会劇

「てめぇ、今さら何しに来やがった」

この一言に、蔦重の過去と現在、そして心の痛みがすべて詰まってた。

だが、それをぶち壊すように現れた女──実母・つよ。

髪結いと本の販促が交差した座敷の瞬間

冷夏と不作のせいで、米は高騰。

そんな中、のこのこ現れたのは、吉原に自分を置き去りにしたはずの母親

いきなり耕書堂の座敷で勝手に髪を結い出す。

「代金は取ってない」と言い張るつよ。

でも、ただの居座りじゃない。

髪結いの合間に、ちゃっかり店の本を渡している。

ここで、蔦重は気づく。

あの母親、ただの“図々しい女”じゃねぇ。

「商い」という言葉を、肌で知っている女だった。

手元の技術で人を引き寄せ、言葉じゃなく“空気”で売る。

それは、まさに蔦重が耕書堂で実践してきたやり方と同じだった。

血か? 環境か?

この瞬間、蔦重という男の「商才」の源流に“母親の存在”が重なる。

「店を使え」母のしたたかさと愛情の裏返し

つよの行動は一貫してた。

「泊まらせてくれ」「店で髪結いやらせてくれ」「飯くれ」──全部が“要求”だ。

だが、その裏にはしたたかさだけじゃなく、「息子の商売をどうにか支えたい」って無言の圧がある。

つよは下野(今の栃木あたり)で髪結いをして生きていた。

不作で食えなくなり、江戸に戻ってきた。

でも、ただ逃げてきたんじゃない。

ちゃんと“稼げる技術”を持って戻ってきた。

そしてそれを、堂々と使った。

商人に必要なのは、言葉でも見た目でもねぇ。

「今、ここで、何をできるか」──それを体現していたのが、つよだった。

蔦重は最初、拒絶してた。

でも、やがて気づく。

この母親、口は悪いし勝手だけど、「生き残る術」を持ってる。

それは、自分が今まで信じてきた「文化商売」とは、別の形で“本質”を突いてた。

“蔦重の血”に流れる、諦めの悪さ

つよのことを、蔦重は“恨んでた”。

でもその母が、「髪を結いながら本を売る」なんて離れ業をやってのけた。

その姿を見て、蔦重は思ったはずだ。

「この女が俺の母親なら、そりゃ俺も、簡単に諦められねぇわな」

血の中に、諦めの悪さがある。

生きるのを投げない執念がある。

文化でも芸でもねぇ、“生き残りの勘”だ。

蔦重の商いは、江戸の最先端だった。

でもその根底には、母・つよから受け継いだ「商魂」があった。

つまり、「何もない時に、どう動くか」っていう、本質的な強さだ。

つよがいたからこそ、耕書堂はブレなかった。

文化は飾りじゃない。

飢えてる時こそ、言葉と芸が必要になる。

その矛盾を理解してたのが、母親であり、蔦重だった。

この再会は、和解じゃない。

「自分の原点と向き合うための儀式」だった。

蔦重が“家族”を、そして“自分”を初めて肯定できた瞬間だった。

「契約夫婦」から「真の夫婦」へ──ていと蔦重の関係進化

夫婦って、紙一枚でなれる。

でも、「心」が交わるには、何枚の壁を越えればいいのか。

蔦重とてい──二人の関係が“契約”から“愛”に変わるまでには、衝立と沈黙が必要だった。

衝立の向こうにいた距離、消えた理由

ていは、耕書堂を支える女将。

そして、“形だけの妻”。

蔦重と同じ部屋に寝ていても、二人の間には衝立があった。

身体よりも、心が遠かった。

蔦重は、ていの静かな献身を見ていた。

でも言葉にしてこなかった。

ていもまた、「この男は私を選んだんじゃない」と思っていた。

だから、踏み込まなかった。距離を保つことで、自分を守った。

その“曖昧な安定”を崩したのが、つよの登場だった。

母に部屋を譲ることで、ていは蔦重と同じ空間に寝るようになる。

物理的な距離は縮まった。でも、心はまだ向き合っていない。

「つまらない女房」であることの誇り

ていは出て行った。

何も告げず、「品の系図」と置き手紙だけを残して。

その文には、「ご多幸と繁盛を心よりお祈り申し上げます」と丁寧な別れの挨拶が書かれていた。

なぜ、出て行ったのか。

ていの答えは、刺さるほど静かだった。

「私は華もない。お母様のように人あしらいもできない。歌さんのような才もない」

──自分は「江戸一の利き者の妻」としてふさわしくない。

ていは、勝手にそう思い込み、自分に見切りをつけた。

けどそれは、間違いじゃなかった。

ていは“つまらない女”であることに、覚悟を持っていた。

派手じゃなく、前にも出ず、でもいつも隙間を埋める。

蔦重が言った、「説教じみた話が面白い」「縁の下の力持ちが好き」──その一言がすべてだった。

“つまらない”は、最大の信頼だ。

蔦重の告白:「誰とも添わぬつもりが、おていさんだった」

ていを追って寺へ向かう蔦重。

階段を駆け上がる姿は、不器用な男の“全力”だった。

息を切らしながら、ようやく伝える。

「俺ゃ、おていさんのことを、つまんねぇなんて思ったことねぇですよ」

そして、決定的な一言。

「一生誰とも添う気はなかったが、俺が目利きした女房がていだ」

この言葉に、ていの目から涙がこぼれる。

この瞬間、二人は「選ばれた」関係になった。

契約じゃない。納得でもない。

覚悟と信頼が交差した、真の夫婦の瞬間だった。

それでも、世間には見えない夫婦かもしれない。

でも、それでいい。

派手な祝言も、絵巻のようなロマンスも、ここにはない。

ただ、確かにそこに「あなたと生きる」と決めた二人がいる。

それが、蔦重とていの「愛のかたち」だった。

狂歌で世を変える──言霊が米の価格を動かす希望

「俺たちゃ米一粒作れねぇが、言霊を投げることはできる」

このセリフが、今回のすべてを象徴してる。

農でもなく、政治でもなく、“文化”で飢饉に立ち向かった男──それが蔦屋重三郎だった。

大田南畝×歌麿×蔦重のトライアングル策謀

蔦重は、ただ騒ぎを見てたわけじゃない。

江戸中に広がる“空気の重さ”を、肌で感じていた。

そして、自分ができることを考えた。

頼ったのは、狂歌師・大田南畝と、絵師・喜多川歌麿。

狂歌集を作る。しかも、ただの娯楽本じゃない。

正月に向けた「歳旦狂歌集」。

読んだ人の心を“ゆるませる”。笑わせる。希望を混ぜる。

「景気が悪い? だったら気だけでも良くしてやろう」

──それが、蔦重の“逆張り”だった。

本の中身は、ただの遊びじゃない。

米不足や商売への風刺、幕府の無策を笑いに変える。

それを笑うことで、民は息をつける。

この発想が、どこか“革命”に近い。

言葉を使って空気を動かし、空気が人を動かす。

それが蔦重の戦い方だった。

田沼意知が得た“仲間制度廃止”という改革の種

蔦重のこの動きは、幕府にも届く。

田沼意知が店を訪ね、狂歌集の草稿を読む。

そこには、ただの笑いじゃなく、“構造への疑問”がにじんでいた。

問屋、札差、米屋。

彼らの“株仲間”という組織が、米を支配していた。

価格操作、売り惜しみ、流通の偏り。

「それを一時的に壊せば、値は下がる」──意知はこの答えにたどり着いた。

これこそが、狂歌が与えた“気づき”だ。

本が直接政策を動かしたんじゃない。

でも、考えさせた。視点を変えさせた。

それで十分だった。

蔦重の“筆の矢”は、ちゃんと幕府の中枢まで届いていた。

言霊は無力じゃない──言葉が人を動かすとき

狂歌は、軽い。

でも、その軽さが必要だった。

暗く、重い時代に、笑えることがどれだけ尊いか。

蔦重たちは、希望を語ったんじゃない。

「諦めてねぇぞ」と言葉で叫んだ。

それが、読み手に伝わった。

読んだ人が、笑って、少しだけ前を向く。

その積み重ねが、“空気”を変える。

文化は、すぐに効かない。

でも、あとから効く。ジワジワ、じんわりと、心の奥で効く。

その一冊の狂歌集が、翌年の江戸を変えたかもしれない。

いや、確実に何かを動かした。

「言葉には力がある」

このセリフがフィクションに聞こえないのは、俺たちがそれを知ってるからだ。

蔦重は叫ばなかった。

ただ、筆で投げた。

──それだけで、十分だった。

ていの家出が意味したもの──決別ではなく覚悟

ていがいなくなった。

それは突然のことじゃなかった。

静かに、何も言わず、でも明確な意思を残して。

置き手紙の「系図」が語る、ていの思いと静かな決意

ていは、ただいなくなったわけじゃない。

「品の系図」と、達筆な手紙を残した。

その文面は、感謝と祈りに満ちていた。

「皆様のご多幸と蔦屋のご繁盛を、心よりお祈り申し上げます」

……なんて強い言葉だ。

“決別”の代わりに、“祈り”を置いていく女。

その手紙には、未練も嫉妬も、見苦しい感情はなかった。

だからこそ、読む者の胸に刺さった。

“系図”──それはていが提案し、自ら手を動かして仕上げた。

彼女がこの店の“女将”である証。

でもその系図を置いていったってことは、「自分の役目は終わった」と思ったからだ。

「私には務まらない」女の劣等感と、それを抱きしめる男

寺の階段を駆け上がる蔦重。

追いついた先で、ていが放った言葉がすべてだった。

「私は、江戸一の利き者の妻なんて務まらない」

「私は華もなく、器量もない。母のような接客も、誰袖のような才もない」

それは、ていの“劣等感”じゃない。

覚悟だった。

自分の足りなさを知ったうえで、それでも支えた女。

そして蔦重は、ついに言葉を投げる。

「俺ゃ、おていさんのこと、つまんねぇなんて思ったことねぇですよ」

「説教じみた話が面白ぇし、陰で支えてくれるとこが、好きでさね」

誰とも添うつもりはなかった男が、

ようやく“自分の女房”を指差して言った。

「おていさんは、俺が目利きして選んだ、たった一人の女房だ」

この言葉は、ていの「器量がない」という思いを、静かに打ち砕いた。

涙がこぼれるてい。

その涙は、悲しみじゃなかった。

ずっと耐えてきた、報われない“努力”が、ようやく認められた瞬間だった。

「ただ、あなたの隣にいたかった」それだけの物語

ていの家出は、逃げじゃない。

諦めでも、駆け引きでもない。

「自分じゃ足りない」と思った時、静かに退いた。

でもその背景には、

「それでも支えたい」「あなたの邪魔にはなりたくない」

──という、誰よりも深い愛があった。

蔦重は、それを受け止めた。

「一緒に生きていく」と決めた。

言葉は少なかったけど、それで十分だった。

これは、“好き”より強い、“選ぶ”という決意の話だ。

ていの家出は、「愛の証明」だった。

帰ってきたのは、ただの妻じゃない。

「支えることを誇りに思える、女将」だった。

意知と蔦重、その“交差点”にあるもの

この回、静かに熱かったのが田沼意知と蔦重のやりとり。

正直、序盤ではここまで“通じ合う関係”になるとは思ってなかった。

でも、米の高騰に悩み、現場を見て、蔦重のもとを訪れた意知の顔は、もう「お上の子息」じゃなかった。

地位も思想も違う。でも“空気を変えたい”は同じだった

意知は特権側の人間。蔦重は現場の人間。

それなのに、蔦重の黄表紙を読んで、意知の目が変わった。

何かを「制度」で変えようとする意知と、何かを「空気」で変えようとする蔦重。

方法は違っても、“どうにかしたい”って気持ちだけは同じだった。

それに気づいた瞬間、意知の中の「行動の芯」が生まれたように見えた。

“学ぶ姿勢”を持った権力者は、信じたくなる

意知って、もともと理想主義的なキャラだけど、それって時に「空回り」になる。

でも今回は違った。黙って蔦重の話を聞き、ちゃんと消化して、具体策に落とし込んだ。

「株仲間を一時廃止する」という発想は、確かに革命的だった。

上からじゃなく、下からの声を拾って、それを政策にする。

──こんな風に“学ぶ権力者”って、なんだかんだ信じたくなる。

蔦重が無言で背中押したような、あの静かなシーン。好きだったな。

【まとめ】三人の女、米騒動、そして蔦重の“変化”が描いた第26話の核心

「三人の女」──その正体は、てい、つよ、誰袖だったかもしれない。

だが本当に描かれたのは、「三つの感情」だった。

“現在”に向き合う覚悟、“過去”への許し、そして“未練”との決別。

ていは今、そばにいる。

つよは、今さら現れた過去。

誰袖は、もう戻らない幻。

その三者を通して、蔦重は初めて「自分が何を選ぶべきか」を見つけた。

一方で、江戸の町では飢えが広がり、騒動が巻き起こる。

それでも蔦重は、筆一本で「空気を変える」ことに賭けた。

笑いの力、狂歌の毒、絵の粋。

その全てを詰めた黄表紙が、

“希望を持つ”ことの尊さを人々に思い出させた。

そして──この回の最大の“変化”は、蔦重自身だ。

愛を知らず、選ばれることも選ぶこともなかった男が、

「選ぶ責任」を背負う男になった。

店を、民を、そして、ていを。

この第26話は、“誰かを信じる”ことの始まりの物語だった。

派手な事件も、劇的なクライマックスもない。

だが、確実に息を呑む回だった。

心が動いた。だから、俺たちはこの回を忘れられない。

言葉は、無力じゃない。

関係は、契約じゃない。

信頼は、選ぶことでしか生まれない。

──それを教えてくれた、べらぼう第26話だった。

この記事のまとめ

  • 天明の米騒動と蔦重の奮闘が描かれる
  • 母・つよとの再会が蔦重の商才の源を照らす
  • ていとの仮面夫婦が「真の夫婦」へ進化
  • 誰袖の不在が蔦重の未練と向き合わせる
  • 狂歌集で世の空気を変える「言葉の反撃」
  • 田沼意知との対話が政策の改革へと繋がる
  • “つまらない女房”の覚悟と誇りが胸を打つ
  • 文化の力が現実を動かす希望を描いた回
  • 派手さはなくとも、心に残る人間ドラマ

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