相棒22 第3話『スズメバチ』ネタバレ感想 なぜ“毒”を孕んだ神回なのか?陣川の涙と擬態する女たちの真相を解剖する

相棒
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「相棒season22」第3話『スズメバチ』は、ただの事件ドラマでは終わらない。

陣川公平という“おなじみの男”が登場し、視聴者はいつもの失恋コースを予感する。しかし今回、物語は予想を裏切り、深く静かに“毒”を吐き出す。

スズメバチの巣のように危険な恋愛関係。擬態しながら生きる女性たちの悲鳴。そして、彼女たちを信じ、寄り添う者の涙。陣川と亀山、そして右京が交差する真実の軌跡を、ここで解き明かす。

この記事を読むとわかること

  • 『スズメバチ』に込められたDVと擬態のリアル
  • 陣川の「引く愛」がもたらした優しさの形
  • 見過ごされた恐怖が招いた真の悲劇の全貌
  1. 陣川が出会った“擬態する女”とは何者だったのか?
    1. 万引き、窃盗、開き直り——その行動の裏に隠されたDVの恐怖
    2. スズメバチに擬態するカミキリムシのように、「加藤から逃れる術」としての擬態
  2. 加藤という“毒虫”が撒き散らしたもの
    1. 2人の女性を追い詰めた男——ストーカーとDVの連鎖
    2. なぜ藤巻英子は「殺すしかない」と決意したのか?
  3. 警察は何を見落としたのか? “無視された恐怖”が引き金を引いた
    1. 交番での“許してあげたら?”発言が生んだ深い絶望
    2. 藤巻英子の復讐は「警察官にスズメバチの恐怖を体験させること」だった
  4. 陣川の涙にこめられた“愛の限界”
    1. 彼女を救いたい、その一心で踏み出した1日だけの約束
    2. 「告白はできなかった」——守るために愛を引いた男の姿
  5. “スズメバチの巣の隣で生きる”ということ
    1. 亀山が語る「恐怖の中に生きる女性」の心情
    2. 右京の推理が導いた「別れたくても別れられない地獄」の構図
  6. 真実を暴くラストシーン——女たちの視線が交わるとき
    1. 公園の夜、2人の女性が目を合わせ、うなずいた瞬間の意味
    2. 右京が待つ「いつでも話す準備ができたときに」の余白
  7. 加藤を止められなかった“周囲の沈黙”という罪
    1. 職場の飲み仲間、サークルの先輩——“いい人”たちはなぜ黙っていた?
    2. “見ないふり”の連鎖が、藤巻英子にナイフを握らせた
  8. 『相棒22 第3話「スズメバチ」』が描いた“優しさと毒”のリアルとは?まとめ
    1. なぜ今回の“陣川回”は視聴者の心に刺さったのか
    2. 擬態、暴力、孤独——そして、それを受け止めた人々の物語
  9. 右京さんのコメント

陣川が出会った“擬態する女”とは何者だったのか?

彼女の名は村岡めぐみ。

喫茶店の元スタッフで、かつての恋人を殺害したかもしれない容疑者。

だが、本当の彼女は、暴力と支配の関係の中で生きるために“擬態”という選択をした、生き延びる術を知る女だった。

万引き、窃盗、開き直り——その行動の裏に隠されたDVの恐怖

喫茶店のレジから金を盗み、万引きを繰り返し、捕まっても逆ギレ。

村岡めぐみの行動は、一見すると自己破壊的な軽犯罪の連続だ。

だが、その裏にあったのは、加藤星也という男から逃れるための「演出」だった

めぐみは告白する。「彼に別れてほしかった。でも、正面から拒絶すれば殴られる」。

だから私は、彼が嫌う女になろうと思った。

繰り返される“微罪”。レジから金を盗み、万引きで捕まりそうになる。彼女は自らの“価値”を下げていった。

加害者からの支配を断ち切るために、あえて「見捨てられる女」を演じたのだ。

その行動のすべてが、DVの恐怖に根差していた。

加藤の支配は暴力だけでなく、日常のすべてに及んでいた。

一日に何度も電話しなければならない。外で別の男と話すと問い詰められる。何をするにも「監視されている」ような感覚。

右京は語る。「それはまるで、スズメバチの巣の隣で暮らすようなもの」と。

刺されるかどうかはわからない。ただ、その恐怖と常に隣り合わせに生きていたのだ。

スズメバチに擬態するカミキリムシのように、「加藤から逃れる術」としての擬態

『スズメバチ』というタイトルは単なる事件現場の描写ではない。

これは、めぐみの生き方そのものを象徴している

亀山は「身を守るためにスズメバチに擬態するカミキリムシ」の話を持ち出す。

それを聞いた右京が頷き、「その可能性もある」と呟く瞬間、事件の“本質”が浮かび上がった。

カミキリムシは、捕食されないように危険なスズメバチの姿に“化ける”。

それは、自らに危害を加える存在を避けるための、本能的な進化だ。

めぐみの行動もまさに同じ。

加藤のような毒虫に近づかれないように、わざと人に嫌われる女を演じていた。

彼女は「擬態」で自分の命を守ろうとしていたのだ。

自分から悪人になり下がること。それが彼女に残された最後の抵抗だった。

生き延びるために「悪女」を演じるしかなかった女性。

彼女の笑顔は偽りで、軽蔑される態度は防衛だった。

右京たちに本心を明かすことができなかったのも、彼女自身が真実を話せば、また加藤のような存在に目をつけられると恐れていたからだ。

そして、そんな彼女に、一日だけ待ってほしいと願い出た男がいた。

——陣川公平。

陣川はナイフを発見していた。

それが凶器であるかもしれないと知りながらも、警察に渡さず、自らの手で彼女を“説得”しようとしていた。

愛ではない。ただ「信じた」から

彼女が“擬態”をやめる日は来るのか。

そして、彼女を毒虫から守れる「本物の優しさ」はこの世にあるのか

それが、この『スズメバチ』という物語が突き付けた静かな問いなのだ。

加藤という“毒虫”が撒き散らしたもの

この物語には、ひとつの“巣”がある。

それは加藤星也という男の支配と暴力によって築かれた、見えないスズメバチの巣だ。

めぐみも、そして藤巻英子も、その巣の周囲で羽を畳み、息を潜め、怯えながら暮らしていた。

2人の女性を追い詰めた男——ストーカーとDVの連鎖

加藤は、IT企業に勤める一見“エリート”だった。

だが、その裏の顔は、恋人を所有物のように扱い、従わせ、支配する歪んだ自尊心の塊

村岡めぐみは一日に何度も彼に連絡を強制され、外で男と話せば咎められる。

「男に媚びやがって」と怒鳴る加藤の目には、愛など一片もなかった

藤巻英子も、かつて同じスズメバチの巣の中にいた。

8年前、大学のサークルで加藤と交際していた英子は、ある日首を絞められ、命の危機を感じて交番へ逃げ込んだ。

しかし、加藤は追いかけてきてその場で土下座。そして、警察官はこう言った。

「彼氏も反省してるようだし、許してあげたらどう?」

その瞬間、藤巻英子の心の中で何かが死んだ

警察に見捨てられた英子は、国外逃亡という形で生き延びた。

アメリカに渡り、研究者としての道を歩み、ようやく手にした平穏と栄誉。

だが、ヴェーラー賞という勲章が、皮肉にも加藤に彼女の居場所を知らせる“看板”となった

英子は帰国し、再び加藤を“視界の端”で目撃する。

そして、彼の隣にまた別の女性——村岡めぐみがいるのを見た。

英子は思った。「また誰かが、私と同じ目に遭っている」と。

なぜ藤巻英子は「殺すしかない」と決意したのか?

最初は、確認だった。

英子は加藤の部屋に盗聴器を仕掛けた。

変わっているかもしれない、もう暴力を振るうような人間じゃないかもしれない——そう願った。

だが録音されたのは、怒声、支配、脅し、そして、何も変わっていない現実だった。

英子は震えながら思った。

「この男が生きている限り、誰かがまた壊される」

——その“誰か”が村岡めぐみであることも、すぐに分かった

偶然に見えた万引きの現場。

それは英子にとって、かつての自分の“未来”だった。

めぐみの開き直り、警察を拒む態度、そして「彼氏が払うから」と叫ぶセリフ。

それは、DVを受ける者が身を守るために獲得した“擬態”だった

英子の中で、1つの選択肢しか残らなかった。

——駆除するしかない

彼女はナイフを手に取り、公園に加藤を誘い出した。

刺し、引きずり、スズメバチの巣の前に遺体を置いた。

その行動は、ただの殺人ではない。

彼女が8年前に受けた警察の無理解へのささやかな復讐でもあった。

わざわざ交番に出向き、「あの男は死んでいない、眠っているだけ」と伝えた。

それはかつて自分が味わった「いつ危害を加えられるかわからない恐怖」を、あの警察官に体験させたかったからだ。

右京に「近づいたのは私たちです」と告げられたとき、英子の目から涙が流れた。

その涙は、「ありがとう」でも「ごめんなさい」でもない。

それはスズメバチの巣からようやく逃げ出せた者だけが流せる、安堵の涙だった。

この回で描かれたのは、ただの殺人事件ではない。

暴力の連鎖を断ち切るには、被害者の勇気だけでは足りない

傍観していた者、見て見ぬふりをした警察、声を聞こうとしなかった社会。

すべてが「毒虫・加藤」を野放しにした。

だから英子は、自ら手を汚した。

その罪の重さと同じだけ、彼女の行動は痛切だった

警察は何を見落としたのか? “無視された恐怖”が引き金を引いた

この物語の影には、ひとつの“罪”が潜んでいる。

それは、加藤星也が犯した暴力でも、英子が犯した殺人でもない。

人の声を聞かず、恐怖を見ようとしなかった者たちの「無関心という罪」だ。

交番での“許してあげたら?”発言が生んだ深い絶望

英子が最初に助けを求めたのは、交番だった。

加藤に首を絞められた直後、英子は駆け込んだ。

だが、追ってきた加藤は土下座し、涙を流しながら「もうしない」と訴えた

その時、交番の警察官・佐川が言った言葉はあまりに軽かった。

「彼氏も反省してるようだし、許してあげたら?」

その一言は、暴力の加害者を免罪し、被害者の心を踏みつけた

それは加藤の暴力よりも鋭い刃だった。

英子は、この国では「恐怖」は証拠にならないと悟った。

見えない傷は、誰にも信じてもらえない

この時から彼女の中で、「守ってくれない警察」というイメージが深く刻まれた。

そして、その記憶が、やがて“怒り”という名の刃に変わる。

右京と亀山は、その交番を訪ね、当時の警察官・佐川に再び会う。

「なぜ電話ではなく、わざわざ交番に通報しに来たのか?」

右京の問いかけに込められた疑念。

それは、英子が仕掛けた“もう一つの事件”の伏線だった

藤巻英子の復讐は「警察官にスズメバチの恐怖を体験させること」だった

加藤を刺した後、英子は遺体を“スズメバチの巣”の傍に運び置いた。

それは偶然でも狂気でもなかった。

「あの時、自分の恐怖を軽んじた佐川に、それと同じ恐怖を味わわせる」——それが彼女の真の目的だった。

英子は、通報を電話ではなく、交番で“直に”行った。

「死んでいない。眠っているだけです」

その言葉は、佐川を現場に駆けつけさせ、決断を迫るための“罠”だった。

あの夜、遺体は毒虫に囲まれたように見えた。

だが本当に怖かったのは、「生きているかもしれない」という疑惑だった。

もし死んでいなければ、すぐに近づかねばならない。

近づけばスズメバチに刺されるかもしれない

——そう、それが英子の望みだった。

「私が感じた“いつ殺されるかわからない恐怖”を、あの男にも体験させてやりたかった」

英子は右京たちにそう告げ、涙をこぼす。

だが、現場に近づいたのは佐川ではなかった。

右京と亀山だった。

英子が「近づいたのは?」と問うと、亀山は静かに答えた。

「俺たちだよ。あの警官は…来なかった」

英子の復讐は、成就しなかった

それでも、右京のその言葉には、もう一つの意味が含まれていた。

「君の恐怖は、俺たちが受け取った」という優しさだ。

英子は泣いた。

それは「報われなかった」涙ではない。

ようやく、誰かが自分の恐怖を理解してくれた——その事実に触れた涙だった。

『スズメバチ』という回は、スリリングな事件劇ではない。

これは、誰にも信じてもらえなかった被害者が、自分の“痛み”をようやく語れた物語だ。

その証言を、右京たちが真正面から受け止めたからこそ、物語は“終わり”を迎えた。

陣川の涙にこめられた“愛の限界”

陣川公平という男は、いつもどこか滑稽で、悲劇的で、優しすぎる。

『相棒』シリーズにおいて、恋に敗れ続ける“哀しき名脇役”として知られてきた。

だが第3話『スズメバチ』で描かれた陣川は、いつもの失恋喜劇を超えていた。

その行動、その涙には、「愛が届かないと知っていながら、それでも守りたい」と願う男の決意が宿っていた。

彼女を救いたい、その一心で踏み出した1日だけの約束

陣川が特命係にやってきたのは、恋の相談ではなかった。

それは、DVの恐怖に晒されている村岡めぐみという女性を、何とか助けたいという“純粋すぎる願い”からだった。

彼は彼女の部屋で凶器らしき折りたたみナイフを見つけながら、警察には渡さなかった。

そして右京たちに言ったのだ——「1日だけ、時間をください」と。

それは、陣川なりの覚悟だった

法律の枠を超え、自分自身が彼女を説得し、自首へと導こうとした。

それは職務を逸脱しているかもしれない。

だが、彼は彼女の「誰にも信じられない」という目を見て、“信じることの力”を届けようとしたのだ。

そして、その裏にあったのは、彼女への一途すぎる恋心である。

彼はめぐみに恋をした。

でも、決してそれを彼女に押し付けることはなかった。

ただ守りたかった。彼女がこれ以上誰にも傷つけられないように

「告白はできなかった」——守るために愛を引いた男の姿

事件が解決した夜、陣川は「こてまり」で泥酔していた。

いつも通りの“酒癖の悪さ”だが、その姿はどこか違っていた。

右京と亀山に絡みながら、ぽつりと漏らした言葉。

「本当は、告白したかった。でも…できなかった…」

それは、自分の想いよりも、彼女の心の安全を選んだ男の言葉だった。

めぐみは、男性に支配され、恐怖と痛みの中で生きてきた。

そんな彼女に、いま「好きです」と伝えることが、どれほど無神経で、暴力的でさえあるかを彼は理解していた

だから彼は引いた。

自分の愛を差し出すことを選ばず、彼女の前に“静かに立つ”という愛し方を選んだ。

そして別れ際、彼はこう言った。

「あなたのこと、強い人だと思ってます。だから大丈夫。前に進めますよ」

その声は震えていた。

愛が届かないことを知っている者だけが持つ、優しい諦めの震えだった。

恋とは、求め合うことだけがすべてじゃない。

相手の心の痛みを知り、自分の想いを封じることも、愛のかたちの一つなのだ。

陣川の涙は、報われない愛の痛みではない。

それは「守るために想いを伝えない」という、誰にも気づかれない献身だった。

この夜、誰よりも大人だったのは、陣川公平だった。

“スズメバチの巣の隣で生きる”ということ

人は簡単に言う。「別れればいいじゃないか」「逃げればいいじゃないか」

だがそれは、スズメバチの巣の真横に住んでいる人間に「もっと大きな声で笑えばいい」と言うのと同じだ。

刺されるかもしれない——その恐怖が、毎秒、鼓動のように心を叩く。

それでも黙って暮らすことしかできない。

この第3話『スズメバチ』が描いたのは、まさにその感覚だった。

亀山が語る「恐怖の中に生きる女性」の心情

喫茶店で、コンビニで、そして交番の前で——村岡めぐみは、常に“見られていた”。

加藤という毒虫に。

彼女は彼の電話に必ず出なければならなかった。

男と話せば問い詰められ、失職すれば追及され、怒りを買えば暴力が来る。

だから彼女は擬態した。「嫌われる女」を演じた

事件後、めぐみの部屋を出た亀山は、ふと口にする。

「めぐみさんの暮らしってさ……スズメバチの巣の隣に住んでるみたいだったんだろうな」

その比喩は、軽く聞こえるが、重い

スズメバチは、何もしなければ襲ってこない。

だが“何もしなかった”のに刺されたという人間も、世の中にはごまんといる。

その恐怖の中で暮らすというのは、自分という存在を、音も色もない存在に変えるということだ。

笑わず、声をあげず、人と目を合わせず。

自分が“刺激”にならないよう、空気に溶け込むようにして生きていく。

亀山のその一言は、彼女の痛みを「自分の感覚」として捉えた者の言葉だった。

それが、右京を動かした。

右京の推理が導いた「別れたくても別れられない地獄」の構図

右京は考えた。

なぜ、めぐみは加藤と別れられなかったのか?

なぜ、「被害者」なのに「加害者」のような行動をしたのか?

その答えは、DV加害者の特徴である「拒絶型ストーカー気質」にあった。

右京は語る。

「自尊心が傷つくと、自分の全てを否定されたように感じ、相手に報復を試みる。それが拒絶型です」

加藤は、めぐみが去ることを“敗北”と感じていた。

だからこそ、彼女が自分から離れようとすると、より支配を強めていった

電話、監視、嫉妬、怒鳴り、そして暴力。

それが彼にとっての「愛情表現」だった。

だがそれは、めぐみにとっては生き地獄だった

めぐみが選んだ“擬態”は、彼の支配から抜け出すための手段だった。

でも、それは「犯罪の常習者」に見えるリスクを伴う。

その結果、彼女自身が加害者のように扱われていく

この構図は、DV被害者が現実に直面している“出口のない迷路”そのものだ。

逃げれば追われ、訴えれば信じてもらえず、反撃すれば罪に問われる。

だから、多くの人は黙って、耐える。

右京は、その構造を暴いた。

彼の推理は、犯罪の真相だけでなく、「社会の見えない盲点」までも照らし出す

別れられなかったのではない。

“別れたくても、別れた瞬間に命が危うくなる”と知っていたからこそ、めぐみはそこに留まっていたのだ。

スズメバチの巣の隣で生きるというのは、今日も生き残るために、自分をすり減らす毎日のことだ。

そして『相棒』は、それを「殺人事件」という仮面の下に描き切った。

真実を暴くラストシーン——女たちの視線が交わるとき

この回の核心は、銃声でもナイフでもない。

あの夜、公園で交差した二つの視線——そこにすべてがあった。

語られなかった“共犯”のような沈黙。

だが、そこに込められていたものは、「罪」ではなく、“理解”と“選択”だった

公園の夜、2人の女性が目を合わせ、うなずいた瞬間の意味

村岡めぐみはナイフを持っていた。

加藤を呼び出し、「今すぐ会いたい」と言った。

あの夜、彼女は決意していた。

もう恐怖から逃れるには、自分の手で終わらせるしかないと

だが、その瞬間、加藤の叫び声が響く。

——すでに藤巻英子が、ナイフを振るっていた。

めぐみは、その場に立ち尽くす。

英子と目が合う。

そして、わずかにうなずく

そこにあったのは、共犯ではない。

「わかるよ」「あなたも、私も、ここまでだったね」という、言葉なき共感

誰も救ってくれなかった。誰にも信じてもらえなかった。

だから、自分たちで終わらせるしかなかった。

その一瞬、2人は加藤の暴力から解き放たれた。

スズメバチの巣の中で生きていた2人が、ようやく外の空気に触れた瞬間だった。

右京が待つ「いつでも話す準備ができたときに」の余白

事件の真相は、法的には曖昧に終わった。

めぐみは殺していない。

しかし、右京はすべてを見抜いていた。

「あなたが何かを語りたくなった時は、いつでも我々は待っています」

——それが、右京の最後の言葉だった。

“暴く”ことをやめ、“信じて待つ”という優しさ

真実は証拠で固められるべきものだ。

だがこの事件では、“語られない真実”の方が、遥かに雄弁だった

めぐみがナイフをしまった瞬間。

英子が刺した後、あえて交番に向かった理由。

すべてが説明されなくても、その行動の中に「痛み」と「選択」が詰まっていた

右京はそれを、裁かない。

ただ、待つ。

彼女が言葉にできるようになる日まで、ただ静かに。

この「余白」こそ、今回のエピソードが深く刺さる理由だ。

視聴者の心に問いを投げかけたまま、決着を描かない。

“あなたなら、この結末をどう受け止めるか?”と問いかけている

陣川は言う。「あなたは、強い人だと思ってます」

それは、加害者の手から解き放たれても、なお自分で“罪を抱え込もうとする”彼女への、最大の敬意だった。

『スズメバチ』は、事件を解決した話ではない。

声を出せなかった人の声を、ようやく誰かが受け止めた物語だ。

そしてそのラストシーンの“沈黙”が、何より雄弁に響くのだ。

加藤を止められなかった“周囲の沈黙”という罪

英子がナイフを握るまでに、止めるチャンスは何度もあった。

けれど、誰も動かなかった。

“まさか、あいつが”と口を揃えた人たちは、本当に何も知らなかったのだろうか

職場の飲み仲間、サークルの先輩——“いい人”たちはなぜ黙っていた?

英子が加藤から逃げようとした8年前、彼女は確かに声をあげていた。

交番にも駆け込んだし、周囲にも異変に気づいていた人はいたはずだ。

それでも彼女は「土下座して謝ってるし、許してあげたら?」のひと言で、その場から追い返された。

サークルの先輩も、職場の同僚も、誰もが「加藤は真面目そうだった」と口にする。

でもそれは、“加藤にそう思いたかった自分たち”を守る言葉に過ぎない。

DV加害者は、外では“普通の顔”でいる

だからこそ、周囲の誰かが「本当は気づいてた」ことを認めなければ、この構図は何度でも繰り返される。

見て見ぬふりをした“いい人たち”が、加藤を生かし続けた

“見ないふり”の連鎖が、藤巻英子にナイフを握らせた

英子が刺したのは加藤ひとりでも、怒りの矛先はそこだけじゃなかった。

刺したあとに通報し、交番を指名し、わざわざ現場に来させた——それは偶然じゃない。

彼女が見せたかったのは、「あの時、わたしの恐怖を軽んじた人たち」への、ある種の“再現”だった。

「死んでいないかもしれないから、近づかないといけない」

その状況に、かつての自分を重ねたんだと思う。

“生きている恐怖”を、ようやく誰かに共有させたかった

英子にとっては、加藤を刺すことだけが目的じゃなかった。

無関心でい続けた人たちにも「見せつけること」が、本当の目的だったのかもしれない

右京が見抜いたように、この事件の鍵は「証拠にならなかった恐怖」だ。

英子も、めぐみも、助けを求めていた。

でもその声が届くには、あまりにも社会は鈍感で、無責任だった。

『スズメバチ』が描いたのは、暴力の連鎖ではない

それを見過ごした人々の、“何もしなかった罪”だった。

『相棒22 第3話「スズメバチ」』が描いた“優しさと毒”のリアルとは?まとめ

『スズメバチ』というタイトルが示す通り、今回の『相棒』は「毒」と「恐怖」を静かに描いたエピソードだった。

だがその中には、鋭くて痛いだけではない、人間の優しさの輪郭も確かに浮かび上がっていた。

視聴者の心を深く刺したのは、犯人の行動でも、トリックの巧妙さでもない。

声を出せないまま苦しんできた人々に、静かに寄り添う“誰か”がいたということ

なぜ今回の“陣川回”は視聴者の心に刺さったのか

“おなじみの陣川回”は、いつも恋の喜劇で終わる。

だが、今回は違った。

陣川という人物が、真に「他者の痛み」を引き受けようとしたからだ。

めぐみの部屋で見つけたナイフ。

それを届けることも、告白することもせず、ただ「1日だけください」と頭を下げた男の姿。

愛の押しつけではない。想いを引くことでしか守れないものがあると理解していたからこそ、あの涙はリアルだった。

いつも失恋して酔っ払う“お約束の陣川”が、今回は誰よりも成熟した「大人」として描かれた

それこそが、視聴者の記憶に深く刻まれる理由だ。

擬態、暴力、孤独——そして、それを受け止めた人々の物語

めぐみは、自分の価値を落とすことで加藤から逃れようとした。

英子は、警察に裏切られた記憶を胸に、再び誰かが壊されるのを止めようとした。

2人はどちらも「声を上げなかった」のではない。

上げた声が届かない世界で、沈黙を選ばされたのだ。

だがその沈黙を、右京と亀山が丁寧に解いていく。

言葉を急かさず、ただ「待つ」。

理解しようとする気配に、めぐみは少しだけ“人間の形”を取り戻す。

このエピソードが描いたのは、「暴力」ではない。

暴力が終わったあとに残る“無音の傷跡”だった。

そして、それを受け止めたのは誰か?

  • 自らの恋心を封印し、そっと背を向けた陣川
  • めぐみの擬態に気づいた右京
  • スズメバチに例えて、彼女の恐怖を“自分のこと”として感じた亀山

“毒”に触れても、誰かを裁かず、ただそばにいるということ

それが、『相棒22 第3話「スズメバチ」』が放った、静かで痛切なメッセージだった。

傷ついた者の声は、誰かが“耳を傾ける”と知ったときにだけ、ようやく言葉になる。

だからこの物語は、終わったあとに——ふと、自分の大切な誰かを守りたくなる。

それが、この回が“名作”と呼ばれる理由だ

右京さんのコメント

おやおや…またしても、人間の心の深淵を覗き込むような事件でしたねぇ。

一つ、宜しいでしょうか?

この事件の本質は、加藤星也という男の暴力性にあるのではありません。

問題は、彼のような人物が、誰からも制止されず、社会の中で“普通の人間”として振る舞えていたという事実にございます。

藤巻英子さんは、かつてその暴力に晒され、逃げるように国を離れました。

それほどの恐怖を訴えても、警察は「許してあげたら」と促し、周囲の人々は見て見ぬふりを決め込んだ。

つまり、暴力の加害者だけでなく、それを許した“沈黙の共犯者たち”こそが、彼女にナイフを握らせたのです。

なるほど。そういうことでしたか。

彼女が仕掛けたのは、殺人だけではありません。

「信じてくれなかった人々に、恐怖の正体を突きつけること」こそ、彼女が望んだ“真実の告白”だったのでしょう。

ですが、法の下で裁かれるべき罪と、社会が向き合うべき痛みは、必ずしも一致いたしません。

僕は思います——声を上げた人に耳を傾ける社会であれば、誰も刃物を握らずに済むのだと。

いい加減にしなさい!

形ばかりの反省や、目を逸らす“善人面”で済ませようとする姿勢。

それこそが、スズメバチよりも恐ろしい“無関心”という毒なのです。

それでは最後に。

——この事件を防げたとすれば、それは一杯の紅茶と、真摯な対話だったのではないでしょうか。

今宵もアールグレイを淹れながら、心の奥に潜む“擬態”と向き合ってみることにいたします。

この記事のまとめ

  • DVから逃れるため擬態する女性の心の叫び
  • 藤巻英子が加藤を刺した真の動機
  • 警察の無理解が生んだ静かな怒り
  • 陣川が示した「想いを引く」優しさのかたち
  • スズメバチの巣=支配と恐怖に満ちた関係性
  • “共犯者”は沈黙を貫いた周囲の人々
  • めぐみと英子、二人の女性が交わした無言の共感
  • 右京が提示した「聞くこと」の大切さと余白
  • 事件を通して問いかけられる“無関心という毒”

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