ボーダレス第4話は、ネタバレ込みで言うなら事件の真相よりも、かたせ梨乃の極妻ショーが全部持っていった回だった。
感想としては、犯人が家事代行サービスの二人だとわかっても、正直そこに驚きは薄い。むしろ獅子縞龍子の圧、緑川との再会、蕾を亡き息子に重ねる湿っぽさのほうがよほど記憶に残る。
そして家田荘子の出演で、エセ極道とは言えない空気まで乗っかってしまった。茶番なのに妙な本物感があり、本物感があるのに話はずっと軽い。このチグハグさこそ第4話の味でもあり、弱さでもある。
- ボーダレスで龍子の圧が事件を食った理由
- 家事代行サービス二人が犯人に落ちた流れ
- 家田荘子出演で極道感が増した濃さ
事件より龍子の圧が勝った
殺人事件を追っているはずなのに、画面の中心にいたのは犯人でも凶器でもなく、獅子縞龍子だった。
不当逮捕だと噛みついた女が、なぜか高級弁当と手に入らない日本酒で捜査員をもてなす。
この時点で刑事ドラマの空気は半分ほど崩れ、かたせ梨乃のための座敷芝居に変わっていた。
犯人よりも先に記憶へ残るかたせ梨乃の存在感
龍子が出てきた瞬間、事件の輪郭が一度ぼやける。
本来なら、東京と埼玉の境で見つかった二つの遺体、ロマンス詐欺、短刀、家事代行サービスという材料を一つずつ積み上げていくべきなのに、視線が全部あの女に吸われる。
「誰が殺したか」より「この女は何を隠しているのか」のほうが強くなるからだ。
しかも龍子は、わかりやすく悪人顔をしていない。
冷たい目で人を値踏みするくせに、蕾を見ると急に体温が出る。
亡くした息子を重ねているとわかると、あの過剰なもてなしも、妙に芝居がかった関西弁も、ただのサービス精神ではなくなる。
龍子は犯人ではないかもしれないが、事件を支配している女ではある。
これが面倒くさい。
犯人ではない人物が一番濃いと、ミステリーは歪む。
だがドラマとしては、その歪みが妙においしい。
かたせ梨乃が座っているだけで、警察署の空気が料亭の奥座敷みたいに変わる。
赤瀬や美青が捜査の手綱を握っているようで、実際は龍子の間合いに付き合わされている。
不当逮捕だと騒いだ相手が、次の瞬間には宴を開く。
その意味不明さにツッコミを入れる前に、「まあ、この人ならやるか」と思わせる押しの強さがある。
ここが濃い。
- 龍子の家にある短刀が、ただの小道具ではなく過去の匂いを背負っている。
- 蕾に向ける視線だけ、極道の妻ではなく息子を失った母親の湿度になる。
- 緑川との再会で、警察と裏社会の古い貸し借りまでにじむ。
極妻ノリを笑えばいいのか、乗ればいいのか問題
正直、龍子の関西弁はかなり危うい。
「いかにも」すぎる。
あまりにも極道映画の記号を背負っているから、現代の刑事ドラマにそのまま放り込まれると、画面から少し浮く。
でも、ここが厄介で、浮いているからつまらないとは言い切れない。
むしろ周囲の刑事たちが普通に捜査しているぶん、龍子だけが別ジャンルの風を吹かせてくる。
そこに変な中毒性がある。
高級弁当、日本酒、元組長の妻、警察との昔のつながり、短刀、亡き息子。
全部がベタだ。
ベタもここまで堂々と積まれると、逆に逃げ場がなくなる。
笑うには濃すぎるし、真面目に見るには芝居が大きすぎる。
その中間で、視聴者は妙な顔をしながら見続けることになる。
緑川が龍子に「殺してないんだろ?」と踏み込む場面も、言葉だけならかなり重要だ。
長年の関係があるからこその問いであり、ただの容疑者扱いではない。
だが、かたせ梨乃と北大路欣也が向かい合うと、もう台詞の意味以前に画面の圧が勝つ。
この二人が再会したという事実だけで、事件の説明が一段後ろに下がる。
若い刑事たちが頑張っても、この濃さには勝てない。
それが良いのか悪いのかは別として、記憶には残る。
家田荘子の庭師登場で妙な説得力が出てしまう
そして庭師で家田荘子が出てくる。
ここで完全に逃げ道を塞がれた。
龍子の極道めいた空気を「ちょっとエセっぽい」と茶化したくなるのに、その横に家田荘子を置かれると、途端に冗談の足元がぬかるむ。
極道、任侠、裏社会という言葉がただのドラマ的な飾りではなく、取材者の影を連れてくるからだ。
出番の大きさではない。
存在そのものが、あの家の庭に変な重みを落としている。
結果、龍子のキャラクターがますます判定不能になる。
大げさなのか、本物なのか。
古い映画の残り香なのか、令和の刑事ドラマにあえて持ち込んだ異物なのか。
エセと言いたいのに、エセと切り捨てるには周辺の配置が妙に本気。
ここが一番ずるい。
犯人探しの緊張感はそれほど強くない。
家事代行サービスの二人が怪しい流れも、あとから振り返ればかなり素直だ。
だが龍子の屋敷まわりだけ、妙に情報量が多い。
短刀がある家。
警察の大物と昔を知る女。
息子を失ってなお、他人の若者に情を移す女。
その庭に家田荘子がいる。
この組み合わせだけで、普通の事件ものでは出せない濁りが出る。
だから、犯人が誰かよりも、龍子という女の背中に何がこびりついているのかを見てしまう。
殺人の真相より、過去の匂いのほうが濃い。
それがこのドラマの狙いかどうかは知らない。
ただ、少なくともこのパートでは、捜査よりも龍子の圧が勝った。
勝ってしまった。
犯人は家事代行サービスの二人だった
真相だけ抜き出せば、犯人は家事代行サービスの二人。
龍子の屋敷に入り込み、金持ちの家の情報を流し、最後は欲と保身で殺人まで踏み越えた。
ただし、この犯人像が弱く見えるのは、動機が浅いからではなく、龍子の存在が濃すぎたからだ。
ロマンス詐欺の情報屋から殺人犯へ落ちた流れ
殺された中吹大空と公神漣は、ただの被害者ではない。
ロマンス詐欺に絡んでいた男たちで、そこへ金持ちの家の情報を流していたのが家事代行サービスの二人だった。
家に入れる仕事は怖い。
玄関の広さ、置いてある時計、金庫の気配、家族構成、生活リズム、そういうものを一番自然に見られる。
警察でも探偵でもない人間が、掃除や片付けの顔をして、家の内側を知っていく。
家事代行という善意に見える入口が、犯罪の下見になっていたわけだ。
ここはかなり嫌な生々しさがある。
知らない人間を家に入れる気持ち悪さを、ドラマはさらっと出してくる。
だが、その後の転落が少し早い。
情報を売っていた二人が、取り分を上げてもらおうとして、逆に脅される。
そこで引くでも逃げるでもなく、龍子の家にあった短刀で刺す。
小悪党の破滅としてはわかる。
欲をかいた人間が、相手の怖さを見誤って、最後に自分のほうが怪物になる。
ただ、画面の中では犯人の焦りや追い詰められ方がそこまで濃く描かれないから、真相が明かされても「なるほど」止まりになる。
事件の流れを整理すると、かなり俗っぽい。
- 家事代行サービスの二人が、金持ちの家の情報を中吹と公神に流す。
- 情報の見返りが物足りなくなり、取り分を上げろと迫る。
- 逆に脅され、龍子の家にあった短刀で二人を殺す。
- 龍子は真相に気づきながら、すぐには語らない。
取り分でもめて短刀に走る、雑だけどわかる小悪党感
犯人の二人に大義はない。
復讐でも、守りたい誰かのためでも、長年の恨みでもない。
金だ。
しかも大金を奪う側の人間になりきれず、情報を流すだけの半端な位置にいる。
ここが逆にいやらしい。
悪党としての覚悟もないのに、犯罪の汁だけ吸おうとする。
そのくせ、相手から脅されると一気に被害者ぶる。
一番たちが悪いのは、自分を悪人だと思っていない悪人だ。
家事代行の二人はまさにそこにいる。
「ちょっと情報を渡しただけ」「まさかこんなことになるとは思わなかった」と言い訳できる位置に立っていたはずが、短刀を持った瞬間に戻れなくなる。
龍子の家にあった短刀を使ったのも、かなり皮肉が効いている。
あの短刀は龍子の過去や極道めいた空気を背負う道具に見えていた。
ところが実際に血をつけたのは、裏社会の大物ではなく、家の中へ静かに入り込んでいた生活サービス側の人間。
派手な看板を背負った龍子ではなく、地味な顔をした二人が殺していた。
その落差は悪くない。
ただ、犯人が地味なら地味なほど、そこに至るまでの嫌な蓄積がもっと欲しかった。
二人が中吹たちに舐められていた描写、金への執着、龍子に優しくされたことで生まれた後ろめたさ。
そこをもう少し見せていたら、逮捕の瞬間にもっと苦い味が出たはずだ。
龍子が黙っていた理由のほうが事件より重い
本当に引っかかるのは、犯人が誰かより、龍子が知っていながら黙っていたことだ。
家事代行サービスの二人は、龍子にとって単なる使用人ではなかった。
よくしてくれた人たちだった。
電話をかけてきた男も優しかった。
この「優しかった」が厄介なのだ。
人は、善人か悪人かで他人を見切れない。
自分に茶を出してくれた人間、自分の孤独を少しだけ埋めてくれた人間が、他所では平気で人を食い物にしていることがある。
龍子はその残酷さを知っている。
だからこそ、すぐに警察へ差し出せなかった。
龍子の沈黙は、犯人隠しというより、情を捨てきれない老いた女の敗北に見えた。
ここが事件の芯だった。
極道の妻として冷酷に振る舞える女が、自分に優しかった人間を前にすると判断が鈍る。
強い女の弱さを、殺人事件の端に置いている。
だから真相が明かされたあとも、スカッとはしない。
悪いやつが捕まった、終わり、ではない。
龍子の屋敷に残ったものは、短刀の血よりも、優しさに裏切られた感触だ。
その苦さだけは、犯人二人の薄さを超えて残った。
龍子が蕾を見る目だけ急に生々しかった
龍子の芝居がかった圧の中で、妙に生々しく刺さったのが蕾への視線だった。
あれは若い刑事をからかっている目ではない。
亡くした息子の面影を勝手に見つけて、勝手に痛んで、勝手に情を流し込んでいる女の目だった。
亡き息子を重ねるには蕾が綺麗すぎる
龍子が蕾を気に入る流れは、かなりベタだ。
亡くなった息子が二十五歳で、蕾にその影を重ねる。
母親の喪失と若い男の無垢さをぶつける、昔からある型ではある。
ただ、蕾があまりにも綺麗に置かれているせいで、龍子の感情が少し怖くなる。
刑事として聞き込みに来た相手なのに、龍子の中ではいつの間にか「息子の代わり」に近づいている。
本人の人格より、失った誰かの穴を埋める器として見てしまう感じがある。
龍子の優しさは、蕾本人に向けられているようで、実は過去の息子に向かっている。
ここが切ないし、同時に身勝手でもある。
蕾は龍子の息子ではない。
警察官であり、事件の真相を聞き出すためにそこにいる。
それでも龍子が「あの子」に近いものを見てしまうのは止められない。
人間の弱さとしてはわかる。
わかるからこそ、見ていて少し胸がざらつく。
龍子ほど強い顔をした女でも、息子の死には勝てない。
極道の妻みたいな貫禄をまとっていても、母親としての穴は埋まらない。
高級弁当や日本酒で人を支配する女が、蕾の前では支配する側ではなく、過去に縛られている側になる。
この落差だけは、事件の説明よりずっと濃かった。
ノイズ設定が便利なのか、まだ武器になりきらないのか
蕾が龍子と向き合う場面で、またノイズが出る。
嘘や違和感に反応するような描写として使われているが、まだドラマの武器になりきっていない感じがある。
ノイズが聞こえること自体は、捜査ものとして便利だ。
相手が何かを隠していると視聴者に教えられるし、蕾だけが気づく特殊な視点にもなる。
ただ、便利すぎる能力は危ない。
ノイズが鳴れば怪しい、鳴らなければ信じていい、みたいな単純な装置になると、刑事たちが考える楽しみを奪ってしまう。
ノイズは答えを出す機械ではなく、蕾の迷いを深める音であってほしい。
龍子の場合、そこが少し面白い。
彼女は完全な嘘つきではない。
家事代行サービスの二人について「世間話をするだけ」とかわすが、そこには嘘もあり、情もあり、言いたくない本音もある。
だからノイズが鳴る。
だが、その音だけで龍子を断罪できない。
むしろ蕾は、ノイズの奥にある人間の濁りを聞かなければいけない。
ここで蕾がただの若手刑事ではなくなる可能性がある。
嘘を見抜くのではなく、なぜその人間が嘘をつくのかまで拾えるなら、蕾はかなり化ける。
龍子の沈黙には、犯人をかばうだけではない湿った理由がある。
その湿りを聞き分けられるかどうかが、蕾の刑事としての値打ちになる。
桃子と蕾をお似合い扱いする雑な置き土産
最後に龍子が桃子と蕾へ「あんたらお似合いやで」と言う。
ここは笑うところなのか、今後の関係性を匂わせるところなのか、かなり雑に放り込まれた感じがある。
龍子から見れば、若い二人が並んでいるだけで眩しいのだろう。
自分が失ったもの、もう戻らない時間、息子が生きていたら見られたかもしれない未来。
そういうものを、桃子と蕾の距離に勝手に重ねている。
だから軽口に見えて、実は少し寂しい。
龍子の「お似合い」は恋愛の茶化しではなく、若さへの嫉妬と祝福が混ざった一言に聞こえた。
とはいえ、桃子と蕾の関係をそこで急に動かされても困る。
二人の空気はまだ、恋愛で盛り上げるより捜査の相棒感を育てたほうがいい。
桃子には桃子の踏ん張りがあり、蕾には蕾の不安定な感覚がある。
そこを安易に「お似合い」でまとめると、せっかくのバディ感が薄くなる。
ただ、龍子がそう言いたくなる気持ちはわかる。
あの女は、蕾に息子を見て、桃子に息子の隣にいてほしかった誰かを見ている。
事件の真相が明らかになっても、龍子の中の時間はまだ二十五歳の息子で止まったままだ。
だからこそ、最後の軽口は軽くない。
雑に聞こえるのに、奥で喪失が鳴っている。
このドラマがもっとえぐれるなら、龍子の冗談の裏にある孤独をもう一歩踏み込んで見せてほしかった。
所轄との縄張り争いがまた煙だけ上げて消えた
移動捜査課が現場へ入るたび、まずぶつかるのが犯人ではなく所轄。
殺人事件の緊張より先に、警察内部の面倒くさい縄張り意識が立ち上がる。
ただ、あれだけ騒がせるなら、最後まで食い下がるなり、捜査をかき乱すなり、もっと爪痕を残してほしい。
毎度おなじみになりかけた警察同士の小競り合い
移動捜査課が現場に来る。
所轄が「こっちの事件だ」と顔をしかめる。
赤瀬たちは面倒くさそうに受け流しながら、結局は事件の芯へ踏み込んでいく。
この流れ、すでに型になっている。
型になること自体は悪くない。
刑事ドラマには、毎回少しずつ繰り返される儀式が必要だ。
ただし儀式として見せるなら、そこに快感がないと厳しい。
所轄との衝突がただの前置きに見えると、視聴者は「またか」で止まる。
現場の主導権争いには、本来もっと泥臭さがあるはずだ。
情報を出さない。
聞き込み先を押さえる。
証拠の扱いで揉める。
メンツを潰されたくない上司が余計な指示を飛ばす。
そういう具体的な嫌がらせがあって初めて、移動捜査課の機動力や突破力が光る。
ところが今回は、所轄がうるさく出てきたわりに、事件が龍子の屋敷へ寄っていくと急に存在感が薄くなる。
龍子の圧と、家事代行サービスの二人の真相に飲まれて、警察内部の争いが置物になってしまった。
所轄パートが弱く見えた理由。
- 最初は強く出るのに、終盤の捜査で主導権を奪い返す動きが見えない。
- 移動捜査課への反発が、事件の解決を邪魔するほどの障害になっていない。
- 龍子という濃すぎる人物が出たことで、警察同士の火花が一気に霞んだ。
うるさかった所轄が終盤で空気になる寂しさ
所轄が空気になると、事件の世界が少し狭く見える。
東京と埼玉の境で起きた事件だからこそ、管轄の面倒くささをもっと転がせたはずだ。
境界線の事件という設定は、ただの地図上の話ではない。
責任をどちらが持つのか。
手柄をどちらが取るのか。
失敗したとき誰が頭を下げるのか。
その全部が絡むから、警察組織のいやらしさが出る。
なのに、結局は移動捜査課が龍子の懐へ入って、蕾を鉄砲玉みたいに送り込み、真相へ近づいていく。
所轄はその横で、最初に立てた音の割に静かになる。
騒ぐだけ騒いで消える所轄は、敵役ではなく背景になってしまう。
これがもったいない。
せめて家事代行サービスの二人を追う段階で、所轄が別方向の容疑者に固執するとか、龍子を犯人扱いして捜査を乱すとか、移動捜査課と違う読みをぶつけてほしかった。
そうすれば、美青の指揮にも赤瀬の判断にも重みが出る。
「こいつら、嫌な奴だけど現場を知っている」と思わせてくれたら、最後に協力する展開にも熱が出る。
だが、今回は龍子劇場が強すぎた。
所轄の小競り合いは、開幕の雑音で終わった。
移動捜査課を立てるための敵役に見えてしまう
移動捜査課を魅力的に見せるには、外からの圧力が必要だ。
その意味で、所轄との対立は使いやすい。
よそ者扱いされる。
邪魔者扱いされる。
それでも事件を解く。
この構図はわかりやすいし、赤瀬たちの存在理由も説明しやすい。
ただ、所轄が毎回ただの噛ませ犬になると、移動捜査課の凄みまで安くなる。
強い相手をねじ伏せるからかっこいいのであって、最初から負けるために出てきた相手をかわしても、そこまで燃えない。
移動捜査課の切れ味を見せたいなら、所轄にもちゃんと牙が必要だ。
今回なら、龍子に対する見立てで移動捜査課と所轄が真逆に割れてもよかった。
所轄は短刀と過去のつながりから龍子を疑う。
移動捜査課は、龍子の沈黙の奥に別の犯人を嗅ぐ。
そのぶつかり合いがあれば、蕾のノイズも、美青の指揮も、赤瀬の腹芸ももっと生きた。
現状では、龍子という大きな看板に全部さらわれ、所轄はただの入り口係になっている。
刑事ドラマの火花は、犯人と刑事の間だけでは足りない。
警察の中にも、もっと嫌な熱がほしい。
そこが立てば、事件の境界線だけでなく、人間のメンツの境界線まで見えてくる。
美青の指揮が静かに効いていた
龍子の圧が画面を荒らしまくる中で、意外と見落とせないのが美青の立ち位置だった。
派手に怒鳴るわけでも、赤瀬みたいに腹の底を隠して笑うわけでもない。
だが、蕾を龍子へぶつける判断には、捜査指揮を取る人間の冷たさと読みがちゃんとあった。
優香の冷静さが龍子の濃さを受け止めていた
龍子みたいな人物を相手にすると、正面から押したところで飲まれる。
不当逮捕だと騒ぎ、高級弁当と日本酒で場を支配し、緑川には昔の因縁をちらつかせる。
ああいう女に、真正面から「話してください」と詰めても、煙に巻かれるだけだ。
そこで美青が見たのが蕾だった。
龍子が蕾を気に入っている。
亡くなった息子を重ねている。
なら、その情に針を入れる。
美青は優しい顔をして、やっていることはかなりえげつない。
蕾を鉄砲玉として送り込む判断は、刑事ドラマとして実にいやな味がある。
本人の能力だけでなく、相手からどう見られているかまで材料にする。
それは捜査として正しいが、人間としては少し乱暴だ。
ただ、その乱暴さがなければ龍子の口は開かない。
美青は龍子の情を利用した。
そこにためらいがまったくないわけではないが、ためらいより事件解決を優先する。
優香の静かな表情が、その冷たさを変に大げさにしなかったのがよかった。
赤瀬が指揮を任せた理由は監視への牽制だった
美青が赤瀬に「なぜ自分に捜査指揮を取らせたのか」と聞く場面は、地味にこのドラマの腹黒いところが出ていた。
赤瀬は「俺の苦労をわかってもらおうと思って」と返す。
軽く言っているが、あれは冗談だけではない。
さらに「俺のこと監視してるんだろ」と刺す。
ここで空気が少し変わる。
仲間同士の会話に見えて、実際は腹の探り合いだ。
赤瀬は美青に仕事を渡したのではなく、責任の重さを持たせて揺さぶった。
監視する側は、監視される側の苦労を見ないで済む。
外から見ていれば、判断の粗も、指示の遅れも、責任逃れも指摘できる。
だが、いざ自分が指揮を取ると、誰を動かすか、誰を危ない場所へ送るか、その判断が全部自分の背中に乗る。
赤瀬はそれを美青に味わわせた。
嫌な上司だ。
でも、こういう嫌さがあるから赤瀬は面白い。
美青と赤瀬の関係は、単なる上司と部下ではない。
- 美青は赤瀬を見張っている側の人間として置かれている。
- 赤瀬はそれを気づいたうえで、あえて捜査指揮を渡している。
- 事件解決の裏で、チーム内の主導権争いも静かに動いている。
チームの腹の探り合いが事件よりじわじわ効く
殺人事件そのものは、家事代行サービスの二人という着地で大きな驚きはなかった。
しかし、美青と赤瀬のやりとりには、今後も尾を引きそうな湿度がある。
移動捜査課は仲良しチームではない。
赤瀬は人を使う。
美青は観察する。
蕾は利用される。
桃子はその間で現場の熱を受け止める。
それぞれが同じ事件を追っているのに、見ている方向が微妙に違う。
事件より怖いのは、味方の中にある小さな不信感だ。
龍子の屋敷で起きた殺人は解決しても、赤瀬と美青の間にある監視と牽制は解決していない。
むしろそこだけ、まだ火種として残っている。
このドラマが本気で面白くなるなら、派手なゲストに頼るより、移動捜査課の内側にある亀裂をもっと掘るべきだ。
誰が誰を信じているのか。
誰が誰を利用しているのか。
そこが濁れば、事件の真相以上に人間を見るドラマになる。
極妻回としては濃い、刑事ドラマとしては薄い
見終わって残るのは、事件の切れ味ではなく龍子の顔だった。
家事代行サービスの二人が犯人だとわかっても、胸ぐらをつかまれるような衝撃はない。
ただ、かたせ梨乃、北大路欣也、家田荘子という並びが生んだ妙な濃度だけは、しつこく鼻の奥に残る。
ミステリーよりゲストの看板で押し切った
事件の作りだけを見ると、かなり素直だ。
ロマンス詐欺に絡む男たちがいて、金持ちの家の情報を流す家事代行サービスの二人がいて、取り分でもめて殺人に転がる。
説明されれば筋は通る。
だが、驚きの角度は浅い。
「まさかそこか」ではなく、「まあそこだろうな」に近い。
だから、犯人が明かされた瞬間の快感より、龍子が黙っていた理由のほうに目が行く。
自分によくしてくれた人間を、すぐに差し出せなかった。
そこには悪女の計算ではなく、老いた人間の情けなさがある。
この物語で一番おいしいのは犯人当てではなく、龍子の情が腐りかけた瞬間だった。
冷酷な顔をしながら、人の優しさに弱い。
強そうに見えて、息子の死を引きずっている。
極道の妻みたいな看板を背負いながら、最後は母親の穴から血がにじむ。
そこを見せられると、事件の雑さも少し飲み込める。
ただし、刑事ドラマとしては危ない。
ゲストの濃さで押し切ると、レギュラー陣の捜査力が薄く見える。
龍子の屋敷に入った時点で、事件が「誰が殺したか」から「かたせ梨乃をどう見せるか」に寄りすぎた。
エセっぽいのにエセと言い切れない破壊力
龍子の関西弁、あの貫禄、あのもてなし方。
普通なら「やりすぎやろ」と笑って終われる。
けれど、そこに家田荘子の庭師登場が重なるから、妙な説得力が出てしまう。
ほんの少しの出演でも、裏社会という言葉の湿度が変わる。
極道っぽさをドラマの記号として遊んでいるだけなのか、本気で昭和の残り香を呼び込んでいるのか、判別できなくなる。
エセっぽいのに、エセと切り捨てるとこっちが浅く見える。
ここがずるい。
庭師に家田荘子を置くという一手で、龍子の屋敷全体がただの豪邸ではなくなる。
昔の警察と暴力団が持ちつ持たれつだったという匂い、緑川との古い関係、短刀が家にある異様さ。
全部が一気に古い日本映画の箱に入れられる。
その箱が、今の刑事ドラマの中で浮いている。
浮いているのに、目が離せない。
このアンバランスさが最大の見どころだった。
ただ、好き嫌いは割れる。
事件のリアリティを求めている人には、龍子の存在は濃すぎる。
一方で、刑事たちだけでは画面が少し平坦に見える人には、龍子の毒がいい刺激になる。
総評としては、こういう味。
| 事件の驚き | 薄め。犯人の見せ方にもう一段ほしかった。 |
| 龍子の存在感 | 濃すぎる。ほぼ主役を食っていた。 |
| 蕾の使い方 | 息子重ねとノイズで、まだ伸びしろあり。 |
| 刑事ドラマ感 | 所轄との対立が弱く、捜査の熱は物足りない。 |
欲しいのは派手なゲストより移動捜査課の切れ味
ここまで見てきて思うのは、移動捜査課というチームの面白さが、まだゲストに負けているということだ。
赤瀬には腹がある。
美青は監視役としての冷たさがある。
蕾にはノイズという特殊な感覚がある。
桃子には現場へ踏み込む力がある。
材料はある。
けれど、事件解決の快感としてはまだ爆発していない。
本当に見たいのは、ゲストの濃さに頼らず、移動捜査課が事件を切り裂く瞬間だ。
所轄との縄張り争いも、もっと嫌な障害にしていい。
ただ騒いで消えるのではなく、捜査の邪魔をし、判断を誤らせ、赤瀬たちの足を本気で引っ張るくらいでいい。
そのうえで赤瀬が腹芸を見せ、美青が冷静に人を配置し、蕾がノイズの奥にある嘘の理由を拾い、桃子が最後の一歩を踏み込む。
そうなれば、チームものとして一気に火がつく。
龍子の濃さは面白かった。
家田荘子の登場も反則気味に効いていた。
でも、それだけで満足してしまうと、このドラマは毎回ゲスト待ちになる。
それはもったいない。
移動捜査課の中には、監視、利用、不信、信頼がまだ眠っている。
事件よりもそっちの人間関係が濁り始めたとき、このドラマはもっと化ける。
- 事件より獅子縞龍子の圧が勝った展開
- 犯人は家事代行サービスの二人だった
- 龍子の沈黙には情と喪失の重さ
- 蕾に亡き息子を重ねる視線の怖さ
- ノイズ設定はまだ伸びしろを残す要素
- 所轄との縄張り争いはやや物足りない
- 美青と赤瀬の腹の探り合いが不穏
- 家田荘子の出演で極道感に妙な説得力
- 刑事ドラマよりゲスト回として濃い仕上がり





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