【絶対零度2025・第9話ネタバレ考察】総理の娘誘拐が暴く“国家と母の境界線”——奈美と杏子、正義はどこにあるのか

絶対零度
記事内に広告が含まれています。

「絶対零度~情報犯罪緊急捜査~2025」第9話は、国家と母性、そして正義と犠牲の境界を鋭く突きつける回だった。

女性初の総理大臣・桐谷杏子(板谷由夏)の娘カナ(白本彩奈)が誘拐され、国の機密と母の心が同時に試される。DICTの二宮奈美(沢口靖子)は、ディープフェイクによって真実と虚構の狭間で揺れる。

静かに進行するサイバーテロと、誰かが仕掛けた「沈黙の罠」。この第9話は、“物語の中で最も人間の醜さが露出する回”として、シリーズの核に踏み込んだ。

この記事を読むとわかること

  • 第9話が描く「国家と母の正義」の衝突
  • ディープフェイクが暴くDICTの限界と奈美の葛藤
  • 桐谷母娘の断絶が映す現代の孤独と希望

第9話の核心:総理の娘誘拐事件が暴いた“国家の矛盾”

「総理の娘が誘拐された」——このニュースが流れた瞬間、物語は静かな爆発を迎えた。絶対零度2025・第9話は、国家という巨大なシステムと、母という一人の人間の感情が正面衝突する、シリーズでも異質な回である。

桐谷杏子(板谷由夏)は、女性初の総理として政治の頂に立ちながらも、一人娘・カナ(白本彩奈)を守れなかった。DICTの奈美(沢口靖子)が淡々と捜査を進める横で、杏子は総理の顔ではなく、一人の母として“後悔”に飲み込まれていく。

このエピソードの根底にあるのは、「国家の正義」と「母の愛」という相反する2つの倫理の衝突だ。国を守るためには個を犠牲にせねばならない——それを言い聞かせる奈美の冷静さに対し、杏子の瞳にはただ一つの祈りしかない。「娘を助けたい」。

沈黙する犯人が仕掛けた心理戦の意味

犯人は1週間、何も要求を出さず沈黙を貫いた。その“音のない戦争”は、被害者だけでなく捜査官、そして国家そのものを揺さぶる心理戦だった。DICTの捜査線上には、テロ組織、リクルーター、宗教団体といった不確かな影が並ぶ。しかしどれも核心を突けない。

この沈黙の演出は、視聴者にとっても強烈だった。“何も起きないこと”こそが最大の緊張——それは現代のサイバー犯罪の新たな恐怖を象徴している。通信遮断、情報隠蔽、SNS操作。国家を動揺させるのに、爆弾も銃も要らない。必要なのは「不安」だけだ。

そしてこの沈黙の裏で進行していたのは、杏子の心の崩壊だった。母として娘を案じる心と、総理として冷静を装う義務。その二重構造が、彼女の呼吸を奪っていく。“沈黙”は犯人の武器であると同時に、母の罪悪感を増幅させる装置として機能していた。

桐谷杏子の「母としての罪悪感」と政治的孤独

杏子が本当に戦っていた相手は、犯人ではなく“自分自身”だった。総理という立場の重圧の中で、彼女は娘カナと向き合う時間を削り、国家という名の正義を優先してきた。その結果として訪れた誘拐——それは偶然ではなく、彼女の選択の延長線上にあった。

回想の中で描かれる母娘の対話。「ママは私より仕事のほうが大事なんでしょ?」というカナの叫びは、すべての母親に突き刺さる言葉だった。“愛している”と言葉にできなかった距離感。その静かな断絶が、国家という舞台の上で極限まで拡張されていく。

政治の世界では、「感情」は弱さとして扱われる。しかし第9話の杏子は、涙を通じて初めて“人間”に戻る。奈美が「あなたは私になる必要はない」と語るシーンは、この回の象徴だ。正義のために自分を失うな。その一言が、杏子にも、そして視聴者にも突き刺さる。

国家を背負う者の孤独と、母としての無力感。その狭間で揺れる杏子の姿は、単なる政治ドラマでは描けない“生の痛み”を宿している。彼女の沈黙の涙は、視聴者の中に長く残る余韻となった。

DICTの限界と奈美の決意——ディープフェイクが示す「正義の代償」

この第9話を動かすエンジンは、“見えない真実”だ。DICT(情報犯罪緊急捜査班)は、最先端の技術で国家のサイバー犯罪に立ち向かう組織。しかし、物語が進むほど、彼らが守っているのは「真実」ではなく、「国家の都合」なのではないかと感じさせる。

中心に立つ二宮奈美(沢口靖子)は、これまで数々の事件を冷静に処理してきた捜査官だ。だが今回、彼女は自らの手でディープフェイク映像を使い、世論を操作した。国家の安全を守るための“嘘”。その映像が、結果的に総理・桐谷杏子を追い詰めることになったという皮肉が、第9話の最大の皮膚感覚だ。

つまり、DICTが抱える“正義の歪み”が露呈した瞬間である。AIやディープフェイクが日常化する現代において、誰が“真実”を定義するのか? この問いが、ドラマを単なるサスペンスから社会派へと引き上げている。

情報操作が生む“もう一つの現実”

ディープフェイクによる映像は、現実と虚構の境界を曖昧にする。映像を信じる人々にとって、それは「真実」になる。奈美が作ったその偽りの映像は、国民を守るための防衛策だったが、同時に一人の母親を絶望へ追いやる“別の現実”を生んだ

杏子がその映像を見つめる瞬間、彼女は国家の象徴ではなく、一人の母に戻る。その表情に浮かぶのは怒りでも悲しみでもない——“理解不能の無音”だ。国家のために誰かが犠牲になるという理屈を、彼女自身が理解していたからこそ、奈美を責めきれない。

だが、視聴者の目には明らかだ。DICTが作り出すのは、真実の守護ではなく、支配の温床だ。ディープフェイクというテクノロジーは、最初から“正義”と“欺瞞”の両刃を抱えている。国家の正義とは、いつも誰かの犠牲の上に成り立つ虚像なのだ。

そしてその虚像を最も知っているのが奈美自身だった。彼女の瞳の奥には、確信と後悔が同居している。「私の正義は、誰かを救うためにあるのか、それとも切り捨てるためにあるのか」——その問いこそが、彼女の戦いの核心だった。

佐生と奈美、国家を守る者たちの倫理線

佐生新次郎(安田顕)と奈美の対話は、まるで哲学のようだった。「国を守るためには何かを犠牲にしなくてはならない」と語る佐生に対し、奈美は静かに反論する。「それが正しいとしても、あなたにはなりたくない」。

この会話が放つ熱は異常だ。どちらも間違っていない。だが、どちらも救われない。佐生の言葉は国家の論理であり、奈美の言葉は人間の倫理だ。その二つのベクトルは、決して交わらないまま第9話の空気を冷やしていく。

DICTのメンバーが追っているのは犯人ではなく、“国家の顔色”なのではないかという皮肉が漂う。テロ対策や通信障害の分析は、どこか“管理された混乱”に見える。そこに奈美の孤立が浮き彫りになる。彼女が守ろうとしているのは「真実」ではなく、「自分の信じる正義」だった。

だからこそ、奈美の決意は静かで重い。「私は必ず犯人を捕まえる。そして、あなたが何をしようとしているのかも、すべて明らかにする」。この言葉は、単なる職務ではなく“国家に向けた宣戦布告”だ。

第9話で奈美は、国家の盾であることをやめ、人間としての矜持を選んだ。その瞬間、DICTという組織は彼女にとって敵にも味方にもなり得ない“空白地帯”に変わる。国家が隠す真実、そして母が背負う痛み。その二つの間に立つ奈美の姿こそ、今期『絶対零度』最大のテーマ——「正義の孤独」を象徴していた。

野村翔の再登場とサイバーテロの影——第10話への布石

第9話の中盤、突如として姿を現したのが、山内徹(横山裕)がかつて取り逃がした男・野村翔(北代高士)だった。黒いフードを被り、光のない瞳で登場する彼は、まるで“この物語の裏側を知っている者”のようだった。彼の再登場によって、物語は一気に「誘拐事件」から「国家規模のサイバーテロ」へと舵を切る。

DICTが掴んだ新たな情報は、連続するシステム障害、バックドアが仕掛けられたプログラム、そして殺害されたSE(システムエンジニア)国見和人。誘拐の裏で、国家インフラそのものが乗っ取られつつあるという事実が浮上する。もはやこの事件は“個人の復讐”ではなく、“国家を麻痺させるための実験”だ。

野村翔は一体誰に操られているのか。彼はただのテロリストではない。過去の逃亡劇で見せた行動の一つ一つが、“誰かの設計図の中で動いていた”ように見える。DICTが追うのは、実は一枚上手の存在——つまり、“見えない支配者”の影だ。

黒幕は誰か?伏線としてのシステム障害

第9話で起きた通信障害は、ただのハッキングではない。総理官邸のネットワーク、銀行システム、交通信号、東京タワーの照明までが同時にダウンする。その一瞬の暗闇が、まるで国家の「呼吸」が止まるような感覚を残す。

この演出の恐ろしさは、“誰もパニックを起こさない”ことにある。ニュースでも報じられず、政府は「調査中」と言い張る。つまり、政府自身が情報の隠蔽者になっているのだ。DICTの早見(松角洋平)は、「通信障害の原因は不明」とだけ報告するが、その冷静さが逆に不気味だ。

視聴者が直感するのは、この沈黙の裏にある「政治的意図」だ。桐谷政権に対する内部の裏切りか、それとも国家機関を利用したサイバー攻撃か。どちらにせよ、第9話のシステム障害は単なる事件の副産物ではない。これは“第10話への暗号”として機能している。

画面のノイズ、途切れる通話、無音の官邸——それらは単なる演出ではなく、「次に何かが起こる」予告状だった。

SE殺害事件に隠された“真の目的”

サイバーテロの中心で次々と命を落とすシステムエンジニアたち。国見和人の殺害に続き、同僚の森宮も行方不明となる。DICTの捜査で浮かび上がるのは、彼らが仕掛けたバックドアが国家規模のインフラを操作できる“鍵”であったという事実だ。

野村翔がこの技術を奪い、どこかに売り渡そうとしているのか。それとも彼はただの駒なのか——。第9話の脚本が巧妙なのは、「悪人が一人もいない構造」にある。奈美も、佐生も、そして犯人でさえも、みな“何かを守るために動いている”。

つまり、この事件の核心は“倫理の衝突”だ。国家のために人を殺す者、真実のために嘘をつく者、愛する者を救うために正義を捨てる者。それぞれの正しさが交錯する中で、奈美が見据えるのは一つ——「私はもう誰の正義も信じない」。

その言葉が、次回・第10話の布石として静かに置かれている。“絶対零度”とは、感情のない正義のこと。そしてこの回で、奈美もまた、そこに足を踏み入れたのだ。

親子の断絶と救済——桐谷母娘の関係が象徴するもの

「ママは私より仕事のほうが大事なんでしょ?」——この言葉が、第9話の全てを象徴していた。女性初の総理大臣・桐谷杏子(板谷由夏)は、誰よりも強く、誰よりも孤独だった。その強さの代償として、最も近くにいた娘・カナ(白本彩奈)との距離が、取り返しのつかないほど広がっていたのだ。

この親子関係は、単なる“家庭のすれ違い”ではなく、現代社会の縮図そのものだ。仕事に追われる親、孤独に沈む子ども、そして“正しさ”の定義がすれ違う家庭。それを「国家」という舞台で描いたことで、このドラマは個人の物語を超えた。

桐谷杏子が娘を失って初めて気づくのは、母親である自分が、最も大切な存在から目を逸らしていたという事実だった。彼女が総理として守ろうとした“国民の未来”の中に、自分の娘の未来が含まれていなかったという残酷な矛盾。それが、このエピソードの静かな痛みだった。

「仕事か、家族か」総理という肩書の孤独

桐谷杏子は、政治家である以前に一人の母だった。しかし総理という立場が、その“母性”を常に後ろに押しやった。娘の欠席、反抗、そして家出——そのすべてに気づきながらも、「国家のため」と自分を正当化してきた。第9話では、その自己防衛が完全に崩壊する。

犯人の電話越しに聞こえるカナの声。「ママ、ママ!」と泣き叫ぶその声に、杏子は一瞬、総理という仮面を脱ぎ捨てる。権力も肩書も、母という本能の前では何の意味もない。その表情に宿るのは、政治ではなく祈りだ。

このシーンは、国家ドラマの枠を超えて“人間ドラマ”としての真価を放つ。記者・磯田涼子(加藤夏希)に対して「すべてが終わったら独占記事を書いていい」と語る杏子の姿には、もはや戦略も打算もない。そこにあるのは、母としての贖罪と決意だけだった。

彼女が抱える孤独は、政治の中では“責任”と呼ばれる。しかし、その実態は“愛の不在”だ。誰かを守るために他者を犠牲にする——それが国家の理であるなら、母はその理に抗う最後の存在なのだ。

カナの未熟さが映し出す“現代の若者像”

一方、娘のカナもまた、ただの被害者ではない。彼女はオンラインゲームで出会った仲間に誘われ、詐欺の受け子として犯罪に巻き込まれていく。18歳という年齢設定は絶妙だ。まだ大人になりきれず、しかし社会の裏側には触れてしまう。“危うさの象徴”として描かれている。

カナの行動には衝動があり、孤独がある。家庭でも、ネットの世界でも、自分の“存在証明”を探している。だからこそ、犯人に利用されても気づかない。「私なんかいないほうがいいんでしょ」というセリフは、SNS時代の“自己否定の呪い”そのものだ。

その彼女を救う唯一の鍵が、母の言葉だった。奈美が桐谷に語る「あなたは渡しになる必要はない」という台詞が、母娘関係にも重なって響く。誰かの代わりになる愛ではなく、“あなた自身を必要としている”という愛。このメッセージが第9話の根底に流れている。

ラストで映し出されるのは、カナの弱った姿と、杏子の沈黙。そしてその沈黙こそが、断絶の中にわずかな希望を見せる。母娘の再会はまだ遠い。だが、互いに“言葉を失った”今だからこそ、繋がれるものがある——そう思わせる余韻で幕を閉じた。

第9話は、政治ドラマの顔をして、実は“母と娘の再生物語”だった。国家を背負う者の孤独と、少女の無垢。その交錯が生む痛みは、次回、第10話で「赦し」として形を変える予感を残した。

絶対零度2025 第9話の考察と余韻——真実は誰のためにあるのか

第9話は、「真実」をめぐるドラマだった。だがこの物語における“真実”とは、単なる事実ではない。それは人の信念と選択が織りなす、曖昧で、時に残酷なものだ。DICTの奈美(沢口靖子)、総理・桐谷杏子(板谷由夏)、そして犯人の野村翔(北代高士)——彼らはそれぞれ異なる「正義」を信じ、異なる形でその代償を払っている。

国家を守るための情報操作、母が娘を守れなかった罪悪感、そして無垢な若者が仕組まれた暴力に巻き込まれていく現実。どれもが“正しい”ようでいて、同時に“間違っている”。この相反する二面性こそが、絶対零度というタイトルの意味なのかもしれない。感情を凍らせてまで守るものがあるとき、人はどこまで冷たくなれるのか。

第9話の終盤、杏子のスマホに届いた一通のメッセージ——「カナを助ける方法があります」。この言葉は、希望であると同時に罠でもある。救いを求める心につけ込む“優しい悪意”。このメッセージの送り主が誰なのか、まだ明かされていないが、そこに潜むのは第10話への確実な導火線だ。

信じる正義と向き合う覚悟

奈美は、国家のための捜査官として動いてきた。しかし第9話で彼女の信念は大きく揺らぐ。佐生(安田顕)の「国を守るためには犠牲が必要だ」という言葉を前に、彼女は静かに否定する。「それでも、私は見過ごさない」。

その姿勢はまるで、冷たい海の底で一人、光を探すようだった。奈美が信じた正義は、もはや組織のものではなく、自ら選び取った“個人の倫理”だ。
彼女はもはや命令に従う存在ではなく、国家という巨大な装置に抗う“異端の良心”となる。

一方、杏子もまた、自らの“間違い”と向き合う覚悟を決める。「私はどこから間違っていたのか」。この独白は、母として、政治家として、そして一人の人間としての懺悔でもあった。国を守るための言葉が、娘を傷つける刃になっていた——その痛みを彼女はようやく受け入れる。

このドラマの中で、誰一人として“完璧な正義”を持つ者はいない。全員が間違いを抱えたまま、なおも何かを守ろうとしている。だからこそ、第9話の終盤の静けさには“戦いの前の息”のような緊張が漂っていた。

第10話への期待と「静かなる反撃」の予兆

終盤、DICTはシステム障害と同時に複数の死亡事件を掴む。だが、誰が仕掛けたのか、なぜこのタイミングだったのか、まだ誰も分からない。この“分からない”という余白が、物語を次のフェーズへと導く
そして視聴者は知っている。絶対零度の“沈黙”は、いつだって嵐の前触れなのだ。

野村翔の背後にいる人物は誰か? 国見や森宮の死の意味は? そしてカナを操る真の目的は? すべての糸が国家中枢へと伸びている気配がある。DICTが暴こうとしているのは、もはや個人犯罪ではなく、“国家ぐるみの真実の改ざん”なのかもしれない。

タイトルに込められた「絶対零度」という言葉は、感情が完全に凍りつく温度を意味する。だが第9話を観終えた後、そこにはむしろ“熱”が残る。奈美の静かな怒り、杏子の母としての涙、そして見えない敵への決意。それらはすべて、次回、第10話で必ず火を噴く伏線だ。

第9話は、決して派手ではない。だが、その静けさの中に、最も深い悲鳴が隠れていた。真実は誰のためにあるのか。その答えを見つけるのは、国家でも犯人でもない。“自分の中の正義”を信じ続ける者だけなのだ。

そして物語は、絶対零度の闇を抜け、次の瞬間——氷の下で再び燃え上がる。

静かな会話に宿る、心の揺らぎ——“冷たさ”の中にあった人間の熱

この第9話を見ていて、ずっと気になっていたのは“沈黙”の多さだ。
セリフの間、視線の揺れ、少しの息づかい——どれも言葉より雄弁だった。
特に印象的だったのは、奈美と杏子が向かい合う場面。
捜査官と総理という肩書きを脱ぎ捨て、二人の女性として、母として、静かにぶつかり合う瞬間だ。

奈美は理性の人間。冷静で、感情を抑え込み、職務の中に自分を閉じ込めてきた。
一方の杏子は、感情を抑えきれない人間。娘を想うがゆえに、国を動かす冷徹さと相反する弱さを見せる。
この対比が、第9話全体のリズムを支配していた。

互いに違うようで、実は似ている。
どちらも「誰かを守る」ために、何かを切り捨ててきた人間。
奈美は正義の名で嘘をつき、杏子は母の名で孤独を選んだ。
どちらの選択も正しくない。でも、間違いとも言い切れない。
その中間の“曖昧な場所”こそ、人間らしさが一番滲み出るところだ。

“正義”と“愛”の温度が交差する瞬間

見逃せなかったのは、奈美が佐生に言う「あなたは私になる必要はない」という一言。
あれは単なる忠告じゃなく、自分自身への宣言だった。
誰かの正義をコピーしても、そこに自分の心がなければ、何も守れない。
奈美はそのことにようやく気づいた。
その“気づき”の瞬間に、画面の冷たさがふっと和らぐ。

そして杏子。
総理という肩書の裏で、彼女はずっと母親をやり直したがっていた。
犯人の要求に揺れるたび、彼女の表情は変わる。
怒り、絶望、そして一瞬だけの希望。
この小さな表情の振れ幅に、人間の“熱”が宿っていた。

第9話って、物語的には大きく動かない。
けれど、心の動きはとんでもなく揺れている。
静かな場面の積み重ねが、感情の地層を深くしていく。
派手な展開じゃなく、“沈黙のドラマ”で魅せてくるのがこの作品の怖さだ。

“冷たい正義”の中で、それでも人を信じたい

絶対零度というタイトルは、感情を凍らせて任務を遂行する世界を意味していた。
けれど第9話では、それが少し変わったように感じた。
完全に冷たくなれない人間たち。
理屈で割り切れない愛、信じたいという衝動。
それが、物語をほんの少しだけ温めていた。

DICTの仲間たちが見せた小さな優しさ。
杏子が記者に託した“真実を見てほしい”という願い。
それらはどれも、冷え切った国家の中で灯る小さな火のようだった。
このドラマの面白さって、結局そこにある。
誰も完全じゃない、誰も正しくない。
でも、誰もが誰かを想っている。
その矛盾こそが、生きてる証なんだと思う。

だからこの第9話は、「絶対零度」というより「絶対温度の境界線」。
冷たさのすぐ隣に、確かに温もりがある。
奈美と杏子の沈黙の奥に、その境界線が見えた気がした。

絶対零度2025 第9話の感想と考察まとめ:国家も家族も、人は誰かを守るために嘘をつく

「国家を守るための嘘」と「家族を守るための嘘」。第9話『絶対零度2025』は、この二つの“嘘”を対比させながら、人が生きる上で避けられない選択を描いた。DICTの奈美(沢口靖子)は国家の嘘をつき、桐谷杏子(板谷由夏)は母としての嘘をついた。そしてそのどちらも、誰かを守るための嘘だった。

この物語は決して白黒で語れない。正義も悪も、被害者も加害者も、その境界がゆっくりと溶けていく。その曖昧さが、人間のリアリティを突き刺す。“誰かのために”という言葉が、時にどれほど残酷で、どれほど美しいか——それを痛烈に描き出したのが、この第9話だった。

DICTの冷徹な操作、サイバー犯罪の無機質さ、政治の沈黙。その中で浮かび上がるのは、“母の温もり”という対極の要素だ。テクノロジーが人の感情を飲み込み、データが心を支配する時代において、感情こそが最も危険で、最も尊い武器になる。

国家の冷たさと母の温度差

第9話で印象的なのは、奈美と杏子の「距離」だ。奈美は冷静に捜査を進めるが、その表情の裏には、国家の歯車として動かされる無力感がにじむ。一方、杏子は涙を流し、感情をむき出しにして「母」であり続けようとする。二人の温度差は、まるで国家と個人の温度差そのものだった。

DICTの世界は冷たい。機密、命令、プロトコル。そこに“心”は存在しない。しかし、奈美の目の奥には、見えない熱があった。それは佐生(安田顕)への反発でもあり、杏子への共感でもある。冷たい組織の中で、人間らしさを守ろうとするその姿こそが、このドラマ最大のエモーションだ。

そして杏子は、政治家としての冷静さを手放し、母としての温度を取り戻す。娘の声に震える手、記者に「本質に迫った記事を書いてください」と頼むその目には、政治的計算ではなく、祈りが宿っていた。“国家を守る嘘”より、“愛を守る真実”を選ぶ——その瞬間、彼女は人間に戻った。

「正義の形」は人の数だけある——第10話で見える結末の輪郭

第9話を通して明らかになったのは、「正義はひとつではない」ということだ。奈美にとっての正義は“真実を暴くこと”。佐生にとっての正義は“国家を守ること”。そして杏子にとっての正義は“娘を生かすこと”。三者三様の正義がぶつかり合い、どれも完全に否定できない。

ドラマのラストに漂うのは、決着ではなく「余白」だ。システム障害、殺害事件、そして“カナを助ける方法があります”というメッセージ。すべての要素が、第10話への伏線として張り巡らされている。だがこのシリーズの本質は、事件の真相ではなく、人が嘘をついてまで守ろうとする“何か”にある。

絶対零度——それは温度がないことを意味する。しかし、この第9話には確かに“熱”があった。奈美の決意、杏子の涙、カナの叫び。そのすべてが混ざり合い、次の瞬間に向けて燃え上がる。

真実は、国家のためにあるのか。家族のためにあるのか。
その答えは、誰かの心の中にしかない。だからこそ、人は誰かを守るために嘘をつく——この言葉が、第9話のすべてを静かに貫いていた。

そして次回、第10話。氷の中に閉じ込められた感情が、再び“真実の炎”を取り戻す瞬間を、誰もが待っている。

この記事のまとめ

  • 総理・桐谷杏子の娘誘拐が国家の矛盾を浮かび上がらせた
  • DICTと奈美の“正義”がディープフェイクで揺らぐ
  • 野村翔の再登場でサイバーテロの全貌が動き始める
  • 母と娘の断絶が現代社会の孤独を映す
  • 国家の冷たさと母の温度差が物語の核に
  • 「正義」と「愛」の境界が曖昧に交差する第9話
  • 静かな沈黙の中に“人間の熱”が描かれた
  • 人は誰かを守るために嘘をつく、その真意が問われる回

読んでいただきありがとうございます!
ブログランキングに参加中です。
よければ下のバナーをポチッと応援お願いします♪

PVアクセスランキング にほんブログ村
にほんブログ村 テレビブログ テレビドラマへ にほんブログ村 アニメブログ おすすめアニメへ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました