『告白の代価』第9話ネタバレ|モ・ウンが刺される夜、真実は誰の手にあるのか

告白の代価
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『告白の代価』第9話は、物語の均衡が完全に崩壊する回だった。

拘置所で起きた自殺未遂、逃走中のアンの再会、そしてモ・ウンが流した血――。
真実を掴もうとする者が次々に壊れていく。

この回で描かれるのは、“暴かれること”の痛みだ。
正義も復讐ももはや形を失い、真実は人を救うものではなく、ただ人を試す存在へと変わっていく。

この記事を読むとわかること

  • 『告白の代価』第9話で描かれる“真実と沈黙”の衝突
  • モ・ウンが血を流すことで示した罪と継承の意味
  • 真実を求めすぎる社会への批評と“語らない勇気”の本質

アンとモ・ウン、逃亡の果てに再会する二人

第9話の夜、すべてがひとつの場所に収束した。
病院の白い廊下。静かな雨の音。
そして、互いを追いかけ続けていた二人――アンとモ・ウンが、ようやく同じ時間に立つ。
この再会は抱擁でも救いでもない。
それは、“真実が血を流す瞬間”だった。

逃亡を続けるアンの姿は、もう人ではなく影のようだった。
疲労と罪悪感と、わずかな希望が混ざり合い、彼女の目には焦点がない。
彼女を突き動かしているのは「逃げたい」ではなく、「確かめたい」という衝動だ。
セフンを殺したのは誰か。モ・ウンの言葉は真実だったのか。
その答えを探すためだけに、彼女はここに来た。

一方のモ・ウンは、拘置所から病院へと運ばれ、静かに目を閉じていた。
その姿は穏やかに見えるが、心の奥には灼けるような痛みが走っている。
自分が撒いた嘘が、今また別の血を呼んでいる――それを理解していたからだ。
彼女は、アンがやって来ることをどこかで知っていた。

病院で交錯する二つの運命

病室のドアが静かに開く。
薄暗い光の中、アンの顔が浮かび上がる。
それを見た瞬間、モ・ウンは微笑んだ。
それは再会の笑みではない。
彼女はまるで、“自分の終わりを受け入れる者の微笑”のように見えた。

「あんたが来ると思ってた。」
モ・ウンの声は低く、しかし確信に満ちていた。
アンは一言も返さない。
その沈黙の中に、どれほどの後悔と愛と怒りが詰まっているか。
互いの目がぶつかった瞬間、過去が一気に押し寄せる。

二人の間に言葉はない。
ただ、空気だけが変わっていく。
静寂の中で、過去の取引、嘘、そして殺意までもが絡まり合う。
だが、この夜は違った。
アンは問いを抱えて来た。
モ・ウンは答えを持たないまま、彼女を迎えた。
その乖離こそが、第9話の残酷な美しさだ。

「セフンを殺したのは、あなた?」
アンがそう言ったとき、モ・ウンは小さく首を振る。
その動きはあまりに静かで、呼吸の一部のようだった。
「知らないの。私も。」
真実を語る者が、ついに“知らない”と言う。
その一言が、全ての均衡を崩した。

モ・ウンが流した血と“代償”の意味

その後の出来事は一瞬だった。
廊下を駆けてきた影――セフンの祖父、ドンウク。
彼は狂気と憎悪に支配され、刃物を握っていた。
狙いはアンだった。
だが、モ・ウンがその前に立つ。
ナイフの刃が、モ・ウンの腹を貫いた。

血が滲む。
白いタイルに赤い波紋が広がる。
アンが叫ぶ。
だが、モ・ウンの顔は静かだった。
まるで、この結末を最初から知っていたかのように。

彼女はアンの手を握り、囁く。
「これでいいの。あの子の声が、やっと届く。」
それは妹ソマンへの言葉でもあり、アンの娘ソプへの言葉でもあった。
モ・ウンの流した血は、贖罪ではなく“継承”の血だった。
真実を次の誰かに託すために流れる、痛みの証。

この瞬間、モ・ウンは“復讐者”から“記録者”へ変わった。
彼女の死は罰ではなく、真実を引き渡す儀式だった。
血は罪を洗い流さない。
だが、それを見た者の心に「もう一度、生き直そう」という感情を刻む。

アンは泣かない。
代わりに、彼女はモ・ウンの手を強く握る。
二人を包む沈黙は、祈りのようでもあり、呪いのようでもあった。
そして、モ・ウンの血が乾くころ、夜は明け始める。
新しい一日が始まっても、彼女たちの時間は止まったままだ。

第9話のこの場面は、“真実の代償”というタイトルそのものだ。
誰かが語ることで、誰かが傷つく。
誰かが沈黙することで、誰かが救われる。
その循環の中で、彼女たちはようやく“人間”に戻っていく。

拘置所で起きた首吊り未遂──少女ヒヨンが映す“罪の連鎖”

第9話の静かな導入を切り裂くのは、拘置所の非常ベルの音だった。
暗い独房の中で、若い少女ヒヨンがシーツを結び、鉄のパイプに手をかける。
それは唐突ではなく、予感のように訪れる。
ヒヨンは語らない。泣かない。
ただ、誰にも届かない場所で“罰”を選ぼうとしていた。

この場面を見た瞬間、モ・ウンの中で何かが崩れた。
彼女の中に蘇るのは、妹ソマンの最後の夜。
同じように、誰にも助けられなかったあの瞬間。
ヒヨンの姿は、彼女自身の“過去の再生”だった。

モ・ウンが施した救命処置に込められた過去

モ・ウンは反射的に走り出す。
看守の制止を振り切り、ヒヨンの独房へ。
ドアが開く音、崩れ落ちる椅子の音、そして空中で揺れる少女の足。
彼女は手を伸ばす。
その瞬間、視聴者は息を止める。

ロープを切る手が震えている。
それは恐怖ではない。
“もう二度と誰も死なせたくない”という衝動だ。
ヒヨンの体を抱きしめ、心臓の鼓動を探す。
「生きて…お願い…」
その言葉は、妹に届かなかった“もう一度”の叫びだった。

蘇生が成功し、ヒヨンの瞳がゆっくり開く。
彼女はモ・ウンの顔を見て、こう言う。
「なんで助けたの? 私、死にたかったのに。」
モ・ウンは答えない。
代わりに、彼女の頬を撫でる。
「私も、死にたかった。」
その言葉に、ヒヨンは涙をこぼした。

この対話の短さが、むしろ第9話の核心を突いている。
助けることは、赦すことではない。
生かすことは、愛することと同義でもない。
それでも、モ・ウンは手を伸ばした。
それが、彼女に残された唯一の“正義”だった。

罪と贖いの境界線が溶ける瞬間

ヒヨンの未遂事件は、ドラマ全体の象徴的な鏡になっている。
彼女は他人の罪を見て絶望し、自分を裁こうとした。
モ・ウンは自分の罪を見て、それでも生きることを選んだ。
二人の選択の違いが、“生と贖罪の境界”を曖昧にしていく。

拘置所という空間は、まさに罪の密室だ。
そこでは、赦しも希望も与えられない。
だが、モ・ウンはその中で“命を繋ぐ”という逆説的な行為をする。
それは社会的な正義ではなく、個人的な贖罪の延長だ。
彼女がヒヨンを救った瞬間、
かつて救えなかった妹への後悔が、少しだけ息を吹き返した。

ヒヨンが再び目を閉じたあと、モ・ウンは独房の壁にもたれかかる。
指先には血の跡。
ヒヨンのではない。自分のだ。
手のひらを見つめながら、彼女は小さく呟く。
「これが、代価なんだね。」
生き延びるという行為そのものが、罪の連鎖の一部であることを理解していた。

第9話のこのシーンが優れているのは、
“人を救う”という行為を善悪で語らせないこと。
モ・ウンは英雄でも天使でもない。
彼女は、同じ痛みを抱えた人間として、ただ本能で手を伸ばした。
そこにあるのは、倫理でも義務でもない。
それは、痛みの記憶が生んだ衝動だ。

ヒヨンの命が戻ったあと、拘置所の空気が変わる。
沈黙の中で、他の囚人たちが一斉に彼女を見つめる。
その視線には、非難も羨望もなく、ただ理解があった。
人はみな、どこかで一度は“生きることの罰”を感じたことがある。
モ・ウンもその一人だった。

この未遂事件を通して、モ・ウンは悟る。
真実を暴くよりも、命をつなぐことのほうが重い。
そして、それこそが彼女に残された最後の役割だった。
彼女の正義は血に汚れても、まだ呼吸をしている。
その呼吸こそが、“人間の赦し”のかたちなのだ。

ペク検事の気づき──“アンは犯人ではない”という確信

第9話の中盤、ペク検事は静かに確信を掴む。
アンがセフンを殺していない――その事実は、証拠ではなく「違和感」から始まった。
モ・ウンが流した血と、アンの逃走。
その二つの出来事の裏に、“一人分の沈黙”が隠されていると彼は気づいていた。

ペクは正義の人間ではない。
第1話からずっと、彼は倫理と現実の間で揺れ続けてきた。
だが第9話で初めて、その葛藤が「信念」に変わる。
真実とは、証明ではなく、選択だ。
彼が選んだのは、証拠を信じることではなく、人間を信じることだった。

埋められたカメラが映した、首の傷の違い

事件の現場検証。
倉庫の隅に、埃をかぶった監視カメラがあった。
廃棄処分になったはずの機材。
だが、内部には未送信の映像データが残っていた。
ペクはそれを開き、息を呑む。

映像には、確かにアンがセフンに刃を突き立てようとする姿が映っている。
しかし、次の瞬間、誰かの影が割り込む。
画面は揺れ、暗転。
そして映像が再開したとき、セフンはすでに倒れていた。
その首の傷口――刃の角度が違う。
アンの包丁の位置では、あの方向から切り裂けない。

「……違う。彼女じゃない。」
ペクはその映像を見つめながら呟く。
長年の経験が、ひとつの確信に変わる。
犯人はアンではない。
だが、それを証明することは、別の地獄を呼ぶ。
なぜなら、この映像が意味するのは、“誰かが真実を仕組んでいた”ということだからだ。

映像の終わり、わずかに映る背中。
照明の反射に浮かぶ影。
ペクはその姿に見覚えがあった。
――モ・ウンの父。
死んだはずの男の名前が、彼の記憶の底から浮かび上がる。

真実へ向かう者が抱く“もう一つの罪悪感”

その夜、ペクは一人で資料室に残る。
モ・ウンのファイル、アンの供述書、ソマンの事故記録。
すべての線が一本に繋がり始めていた。
だが、彼の表情は暗い。
それは正義の歓喜ではなく、
“知ってしまった者の罪悪感”だった。

真実を知るという行為は、誰かの嘘を暴くことではない。
それは、誰かの祈りを壊すことでもある。
モ・ウンの嘘は、罪ではなく痛みの延命だった。
アンの沈黙は、母としての防波堤だった。
そしてペクがその真実を知ることは、二人の“人間としての矛盾”を否定することに繋がる。

映像を消したあと、ペクはデスクに手をつく。
静かな息の中で、自分の声が響く。
「俺がこの真実を出した瞬間、全員が壊れる。」
それでも彼は立ち上がる。
なぜなら、彼だけが“見てしまった”からだ。
逃げることは許されない。
沈黙もまた、罪になる。

この瞬間、ペク検事は“語る側”へと変わる。
彼は法の代弁者ではなく、真実の目撃者として歩き出す。
その歩みは孤独だ。
誰も彼を信じず、誰も彼を守らない。
だが、彼の中に灯ったのは希望ではなく、“正義を超えた人間の執念”だった。

第9話のこのシークエンスは、物語の「第三の目」が開く瞬間だ。
モ・ウン=語る者、アン=沈黙する者、
そしてペク=記録する者。
三つの視点が揃ったことで、ようやく物語は“真実そのもの”を映し出す準備を整えた。

だが同時に、ここからが地獄の始まりでもある。
ペクが知ってしまった“もう一つの真実”――
それは、第10話で語られる「救いのない答え」への扉だった。

モ・ウンの記憶が開く、タイでの原点

第9話の終盤、モ・ウンの意識はふたたび遠のく。
血の匂い、サイレン、点滴の音。
その断片的な音の中で、彼女の記憶はゆっくりと“最初の夜”へと遡っていく。
タイの街。
蒸し暑い夜気の中、ネオンが濡れた道路に映り、現実と夢の境がぼやけていく。

この回想は、ただの過去ではない。
それは彼女が“モ・ウン”という名前を選んだ夜――
つまり、罪の始まりであり、再生の瞬間だった。

カン・ソヘとしての最後の夜

ホテルの小さな部屋。
扇風機が軋む音がする。
カン・ソヘは鏡の前で、自分の顔を見つめていた。
疲れきった顔。
血のような赤いルージュが滲んでいる。
手の中には、妹ソマンの写真。
笑顔のままの妹は、もうどこにもいない。

「どうしてあの時、止めなかったの?」
誰もいない部屋でそう呟く。
返事はない。
それでも彼女は答える。
「止めたのに、届かなかった。」

その夜、ソヘはひとつの決意をする。
“カン・ソヘ”という名前を捨てること。
そして“モ・ウン”として生まれ直すこと。
その決意は、復讐のためでも逃避のためでもない。
それは、妹が果たせなかった「生きる」という約束を継ぐためだった。

街の外れで、彼女は偽造のパスポートを受け取る。
「名前は?」と問われて、彼女は少しだけ考える。
「モ・ウン。」
その発音には迷いがなかった。
タイ語で“沈黙”。
だが、それは同時に“記憶”という意味も持つ。

この瞬間、モ・ウン=沈黙の女は誕生する。
それは新しい名前であり、罪の継承の儀式でもあった。

“モ・ウン”という名前が背負う約束

第9話のこの回想は、過去を説明するための装置ではない。
それは“モ・ウン”という存在の定義を再構築するための映像詩だ。
カン・ソヘが名前を捨てたのは、過去から逃げるためではなく、
過去を「生かす」ためだった。

タイの夜を歩くソヘの姿が映る。
その足取りは軽くも重くもない。
ただ、風を切るように静かだ。
彼女は途中で市場に立ち寄り、小さな銀のネックレスを手に取る。
そこには「M.U」と刻まれていた。
それがモ・ウンの最初の記憶。
“モ・ウン”という名が、他人ではなく自分への約束であることを、
彼女はこの瞬間に悟っていた。

――語らないこと。
――忘れないこと。
――生き続けること。
それが、モ・ウンが自らに課した三つの掟だった。

だが、その沈黙がやがて他者を巻き込み、
嘘と正義を曖昧にすることになるとは、
このときの彼女はまだ知らない。
名前を変えるという行為は、記憶の再生であり、同時に自己の崩壊でもあった。

ベッドの上でモ・ウンは微かに目を開ける。
点滴の滴が一定のリズムを刻む。
天井を見上げたその瞳に、タイの夜の残像が映っている。
「モ・ウン」――彼女は自分の名前を、もう一度心の中で呼んだ。
それは祈りでも呪いでもない。
それは、“生きることの義務”だった。

第9話は、彼女の名前を再び“生きたもの”として蘇らせる回だ。
モ・ウンという名が持つ重さは、
もはや他人の記号ではない。
それは世界に残る“沈黙の証言”であり、
彼女が自分に課した、最後の約束なのだ。

第9話考察|真実を掴んだ者が流すのは、涙ではなく血

第9話を見終えて残る感情は、悲しみでも怒りでもない。
それは、静かに滲む“疲労”だ。
この物語の登場人物たちは、誰もが真実を追い続けながら、
その重さに押し潰されていく。
モ・ウンが流した血も、アンが抱えた沈黙も、ペクが見てしまった映像も――
どれもが同じ問いに突き当たる。
真実を知ることと、生き延びることは両立できるのか。

真実を知ることは救いではなく、再び傷つくことだ。
この世界では「正しさ」が人を癒さない。
むしろ、人を壊す。
モ・ウンが流した血は、誰かの罰ではなく、自分への罰だった。
ペクが発見した映像は、正義ではなく、呪いだった。
そしてアンが選んだ沈黙は、赦しではなく、生き延びるための本能だった。

「真実を知ること」と「生き延びること」の両立は不可能

第9話は、これまでの“真実=光”という構造を完全に壊す。
真実に近づくほど、彼らの世界は暗くなる。
ペクの映像がそれを象徴している。
真相が明らかになる瞬間、彼の顔には恐怖が浮かぶ。
それは「嘘が暴かれた」ことへの驚きではなく、
「自分がもう戻れない場所まで来てしまった」という直感だ。

真実とは、見た瞬間に自分を変えてしまう毒のようなもの。
モ・ウンはそれを知っていた。
だからこそ、彼女は最後まで“沈黙の記憶”として存在した。
語れば壊れる。
黙れば消える。
どちらを選んでも、もう昔の自分には戻れない。
この回で彼女が流した血は、まさに「知ってしまった者の代価」だ。

アンも同じ地平に立っている。
母である彼女が選んだのは、沈黙を武器にすることだった。
彼女の「逃亡」は、逃げではなく祈りだ。
真実に辿り着かないことで、彼女はかろうじて生き延びる。
その生き方は矛盾しているようで、実は最も人間的だ。
人はいつだって、自分の壊れない範囲でしか真実を受け入れられない。

人間が“正しさ”よりも“存在”を選ぶ瞬間

ペク検事の選択が、第9話の哲学的転換点だ。
彼は真実を知った瞬間、それを「暴く」よりも「抱える」ことを選んだ。
その姿は、これまでの彼とはまるで違う。
正義を信じていた男が、初めて“人間としての限界”を受け入れる。
この変化が、物語のトーンを決定的に変えている。

真実を語ることよりも、誰かの痛みを抱えたまま沈黙する。
それは臆病ではなく、成熟だ。
第9話では、“正しさよりも存在を選ぶ”という生の形が、全員に共通して現れる。
モ・ウンは血を流しながらもその場に残った。
アンは逃げながらも、まだ娘を思っている。
ペクは沈黙を抱えたまま、立ち止まった。
それぞれの選択が、“人間としてそこにいること”の証明だった。

第9話は、人間の根源的な弱さを暴きながらも、
その弱さを否定しない。
真実を求めることが無意味でも、
それでも人は語り、泣き、愛し、嘘をつく。
その矛盾の中にしか“人間らしさ”は存在しない。

そしてラストシーン、病室の天井に反射する光。
それは血の色でも涙の色でもない。
ただ、生きている者だけが見ることのできる光だった。
モ・ウンの物語はまだ終わっていない。
彼女が流した血は、
このドラマのタイトルが意味する“告白の代価”そのものだった。

沈黙を許さない世界で、人はどこまで真実を語れるのか

第9話を見ていて思ったのは、
モ・ウンやアンが抱えていた沈黙が、どこか現代の空気と重なっているということ。
誰もが何かを語らなきゃいけない。
正義を主張しなきゃ置いていかれる。
そんな“沈黙を許さない世界”の息苦しさを、このドラマは正面からえぐってくる。

真実を語ることは勇気だと言われるけど、
この物語を見ると、それは同時に暴力でもある。
SNSでの“正論”も、ニュースのコメント欄も、
みんなが正しいことを言おうとして、誰かを切り捨ててる。
モ・ウンが語ることをやめたのは、正義を諦めたからじゃない。
彼女は、語ることの残酷さを理解してしまっただけだ。

沈黙は逃げじゃない、ひとつの「責任」だ

アンの逃亡も同じ構造にある。
人は黙るとき、何かを守っている。
それが自分かもしれないし、誰かの痛みかもしれない。
でも現実の社会では、“黙る”ことが悪のように扱われる。
「本音を言わないと不誠実」「意見がないと無関心」――
そんな声の洪水の中で、人はどんどん声を失っていく。

アンが逃げながら抱えていたのは、罪悪感でも恐怖でもない。
あれは“沈黙の責任”だ。
自分が言葉を出さなかったことで、誰かを守れるかもしれない。
その可能性を、彼女は信じていた。
沈黙を選ぶことは、逃げることじゃない。
むしろ、最も痛みを伴う選択だ。

この回を見て感じるのは、語る勇気よりも、黙る覚悟の方がずっと難しいということ。
現実の僕らもきっと同じで、
「言わないでおく」っていう選択を、
どれだけ誠実に続けられるかが問われている気がする。

真実を暴くことより、“誰かを壊さないこと”のほうが大事

ペク検事の姿を見ていると、そのテーマが一層浮かび上がる。
彼は真実を掴んだ。
でも、それを公にすれば、誰かが壊れることも知っていた。
それって、まさに現実のメディアやSNSに似てる。
「知る権利」と「誰かを守る義務」――
この二つはいつだって背中合わせだ。

モ・ウンが流した血は、真実の証ではなく、“語ることの限界”そのもの。
語ることで壊れる世界を見て、
彼女はようやく理解したんだと思う。
沈黙こそ、最も正確な言葉であると。

このドラマの残酷さは、
人間の“声”がいかに他人を切り裂くかを描いているところ。
けど同時に、沈黙に宿る優しさもちゃんと描いている。
誰かを守るために嘘をつく、黙る、逃げる。
それは弱さじゃない。
それは、人がまだ人であるための最低限の優しさなんだ。

第9話を見終わって、
“正義”よりも“優しさ”のほうがよっぽど現実的な希望に思えた。
語らない勇気、沈黙を貫く強さ。
それが、嘘と真実の狭間で生き延びるための唯一の知恵なんだろう。

『告白の代価』第9話ネタバレまとめ|真実の扉の前で、二人はまだ赦されない

第9話が終わった瞬間、画面には沈黙だけが残った。
叫びも泣き声もない。
あるのは、“赦されない者たちの呼吸”だ。
モ・ウンは血を流し、アンは逃げ、ペクは沈黙する。
それぞれが違う形で真実に触れたが、誰ひとり救われなかった。

この回で描かれるのは、真実の勝利ではなく、真実の孤独だ。
正しさも愛も、すべてが壊れたあとに残るもの――それが「生きる」という行為。
第9話はそのことを、淡々と、しかし残酷なまでに描いている。

流された血が繋ぐ“真実の継承”

モ・ウンの血は無駄ではなかった。
それは過去の痛みを未来へ繋ぐ“証”だった。
妹ソマンが守れなかった命を、モ・ウンは別の形で継いだ。
その血が床に広がるたび、彼女が背負ってきた沈黙が、ようやく音を立てて崩れていく。

アンはその光景を見つめながら、自分の中の“母性の幻影”を捨てる。
彼女が守っていたのは娘ではなく、自分の罪だった。
モ・ウンの犠牲がそれを照らし出した。
そしてペク検事は、二人の沈黙を見届けた者として、
自分の沈黙を選び直す。
彼もまた、真実を語らないことでしか、真実を守れないと悟った。

この三人の行動は、善悪で語れない。
それぞれの沈黙が、それぞれの告白であり、
流された血は、彼らの“生き残るための祈り”だった。

そして、モ・ウンの最後の言葉。
「真実を知っても、人は変われない。」
その一文が、この物語全体の核を撃ち抜く。
真実とは変化ではなく、記録だ。
語られても、赦されなくても、
それはただ、そこに残り続ける。

第10話へ──語られなかった言葉の続きを追う

第9話のラスト、雨がやんだあとの病院の屋上。
ペクが空を見上げる。
その表情には決意と諦めが混ざっている。
モ・ウンの血が乾ききらぬうちに、
彼は新しい調書を開く。
タイトルは「事件再捜査の要請」。
その文字は、次の物語の“引き金”だった。

アンは逃亡の末に廃墟の教会へと向かう。
懐中電灯の光が揺れる中、
壁に残された“告白の言葉”が映し出される。
――「私はまだ、終わっていない。」
それは誰の文字なのか。
彼女自身のものか、モ・ウンのものか、それとも――。

第9話の終わり方は静かで、しかし息が詰まるほど強烈だ。
真実は明かされたのに、物語は閉じない。
むしろここから始まる。
真実の先にあるのは、赦しではなく、
“生き続けなければならない罰”だから。

『告白の代価』はこの第9話で、完全に倫理の物語から逸脱した。
もう正義の物語ではない。
これは、生き残る者たちの物語だ。
そして第10話では、その“生”がどんな形で続くのかが問われる。
――沈黙の先にあるのは、語られなかった言葉の続きを継ぐ者たちの選択。

真実の扉は開いた。
だが、その先に広がっているのは光ではない。
ただ、果てしない闇の中で、それでも歩こうとする人間の姿だ。

この記事のまとめ

  • 第9話は“真実の代価”を血で描く決定的な回
  • アンとモ・ウンの再会が「沈黙と告白」の最終形を示す
  • ヒヨンの未遂事件が“救うこと”の意味を再定義する
  • ペク検事の覚醒が「正義=孤独」である現実を映す
  • モ・ウンの記憶が“モ・ウンという名前”の原点を明かす
  • 真実を知ることは救いではなく、新たな罪の始まり
  • 沈黙を選ぶことが、最も誠実な抵抗として描かれる
  • 現代社会の“沈黙を許さない空気”への鋭い批評性
  • 語らない勇気と、優しさの強度を問う人間ドラマ
  • 第10話への布石――真実の先にある“赦されぬ生”へ続く

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