「夫婦別姓刑事」第7話は、誠と明日香の“最後の事件”という看板を掲げながら、肝心の事件がドローン映像で一気に崩れていく回だった。
ネタバレ込みで感想を書くなら、犯人の動機も事件の作りも悪くはない。ただ、マンション住人全員が怪しく見える舞台を用意しておきながら、そこを掘らずに終わった物足りなさがどうにも残る。
夫婦別姓刑事第7話は、刑事ドラマとして見ると薄い。だが、誠と明日香、そして音花をめぐる家族ドラマとして見ると、最終回前の不穏な空気だけはしっかり残してきた。
- 内山殺害事件の犯人と動機
- ドローン解決が物足りない理由
- 音花帰宅で残る四方田家の不穏
事件より、物足りなさが勝ってしまった
マンションの住人が殺され、住人全員にうっすら嫌な影が落ちる。
この舞台だけ見れば、疑心暗鬼の地獄鍋になる匂いは十分あった。
なのに、ふたを開けたらドローン映像が答えを運んできて、捜査のうま味がごっそり抜け落ちた。
ドローン映像で決着するには、マンション事件が惜しすぎる
被害者の内山は、ただ殺された人間ではなく、マンション内で煙たがられていた厄介者として置かれていた。
気難しい、口うるさい、住人から面倒に思われている、しかも喫煙の注意喚起ポスターまで貼ろうとしていた。
この時点で、本来なら容疑者の沼が一気に広がる。
内山に腹を立てていた人間は一人ではない、という空気をもっとギチギチに詰められたはずだ。
マンションという箱は、刑事ドラマにとって最高の密室予備軍だ。
隣人同士が顔を知っているようで知らない、挨拶はするが生活音には殺意が湧く、ゴミ出しや駐輪場や掲示板みたいな小さなルール違反が、じわじわ人間の底をめくる。
そこに内山みたいな正論を振り回す男を置いたなら、住人の誰が爆発してもおかしくない。
それなのに、事件の解決線がドローン映像に寄りかかりすぎたせいで、人間の嫌な匂いを嗅ぎ回る時間が短くなってしまった。
惜しかったポイント
- 内山を嫌っていた住人たちの事情が、もっと疑惑として積み上がってほしかった。
- ドローン映像が便利な証拠になりすぎて、誠と明日香の聞き込みの熱が弱く見えた。
- マンションという閉じた舞台の気味悪さを、最後まで事件に絡めきれていなかった。
怪しい住人を散らしたわりに、疑う楽しさが浅い
刑事課の面々が手分けして住人から話を聞く流れは、入口としては悪くない。
むしろ、ここから一人ずつ嘘が剥がれていく展開を期待してしまう。
「あの人ならやりかねない」と誰かが言い、「でも本当に恨んでいたのは別の住人だった」とひっくり返り、さらに「内山自身にも見えていなかった顔がある」と沈んでいく。
そういう嫌な階段を降りる準備はできていた。
だが実際は、喫煙注意のポスター、駐輪場、ドローン映像、近藤達也の喫煙という線が出た瞬間、事件の道筋がかなり見えてしまう。
もちろん、タバコを隠していた夫が妻にバレて追い詰められる構図は現実的だ。
現実的ではあるが、ドラマとしてはもう一段、視聴者を引きずり回してほしかった。
犯人にたどり着く快感ではなく、証拠に案内された感覚が強い。
犯人の達也は悪人というより、追い詰められた小心者だった
近藤達也の動機は、派手な憎悪ではない。
妻の智美にタバコを吸っていることを隠し、内山に注意され、その場に智美が来て、嘘が剥がれる。
そこから夫婦喧嘩が続き、妊娠中の妻を前に自分の弱さを責められているような日々が始まる。
達也は極悪人というより、自分のだらしなさを直視できない男だった。
内山の言葉もまた嫌な切れ味を持っていた。
「タバコを吸うなら遠くで吸え」までは正論で済む。
だが「自分の管理もできないのに子供を作るな」「奥さんも可哀想だ」まで踏み込んだ瞬間、注意ではなく人格への処刑になる。
言っている側は正義のつもりでも、言われた側の胸には刃物として刺さる。
達也が殴ったことは絶対に許されないが、爆発の火種がどこにあったかは見える。
だからこそ、事件そのものはもっと重くできた。
妊娠、喫煙、隠し事、夫婦の信頼、近所付き合い、正論の暴力。
材料は揃っていた。
それなのに終わってみると、内山という被害者の面倒くささも、達也の情けなさも、マンション全体の息苦しさも、全部が少しずつ浅く撫でられた印象で終わる。
人間ドラマとしての種はあるのに、刑事ドラマとしての刈り取りが早すぎた。
誠と明日香が最後のバディになるかもしれないという空気を背負っていたからこそ、事件にももっと噛みついてほしかった。
ドローンの映像で道を照らすのではなく、住人の嘘、夫婦の亀裂、内山の嫌われ方を一枚ずつ剥いで、最後に達也の弱さへたどり着く形なら、同じ犯人でも後味はまるで違ったはずだ。
結局、残ったのは「解けた」という満足より、「もっと濃くできただろ」という未練だった。
内山殺害の引き金は、タバコと夫婦喧嘩だった
事件の根っこにあったのは、巨大な悪意ではない。
たった一本のタバコ、隠していた嘘、夫婦の間に落ちた小さな亀裂。
ただ、その小ささが逆に生々しい。
人は大事件の前でだけ壊れるんじゃない。
毎日の生活の中で、誰にも見えない場所をじわじわ削られて、ある朝いきなり手を出す。
喫煙を隠した夫、暴かれた嘘、壊れていく家庭
近藤達也は、妻の智美にタバコを吸っていることを隠していた。
それだけ聞けば、情けないが珍しい話ではない。
禁煙すると言ったのか、妊娠中の妻を気遣うふりをしていたのか、そこまでは細かく描かれないが、少なくとも達也は「吸っていない夫」の顔をして家にいた。
その仮面を、内山が駐輪場で引き剥がした。
夜の駐輪場で、達也はイライラをタバコに逃がす。
そこで内山に注意され、騒ぎになる。
運の悪いことに、智美がその場に来てしまう。
タバコを吸っていた事実は、夫婦だけの問題ではなく、近所の住人の前で暴かれた恥になった。
達也からすれば、怒られたことより、妻の前で嘘つきとして丸裸にされたことが刺さったはずだ。
達也を追い詰めたもの
- 妻に隠していた喫煙がバレたこと。
- 妊娠中の家庭で、自分だけがだらしない人間に見えたこと。
- 内山の注意が、ただのマナー違反ではなく夫婦関係まで壊したこと。
ここから夫婦喧嘩が絶えなくなる。
タバコを吸ったこと自体も問題だが、それ以上に「隠していた」ことが重い。
妊娠中の智美にとって、夫の嘘は生活の土台を揺らす。
子どもを迎える前に、目の前の男を本当に信用していいのか。
一度そう思ったら、夫婦の会話は全部疑いを含むようになる。
内山の正論が、人を刺す刃物みたいに響く
内山は間違ったことを言っていない。
マンションの駐輪場でタバコを吸うなという注意は、むしろ当然だ。
住人が使う場所で煙を撒き、吸い殻や臭いを残す人間がいたら、誰かが言わなければならない。
問題は、内山の正論がいつも人間の逃げ場を潰す方向へ向かうところだ。
掲示板に注意喚起のポスターを貼ろうとしていた内山は、ルールを守る側の人間として立っている。
だが、達也に向けた言葉はマナー注意の範囲を踏み越える。
「タバコを吸うなら遠くで吸え」はわかる。
「自分の管理もできないのに子供を作るな」は、もう生活への介入だ。
正しさを握った人間が、相手の人生まで裁き始める瞬間がここにある。
内山は、達也の喫煙だけを責めていない。
夫として、父になる人間として、家庭を持つ資格まで踏みつけている。
達也の中には、すでに智美との喧嘩で削られた劣等感があった。
そこへ内山が、他人のくせに一番痛い場所へ言葉をねじ込む。
だから達也は殴った。
もちろん許されない。
だが、なぜ手が出たのかは嫌になるほどわかる。
“子供を作るな”の一言で、ただの注意トラブルを越えた
この事件で一番重いのは、達也が激情型の殺人鬼ではないところだ。
計画を練り、殺意を煮詰め、相手を消すために動いたわけではない。
朝、つわりで寝ている妻がいる。
自分は夫として不甲斐ない。
そんな状態で、内山が掲示板にポスターを貼っている。
そこへまた正論を浴びせられる。
「奥さんも可哀想だ」という言葉は、達也にとって最後の一撃だった。
智美を傷つけている自覚は、たぶん本人の中にもある。
だからこそ他人に言われた瞬間、耐えられなくなる。
人は図星を突かれたときほど、怒りを正義の顔にすり替える。
達也の拳は、内山への怒りであると同時に、自分自身の情けなさを見たくないという逃げだった。
ここがもっと深く描かれていれば、事件の後味はさらに苦くなった。
妊娠中の妻を持つ夫が、喫煙を隠し、嘘がバレ、夫婦の信頼を失い、最後は他人の正論に潰される。
この流れは、かなり人間臭い。
派手なトリックよりも、日常の汚れで人が壊れる話として強い。
ただ、映像証拠で捜査が進むテンポの良さが、その生々しさを少しだけ削ってしまった。
内山は厄介者だった。
達也は弱い男だった。
智美は巻き込まれた妻だった。
誰か一人を単純に悪として切れば楽だが、この事件はそこまで単純ではない。
正論が人を追い込み、嘘が家庭を壊し、弱さが暴力に化けた。
だからこそ、解決後にスカッとしない。
犯人が捕まっても、マンションの空気はきっと元に戻らない。
智美の中に残った不信感も、達也の犯した取り返しのつかなさも、ドローン映像のようにきれいには巻き戻せない。
刑事ドラマの快感が、ちょっと足りない
いちばん痛かったのは、事件が解ける気持ちよさより、便利に片づいた印象が前に出たことだ。
誠と明日香が積み上げて真相を削り出すというより、証拠のほうから犯人の影を差し出してきた。
刑事ドラマでそれをやられると、見ている側の脳みそが置いていかれる。
聞き込みの積み重ねより、証拠映像の便利さが前に出た
刑事ドラマの面白さは、犯人が誰かだけではない。
誰が嘘をついているのか、何を隠しているのか、捜査する側がどの違和感に食いつくのか、そこを一緒に追うのが楽しい。
今回も刑事課の面々がマンション住人に聞き込みをしていたが、その聞き込みが真相を引きずり出したというより、ドローン映像を確認するための通路に見えてしまった。
捜査の主役が人間ではなく映像になってしまったのが、どうにも惜しい。
区の環境課の映像を見せてもらい、注意されていた人物を探し、近藤達也へたどり着く。
流れとしてはわかる。
現代の捜査なら、防犯カメラやドローンや記録映像が絡むのは自然だ。
ただ、ドラマでそれを真正面からやりすぎると、刑事たちの嗅覚が薄くなる。
誠の妙な粘り、明日香の冷静な観察、二人の夫婦だからこそ拾える会話のズレ。
そこがもっと事件に噛みついてほしかった。
見たかった捜査のうま味
- 住人の証言が少しずつ食い違い、内山への恨みが別方向へ伸びていく流れ。
- 誠と明日香が夫婦の感覚で、達也と智美の会話の不自然さに気づく場面。
- 映像証拠は最後の決め手にして、途中は人間の嘘で視聴者を迷わせる構成。
もっと疑わせて、もっと裏切ってほしかった
マンションの住人が被害者という設定は、本来かなりおいしい。
生活圏が近い人間ほど、恨みは細かく、くだらなく、しつこい。
エレベーターで会うたびに腹が立つ、掲示板を見るたびに思い出す、駐輪場の使い方ひとつで殺意の芽が出る。
そういう日常の湿った怒りを、もっと画面に充満させてよかった。
内山は嫌われていた。
だったら、住人それぞれに「殺すまではいかないが、消えてほしい理由」が欲しい。
騒音で揉めた人間、ゴミ出しを注意された人間、管理組合で対立した人間、挨拶の仕方ひとつで根に持っている人間。
そういう小さな憎しみを積み上げておけば、達也の喫煙トラブルが出てきたときにも、すぐ犯人に見えずに済んだ。
犯人が誰かを当てる前に、人間がどこまで汚れるかを見せてほしかった。
佐藤二朗の笑いも、事件の弱さを隠しきれない
誠という人物は、真面目だけで押す刑事ではない。
佐藤二朗の間、言いよどみ、急な圧、空気をねじ曲げるような笑いが、この作品のかなり大きな武器になっている。
だから、お別れムードの場面でも、笑いで押し切ろうとする力技はあった。
だが、事件そのものが弱いと、その笑いが支えではなく、穴埋めに見えてしまう瞬間がある。
前半も後半も、誠と明日香がもう一緒に働けないかもしれない空気が流れる。
ただ、視聴者としては「いや、どうせ普通に続くだろ」とどこかで読めている。
そこへ事件のほうまであっさり進むと、緊張の柱が二本とも細くなる。
笑いが悪いのではない。
笑いを受け止めるだけの事件の重さが足りなかった。
この作品は、夫婦別姓という題材を背負いながら、刑事バディの軽さも持っている。
だからこそ、事件が濃ければ濃いほど、誠と明日香の掛け合いが浮き上がる。
逆に事件が小粒だと、家庭の話、職場の話、笑いの場面が全部バラけて見える。
内山殺害の背景には、正論の暴力や夫婦の不信という強い材料があった。
そこをもっと深くえぐっていれば、佐藤二朗の笑いも、ただの脱力ではなく、苦い事件の中で息をするための笑いになったはずだ。
結局、刑事ドラマとして欲しかったのは、犯人の意外性だけではない。
誠と明日香が聞いて、見て、引っかかって、間違えて、それでも最後に人間の弱さを掴む手触りだ。
ドローンは便利だ。
だが、便利なものほどドラマの毒を薄める。
事件は解決したのに、捜査を見た満腹感が残らない。
そこがどうしても悔しい。
“最後の事件”の空気は茶番で終わったが、それでよかった
誠と明日香が、もう同じ場所で働けないかもしれない。
そんな別れの空気が流れたわりに、結局は今まで通り。
拍子抜けではある。
ただ、この作品に関しては、その肩透かしこそ正解に見える。
大げさに泣かせるより、変な顔をして元の場所に戻るほうが、この夫婦にはよく似合う。
異動ムードの別れ芝居は、最初から本気にしにくい
誠と明日香の結婚が職場に広がり、周囲がざわつき、二人のバディ関係にも終わりが来るような空気が出る。
刑事として、同じ部署で夫婦が組むのはどうなのか。
公私混同ではないのか。
そういう問題提起は、タイトルの芯にも関わる。
だが、見ている側からすると、ここで本当に二人を引き離すとは思えない。
このドラマの面白さは、夫婦でありながら別姓で、しかも刑事として並んで立つズレにある。
だから、別れの挨拶めいた場面が来ても、どうしても茶番の匂いがする。
もちろん、登場人物たちは本気で湿っぽくしている。
誠も明日香も、周囲の刑事たちも、ひとつの区切りのように振る舞う。
しかし視聴者の頭の片隅では「いや、終わらんだろ」がずっと鳴っている。
ここで本当に離したら、番組の看板を自分で折りにいくことになる。
だから泣かせに来れば来るほど、少しだけ白々しくなる。
別れムードが効ききらなかった理由
- 誠と明日香の関係こそが作品の中心なので、本当に解体するとは思えない。
- 事件の緊張が弱めだったため、職場の別れ話だけで引っ張るには重さが足りなかった。
- 佐藤二朗の芝居が笑いに寄るぶん、湿っぽさが本気の別離に見えにくかった。
誠と明日香が普通に働ける結末は、このドラマらしい肩透かし
結局、二人は今まで通り働けることになる。
この結末に、ものすごい驚きはない。
むしろ予想通りだ。
ただ、その予想通りを雑に感じるか、らしいと受け取るかで印象が変わる。
自分は、ここは悪くないと思う。
この夫婦に必要なのは劇的な別れではなく、面倒くさい日常の継続だからだ。
夫婦別姓を選び、職場では刑事同士として向き合い、家では家族の問題を抱える。
その状態がすでに十分ややこしい。
ここへ異動だの解散だのを本気で乗せると、物語の焦点が散る。
むしろ「はい、結局そのままです」と戻したことで、誠と明日香の関係は変にドラマチックになりすぎずに済んだ。
この二人は、泣いて抱き合って別れるより、文句を言いながら同じ現場に向かうほうが生きる。
夫婦バディの関係は壊れず、むしろ次の火種を抱えた
ただ、元通りになったから安心、とはならない。
二人の職場問題は一度丸く収まったように見えるが、家庭のほうには別の波が来ている。
音花が次の部屋が見つかるまで家に戻ってきた。
これで四方田家には、誠、皐月、音花の三人の生活が戻る。
家族がそろっただけなら温かい場面で終わる。
だが、そこに妙な視線が絡むから気持ち悪い。
音花の帰宅は、ただの家族再生ではない。
これまで不穏に漂っていた人物の存在を考えると、むしろ危険地帯に戻ってきたようにも見える。
誠と明日香のバディが継続し、職場の問題が片づいた瞬間、今度は家の中へ不安が入り込む。
事件が終わった場所ではなく、家庭の入口に火種を置いていくのがいやらしい。
この作品は、刑事事件だけで押すタイプではない。
事件の後ろに、夫婦、家族、職場、世間体、名前の問題が絡んでいる。
だから“最後の事件”という看板が茶番で終わっても、物語そのものが終わる気配はない。
むしろ、誠と明日香が普通に働けるようになったことで、逃げ場がなくなった。
職場でバディを続け、家では家族の不穏を抱え、過去から伸びてくる視線にも向き合わなければならない。
別れないことが幸せとは限らない。
続くからこそ、しんどい。
誠と明日香は引き離されなかった。
だが、その代わりに、もっと面倒な現実へ戻された。
肩透かしに見える結末の裏で、次の不穏だけはしっかり残っている。
そこだけは、妙にうまい。
竹原ピストルの不気味さだけが、まだ終わらせてくれない
事件は片づいた。
誠と明日香も、ひとまず職場に残った。
家族も戻ってきた。
普通なら、ここで少し笑って終われる。
だが、画面の端にあの男の気配があるだけで、空気が一気に湿る。
安心させる顔ではない。
むしろ、安心した瞬間に背中へ手を置いてくる顔だ。
ここまで引っ張って犯人じゃないなら、何のための視線なのか
竹原ピストルが出てくるたびに、どうしても画面の温度が変わる。
何かを知っているのか、何かを企んでいるのか、それともただ不穏に見えるだけなのか。
はっきりしない。
だが、はっきりしないからこそ嫌なのだ。
説明されない不気味さは、説明された悪意より長く残る。
ここまで引っ張っておいて、もし事件の犯人でも黒幕でもないなら、あの視線は何だったのかという話になる。
ただのミスリードにしては存在感が強すぎる。
視聴者に「何かある」と思わせるためだけに置かれた人間なら、少しもったいない。
あのニヤつきには、物語の奥歯に挟まった魚の骨みたいな気持ち悪さがある。
取れそうで取れない。
飲み込もうとしても、まだ喉の奥に残っている。
まだ残る嫌な引っかかり
- 誠の家族周辺にまとわりつくような視線が、偶然にしては濃い。
- 事件と直接つながらないぶん、逆に別の危険を抱えていそうに見える。
- 何もないなら何もないで、ここまで不穏に見せた意味が問われる。
音花が家に戻ったことで、安心より嫌な予感が濃くなった
音花が四方田家に戻ってきた。
次の部屋が見つかるまでという条件つきで、誠、皐月、音花の三人暮らしが始まる。
普通に見れば、娘が実家へ帰ってきて少し落ち着く場面だ。
だが、これまでの流れを見ていると、どうにも素直に喜べない。
家族がそろった瞬間に、家が安全地帯ではなく狙われる場所に見えてくる。
音花は、物語の中でただの娘という位置に収まっていない。
誠の家庭の弱点であり、皐月との関係を映す鏡であり、明日香との夫婦バディ問題とは別の角度から四方田家を揺らす存在でもある。
そこへ不気味な男の視線が絡む。
もう嫌な予感しかしない。
父親が刑事であることは、家族を守る武器にもなるが、同時に家族を事件へ近づける磁石にもなる。
斉藤由貴、齊藤京子、ドナルドの匂わせもまだ捨てきれない
終盤には、斉藤由貴、齊藤京子、ドナルドまで意味ありげに残る。
これが本当に意味のある配置なのか、ただの引っかけなのかはまだ読みにくい。
だが、刑事事件が小粒で終わったぶん、こういう匂わせのほうが妙に記憶へ残ってしまう。
事件の真相より、事件の外側にいる人間たちの目つきのほうが怖い。
特に、小寺園みちるの存在は軽く流せない。
斉藤由貴が演じている時点で、ただ座っているだけでも何かを隠していそうに見える。
齊藤京子の郡司綾も、単なる職場の一員として終わるのか、それとも誠と明日香の関係に別の角度から刺さってくるのか、まだ見えない。
ドナルドに至っては、名前の響きだけで妙な異物感がある。
事件が終わったあとに残る違和感こそ、最終局面へ向けた本当の餌なのかもしれない。
内山殺害は、ドローン映像でかなり早く道筋が見えた。
そのぶん、物語の奥に残った不穏だけがやけに濃く見える。
誠と明日香のバディは継続。
音花は家に戻る。
そして、画面の端にはまだ気持ち悪い視線がある。
これで何も起きなかったら、さすがに肩透かしが過ぎる。
本当に怖いのは、解決した事件ではなく、まだ名前のついていない危険だ。
そこだけは、しっかり次の火種として燃え残っている。
ネタバレ感想のまとめ
内山殺害事件は、決して素材が悪かったわけではない。
むしろ、タバコ、妊娠中の妻、隠し事、マンション内の嫌われ者、正論で人を追い詰める被害者という、かなり嫌な材料がそろっていた。
ただ、料理の火加減が早すぎた。
もっと煮込めたはずの人間の汚さが、ドローン映像の便利さに押し流されてしまった。
事件単体では小粒、最終盤の山場としては弱い
内山は、マンション住人から厄介者扱いされていた。
喫煙注意のポスターを貼ろうとし、駐輪場でタバコを吸う達也にも容赦なく踏み込む。
この被害者像なら、本来は住人全員が少しずつ怪しく見える展開にできた。
誰かがゴミ出しで揉めていたかもしれない。
誰かが騒音で恨んでいたかもしれない。
誰かが管理組合のルールで追い詰められていたかもしれない。
マンションという箱には、殺意の種をばらまく余地がいくらでもあった。
ところが、捜査の流れは思ったより素直に達也へ向かう。
ドローン映像で注意されていた人物が見え、喫煙を隠していた夫という事情が浮かび、内山との衝突が見えてくる。
筋は通っている。
だが、視聴者が疑って、迷って、裏切られる時間が短い。
犯人がわかることより、犯人にたどり着くまでの泥の中を歩きたかった。
そこを歩かせてもらえないまま、足元に舗装道路を敷かれた感じが残る。
感想を乱暴にまとめるとこうなる
- 事件の動機は生々しいが、捜査の展開が便利すぎた。
- 内山の嫌われ方をもっと膨らませれば、マンション全体が怖くなった。
- 達也の弱さはリアルだが、犯人としての見せ方にもう一押し欲しかった。
それでも家族パートの不穏さだけは残った
事件は小粒だった。
しかし、家族まわりの空気は妙に後を引く。
誠と明日香は、最後のバディになるかもしれないという湿った空気を経て、結局いつも通り働けることになった。
ここは肩透かしではあるが、この夫婦にはそれでいい。
大げさに引き裂かれるより、気まずさも世間体も飲み込んで、また同じ現場へ向かうほうが似合っている。
問題は、四方田家に音花が戻ってきたことだ。
次の部屋が見つかるまでという理由は自然だが、あの家が本当に安全な場所に見えない。
誠、皐月、音花の三人がそろうことで、家族の形は戻る。
だが、そこに竹原ピストルの不気味な視線が重なると、温かい帰宅ではなく、危険な場所へ娘が戻されたように見えてくる。
家族がそろった安心感より、家族ごと狙われる嫌な予感のほうが強い。
ドローンで解けた事件より、まだ解けていない人間関係のほうが怖い
内山殺害は解決した。
達也は、自分の嘘と弱さを内山の正論に突かれ、取り返しのつかない一線を越えた。
そこにあるのは、派手な悪ではなく、日常の中で腐っていく小さな逃げだ。
だからこそ、本当はもっと苦くできた。
正論を振りかざす被害者、嘘を隠す夫、妊娠中の妻、息苦しいマンション。
どれも人間ドラマとしては濃い。
なのに、事件としての見せ方が軽く、最終盤へ向けた爆発力には届かなかった。
それでも、最後に残した不穏は無視できない。
斉藤由貴、齊藤京子、ドナルドの意味ありげな配置。
竹原ピストルのにやけた存在感。
そして音花の帰宅。
事件そのものより、事件の外側に転がっている火薬のほうがよほど怖い。
一番引っかかるのは、解決した内山殺害ではなく、まだ何も起きていない四方田家のほうだ。
正直、刑事ドラマとしては物足りない。
もっと疑わせて、もっと裏切って、もっと住人たちの腹の底を見せてほしかった。
ただ、最終局面へ向けて家族の足元に嫌な影を落とした点だけは残る。
事件は浅く終わったが、不穏だけはまだ沈んでいない。
その沈み方が、いちばん嫌で、いちばん気になる。
- 内山殺害事件は、ドローン映像で一気に真相へ近づく展開
- マンション住人全員が怪しく見える舞台設定はかなり惜しい
- 犯人の達也は、喫煙の嘘と夫婦喧嘩で追い詰められた男
- 内山の正論は、注意を越えて人格を刺す言葉になっていた
- 刑事ドラマとしては、聞き込みや疑惑の積み上げが物足りない
- 誠と明日香の“最後の事件”ムードは肩透かしで終わった
- それでも夫婦バディ継続は、この作品らしい落としどころ
- 音花の帰宅と竹原ピストルの不気味さが新たな不穏を残す
- 事件より、まだ解けていない四方田家の火種が気になる結末





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