『光が死んだ夏』第8話「接触」は、前話の血と涙の契約が生んだ余波を描く物語です。
過去の禁忌、村に広がる“ケガレ”、そしてヒカルが初めて感じた「痛み」――それぞれの接触が織りなす共鳴は、解決ではなく破滅の鐘を鳴らし始めました。
本記事では、感情と構造の交差点から第8話を深掘りし、キャラクターの選択がどのように物語の業を浮かび上がらせたかを考察していきます。
- 第8話「接触」が描く共鳴と破滅の構図
- ヒカルに芽生えた「痛み」と人間化の意味
- 村の呪いと異能者たちの交差点の正体
第8話「接触」の核心：共鳴がもたらすのは救いではなく破滅
第7話で交わされた血と涙の契約は、第8話で早くも余波を見せ始めます。
その余波は単なる「友情の深化」ではなく、もはや救いではなく破滅を呼び込む共鳴として物語を加速させます。
この章では、まず二人の新しい日常に潜む歪さを確認し、その背後に横たわる村の禁忌と「ヒチさん」という血塗られた記憶を解剖していきます。
血の契約が生んだ「共犯者」としての新しい日常
物語は、静かな朝の情景から始まります。
よしきが流し場で血に染まったシャツを洗う姿は、まるで殺人の証拠隠滅そのもの。
しかし、そこに漂う空気は罪悪感ではなく、すでに二人が「共犯者」としての関係に踏み込んだことを示す穏やかさです。
ヒカルの「実際そんな感じやろ」という無邪気な言葉に、よしきが静かに応じる短いやり取り。
ここには、彼らが忌まわしい事件を「過去の事故」ではなく二人だけの儀式として受け入れてしまった事実が凝縮されています。
この場面が不気味なのは、恐怖の記憶が日常へと転化する速度にあります。
人間は通常、殺人や流血をトラウマとして抱えます。
しかし二人は、その血を洗う行為を「日常の延長」として処理しようとする。
これは単に二人の精神が壊れているのではなく、むしろ共犯関係における心理的合理化の表れだと読めます。
つまり「共に罪を背負う」ことでしか、彼らは自分を守れない。
この共鳴は互いの心を支えると同時に、より深い奈落へ引きずり込む鎖でもあるのです。
さらに象徴的なのは、ヒカルが「傷は直した」と淡々と告げる場面です。
ここで痛みを伴わない彼と、その血を洗い流すよしきとの間に、非対称性の構造が際立ちます。
一方は人間の常識を逸脱し、他方はその異常を日常に組み込む。
この非対称こそが、新しい日常を成り立たせる危ういバランスであり、同時に破滅の前触れでもあります。
村の禁忌と「ヒチさん」が示す人身御供の記憶
二人の調査が進むにつれ、物語は村の奥底に眠る禁忌へと触れていきます。
特に印象的なのは、ヒカルの祖父が口にした「ヒチさん」という名前です。
それはまるで意識の混濁から漏れ出た呟きでありながら、村の成り立ちに関わる重大な鍵を示していました。
祖父は「ヒチさんを山に返さんと」「あの人はかわいそうな人や」と語ります。
ここで重要なのは、「ヒチさん」が「さん付け」で呼ばれている点です。
それは神ではなく、もともと一人の人間だった可能性を強く示唆します。
つまり「ヒチさん」とは、かつて村人たちが「のうぬき様」へ捧げた生贄、あるいはその象徴となった人物だったのではないでしょうか。
この推測を裏付けるのが、「人殺しの村」「業が深い」という祖父の言葉です。
村の繁栄が犠牲の上に成り立っていたという告白は、ただの怪異譚を越え、共同体が抱える原罪をあらわにします。
つまり「接触」とは、よしきとヒカルがただ異能や怪異に触れたのではなく、村そのものが背負う人身御供の記憶と接続したという意味を帯びているのです。
ここで強調しておきたいのは、物語が意図的に宗教的儀式と個人の罪を二重写しにしていることです。
二人が血を分かち合った契約は、村の歴史において繰り返されてきた「生贄の儀式」のエコーに他なりません。
この構造を読み解くとき、私たちは作品が描く恐怖の本質に気づきます。
それは怪異の恐ろしさではなく、人間社会が過去に繰り返してきた暴力と犠牲の連鎖が今も形を変えて生きている、という恐怖なのです。
第8話「接触」は、二人の共犯関係を通じてその歴史と共鳴し、物語を次なる段階へと引き上げました。
しかしそれは救済への接続ではなく、むしろ破滅への回路です。
ここに描かれる「接触」と「共鳴」は、希望の音色ではなく、不吉な前奏曲として響き続けています。
“ケガレ”の侵食：日常に入り込む異常
第8話の恐怖は、村の過去や禁忌の記憶だけに留まりません。
“ケガレ”はついに日常へと溢れ出し、少年たちの周囲をじわじわ侵食していくのです。
静かな朝に始まった物語は、やがて学校という「安全圏」ですら揺るがす異常事態へと変貌し、二人の共犯関係をより過酷な状況に追い込みます。
朝子の耳と、よしきの「嫌わんといてや」
よしきとヒカルの異常な関係を映し出す鏡として、朝子の存在はきわめて重要です。
彼女は「あの日」以来、右耳が聞こえにくくなったと打ち明けます。
それは怪異に触れた証であり、彼女が「普通の人には聞こえない声」を感知できる体質を持つことの代償でもあります。
朝子は「あの光、やっぱりおかしかった」と疑念を口にし、光＝ヒカルが別物である可能性を示唆します。
そのとき、よしきは静かに、しかし切実に言います。
「あんまり嫌わんといてやってや」
この一言に、彼の感情の複雑さが凝縮されています。
ヒカルが朝子を傷つけた事実を知りつつ、なお彼を庇おうとするよしき。
それは「友を守る」以上に、自分自身の選択を肯定してほしいという切実な叫びです。
彼は「いや、冗談」と微笑みながら嘘を被せます。
この笑みは視聴者の胸を裂くような痛みを残しました。
庇う嘘は、彼自身をも傷つけるからです。
つまり、この場面は「ケガレ」の侵食を示すだけでなく、人間関係をも歪めていく力を示しています。
朝子の耳に宿った違和感は、ただの身体症状ではなく、人間関係の裂け目を象徴しているのです。
校庭の絶叫と、白昼に起きた悪夢
異常はさらに露骨な形で現れます。
授業中、校庭に全裸の男が出現し、首を刎ねて自死する。
一見すると「狂気の人間の自殺事件」ですが、ヒカルは冷静に告げます。
「あれ、人やで」
この言葉は二重の意味を持ちます。
一つは、視聴者やよしきが「怪異」だと思い込むものが、実は「人間が憑依された結果」であるという事実。
もう一つは、怪異と人間の境界がもはや崩壊しつつあることを突きつける宣告です。
朝子は「入られてまったんや」と呟きます。
つまり“ケガレ”は、もはや異界のものではなく、現実世界に侵入して人間を操る存在であると描かれたのです。
ここで描かれる恐怖は、ただの怪異ではありません。
人が人でなくなる瞬間を目撃する恐怖です。
それはホラー的な驚きではなく、観る者に「自分もいずれ侵されるのでは」という不安を根付かせます。
さらに重要なのは、この惨劇が「昼間の学校」という、最も安全であるはずの空間で起こったことです。
ホラーは往々にして「夜」「山奥」「廃墟」といった舞台を選びます。
しかしここでは、安全圏のはずの場所を反転させることで、観る者に日常の延長に恐怖があると告げるのです。
この事件は、よしきとヒカルにとっても決定的な転換点です。
ヒカルが「痛み」を感じるきっかけは、この混乱のさなかに訪れます。
つまり、ケガレが侵食する過程は、同時にヒカルを「人間化」させる契機でもあるのです。
侵食は恐怖であると同時に、変化のトリガーでもある。
この二重性が物語をさらに不気味な方向へ押し進めていきます。
第8話はこうして、「日常に入り込む異常」という形でケガレの存在を可視化しました。
それは恐怖の拡張であると同時に、キャラクターの心理と関係性を揺さぶる舞台装置として機能しているのです。
この先、日常はどこまで侵食されるのか。
そして、侵食によって変わり始めたヒカルと、彼を支えるよしきはどこへ流されていくのか。
ヒカルに芽生えた「痛み」―人間性と脆弱性の両義性
第8話最大の衝撃は、ヒカルが初めて「痛み」を感じた瞬間です。
それは些細な出来事――パニックの中で机に肘をぶつけただけ。
しかし、このささやかな仕草が物語全体の意味を反転させました。
不死身に近かった存在が、人間と同じく傷つくという現実に触れたのです。
“痛み”という感覚の獲得は、彼の物語を次なる段階へと押し出す触媒となりました。
痛覚の獲得が意味する人間化の兆し
ヒカルはこれまで「肉体を借りている存在」でしかありませんでした。
痛みや疲労といった人間的な感覚を欠落させていたため、彼は超然とした異物として描かれてきました。
ところがこの場面で、彼は初めて「痛い」と顔をしかめます。
この反応は、ただの身体的変化ではなく魂がよしきと接触し混ざり合った結果だと考えられます。
第7話でよしきが受け取った“ナニカ”の欠片――それは血の契約を越えて、魂の回路を直結させた。
その影響が逆流し、よしきの「人間性」がヒカルの内へと侵入したのです。
ここに生まれたのは、単なる能力の変化ではなく倫理の可能性です。
痛覚を得ることで、彼は初めて他者の痛みに共感する前提を持ち得ます。
これまで「人を傷つけても痛みを理解できなかった」彼が、今後はその重さを理解し始めるかもしれない。
痛覚は倫理の扉を開く鍵となるのです。
だが同時に、この変化は彼を“人間の脆弱性”に引き込む始まりでもあります。
超然とした存在が、ついに地上に足をつけた瞬間。
それは観る者にとっては希望の芽に映ると同時に、物語的には危険の兆候でもあるのです。
強さから弱さへ――諸刃の進化
「痛み」を得たことは、ヒカルの物語に二重の意味を与えます。
ひとつは、人間的な成長としての希望。
もうひとつは、これまで保っていた“無敵性の喪失”です。
ホラーや怪異譚において、「痛みを感じない存在」は恐怖の象徴です。
しかし、その象徴性は同時に「世界の理から逸脱した孤独」を背負わせます。
ヒカルが「痛み」を得たということは、彼がついに世界の理に引き戻されたということ。
それは孤独を緩和する代償として、戦闘的優位を削ぎ落とす進化なのです。
この諸刃性をどう読むかが、第8話以降のテーマになります。
痛みを感じる＝弱くなる。
弱くなる＝他者と同じ立場に立つ。
その連鎖の果てに、彼が得るのは救済か、それとも破滅か。
よしきにとっても、この変化は危険を孕みます。
「共犯者」として共鳴してきた二人の関係は、強靭さの上に築かれてきました。
しかし痛みを得た瞬間、ヒカルはよしきに守られる存在へと傾いていく。
力の均衡が崩れた共犯関係は、果たして持続可能なのか。
この問いが、第8話の核心を貫いています。
「痛み」は人間性の証明であり、同時に物語を危うくする毒でもある。
それは希望と破滅を同時に内包するシグナルであり、次の章へと物語を押し進める両刃の剣なのです。
村の起源と祟り神「のうぬき様」
第8話「接触」は、ただキャラクター同士の感情劇にとどまりません。
物語はさらにスケールを広げ、村そのものを覆う呪いの構造を描き出します。
図書館で明かされる地名の由来、そして司書・松浦による口承。
それらは「のうぬき様」がもともと“恵みを与える神”であったはずが、いつしか「祟り神」と化した過程を暴き出すものでした。
地名に刻まれた人体解体の呪い
よしきが古い地図を調べる場面は、背筋の凍る演出でした。
「首立」はかつて「首断」と書かれていた。
周囲には「腕刈」「腕入」「足取」といった地名。
これらを線で繋げると、まるで解体された人間のシルエットになるのです。
ここで描かれるのは、単なる怪異設定ではありません。
地名そのものに“血の記憶”を刻み込むという、土地と呪いの同一化です。
日本各地に「鬼の首塚」「片足谷」など人体の部位にまつわる伝承は存在します。
しかし、それを地図全体に広げ、人体解体の形に再構成する発想は、創作的な恐怖の飛躍であり、本作独自の仕掛けです。
この演出の凄みは、視聴者に「逃げ場のなさ」を意識させる点にあります。
村全体が巨大な祭壇である以上、よしきやヒカルはただ“村から出ればいい”という選択を取れない。
舞台そのものが呪いであるからこそ、物語の閉塞感は極限まで高められるのです。
また、この人体地名の仕掛けは、祈りと犠牲の痕跡を可視化する手段でもあります。
人身御供が村の繁栄の代償として行われた歴史が、地名に偽装されて残された。
つまり地図を読むこと自体が、村の原罪を再び解体し直す行為なのです。
視聴者にとってはミステリー的な発見の快感と、歴史の血腥さが同時に襲いかかる瞬間でした。
祟り神化した「のうぬき様」と寛永二年の飢饉
さらに衝撃的だったのは、司書・松浦の口から語られる「のうぬき様」の正体です。
もともとは捧げものと引き換えに恵みを与える神だった。
しかしある時を境に、供物を求め続ける祟り神へと変貌したのだと。
松浦の言葉は、祖父が語った「ヒチさん」と響き合います。
人間の命、あるいは身体の一部が供物として差し出され、村はその犠牲と引き換えに存続してきた。
寛永二年の飢饉という史実が持ち出されることで、この設定はさらにリアルさを増します。
実際、1625年前後の「寛永の大飢饉」は冷害や疫病による深刻な凶作の時期でした。
飢えに追い詰められた村人たちが、これまで以上に過激な儀式を行ったとしても不思議ではありません。
人間の命を差し出す最後の手段が、神を祟り神に変えてしまった。
この変質は、信仰の暗黒面を象徴する出来事として物語に刻まれています。
ここで浮かび上がるのは、「のうぬき様」が単なる怪異ではなく、共同体の欲望が生み出した怪物だという事実です。
生き延びたい、豊作を得たい、平穏を維持したい。
その祈りの果てに、人々は犠牲を積み重ね、神を「祟り神」へと堕落させてしまった。
松浦の妹の死が語られる場面は、この祟りが過去の出来事ではなく今なお続いていることを示しています。
よしきが「死って重いわ」と初めて口にするのも象徴的です。
それは単なる他人の死ではなく、死者の背後にいる家族の痛みを理解する契機となりました。
第8話における「のうぬき様」の描写は、過去と現在をつなぎ、個人の物語を共同体の歴史へと拡張させます。
その呪いの構造を直視したとき、視聴者もまた「この村から逃げられない」という感覚を共有せざるを得ません。
「接触」とは、異能者と怪異だけでなく、歴史と現在を結ぶ共鳴でもある。
それが本作の恐怖を単なるホラーに留めず、人間社会が背負う原罪の物語へと引き上げているのです。
異能者たちの交差点―田中と暮林理恵の登場
第8話「接触」の終盤では、舞台がさらに広がりを見せます。
それはよしきとヒカルの関係だけでなく、異能を持つ者たちが一点に収束していく交差点として描かれました。
田中という怪しげな男、そして暮林理恵という女性。
彼らの登場は、物語を「少年たちの秘密」から「異能者同士の共鳴」へと推し進める触媒となったのです。
「化けハム」を連れた田中が示すよしきの変質
夜道でよしきが出会った田中は、一見すると奇妙な人物に過ぎません。
しかし彼の腕に抱えられたハムスター――「化けハム」という存在が、その異常性を露わにします。
ハムスターの寿命は通常2～3年。しかし田中は「12年飼っている」と平然と語る。
この矛盾そのものが“ケガレに触れた者”の証明なのです。
田中はよしきの腕の痣に気づき、「君、僕と似てるよ」と告げます。
その言葉は、よしきがすでに「人間の領域」を越えつつあることを示しています。
つまりヒカルとの契約は、彼をただの共犯者に留めず、異能者としての変質をもたらしたのです。
田中の首元に刻まれた同じ痣は、「接触」によって人が変容する証。
ここで描かれるのは、「ケガレ」と「異能」が共鳴し合い、新たな存在へと変わるプロセスです。
田中は敵か味方か――その立場はまだ不明瞭です。
しかし彼の存在は、よしきがすでに後戻りできない領域に踏み込んだことを観客に突きつけます。
「化けハム」という滑稽な存在は、その恐怖を逆に強調する仕掛けでもあります。
可愛いはずの小動物が“不自然に長生きする”という現象は、日常のほころびに潜む異常の象徴です。
観客は笑うこともできず、ただ不気味さに背筋を冷やされる。
田中はこの物語における「異能の案内人」であり、同時に「ケガレの鏡像」として立ち現れたのです。
悪夢から引き戻す暮林理恵の手
田中との出会いの後、よしきはさらに異常な体験に巻き込まれます。
ファミレスで勉強していたはずが、気づけば店内は無人。
そして、首のない黒い影が背後に立ち、鈴の音とともに迫ってくる。
それは「ケガレ」の具現であると同時に、よしき自身の内から引きずり出される幻影のようでした。
この場面の恐怖は、視覚的な怪異そのものではなく、“現実が侵食される感覚”にあります。
安全であるはずのファミレスが、突如として異界へと反転する。
日常が異常に飲み込まれるこの演出は、第8話のテーマである「接触」を最も直接的に体現しています。
絶体絶命の中、よしきを現実に引き戻したのは暮林理恵でした。
第2話で「混ざるで」と警告してくれた女性が、ここで再び彼を救う。
彼女は単なる傍観者ではなく、異能者としてよしきの運命に関与する存在であることが明確になりました。
注目すべきは、彼女がよしきを救った方法です。
超常的な力ではなく、物理的な衝撃で頬を叩くという行為でした。
この「肉体的な接触」によって、よしきは幻覚から解放される。
つまり彼女は、超常の領域に絡め取られた少年を“現実”へと引き戻す役割を担っているのです。
ここで示唆されるのは、異能者同士の関係性が単純な敵味方ではないということです。
田中はよしきの変質を指摘し、理恵は彼を現実へと戻す。
二人の立場は対照的ですが、どちらもよしきを「異能者の世界」へ導く存在として機能しています。
第8話終盤は、このようにして異能者たちが一点に収束する兆しを描きました。
「接触」というテーマは、もはや少年二人の関係にとどまらず、異能者たちが互いに引き寄せ合う大きな構造へと拡張しています。
その交差点に立たされるよしきは、もはや「普通の少年」ではいられません。
彼が選ぶ次の一歩は、異能者としての覚悟を試される一歩でもあるのです。
「嫌わんといてや」の裏側――嘘がつなぐ関係の危うさ
第8話を通して最も胸に残るのは、よしきが口にした「嫌わんといてや」という一言だろう。
あれはヒカルを庇う言葉であると同時に、自分自身への祈りでもある。
「あいつを嫌わないで」という願いの奥には、「そんなあいつを選んだ自分を否定しないで」という切実な欲望が潜んでいる。
嘘が守るのは相手か、自分か
よしきは「冗談」と笑って取り繕った。
その笑顔は、相手を安心させるためではなく、自分の孤独を誤魔化すための仮面だ。
本当のことを言えば、朝子は光＝ヒカルを憎むだろう。
けれどそれは、ヒカルだけでなく、彼と共に歩むことを選んだよしき自身をも切り捨てることになる。
だから嘘を吐く。
相手を守るために見せた笑顔のようで、実際は自分を守るための鎧だ。
その瞬間、よしきは「共犯者」ではなく、「依存者」としての顔を覗かせている。
依存が生む“歪んだ日常”
この嘘はただの言葉遊びじゃない。
人間関係において「嫌わないで」という願いは、相手を縛る呪いに近い。
相手が嫌いになる自由を奪うことで、関係は均衡を失う。
ヒカルは痛みを知り始め、少しずつ人間に近づいている。
一方でよしきは嘘を積み重ね、現実から遠ざかっていく。
二人の関係は、対等な友人から、互いに縛り合う“依存の鎖”へと変わりつつある。
怖いのは、この依存があまりに“優しい形”で描かれていること。
証拠を洗う静かな朝、軽口に混ざる「実際そんな感じやろ」、そして「嫌わんといてや」。
表面上は柔らかい日常の一コマにしか見えない。
けれどその裏には、「嘘でつなぐしかない関係」という危うさが張り付いている。
ここにこそ、この物語が持つ心理的ホラーの本質がある。
血や怪異の恐怖以上に、“人間関係が壊れていく音”がじわじわと耳に残る。
第8話はその音を、視聴者の胸に確かに響かせた回だった。
『光が死んだ夏』8話のまとめ：接触が繋ぐ破滅への序曲
第8話「接触」は、それまでの物語を大きく転換させる節目でした。
よしきとヒカルが交わした血の契約は、単なる友情の誓いを越え、魂そのものを共鳴させる儀式だったことが明らかになりました。
その共鳴は、救いではなく破滅の予兆を響かせています。
過去の禁忌、日常への侵食、ヒカルの変質、そして異能者たちの交差――。
全ての「接触」が繋ぎ合わさり、物語は一つの巨大な不吉な旋律を奏で始めたのです。
この章では、物語全体を整理し、再視聴に値するポイントと次回への問いを提示します。
観る者がもう一度8話を見直すとき、どの瞬間に注目すべきか。
そこにこそ、本作の恐怖と魅力が凝縮されているのです。
再視聴のポイントと次回への問い
まず注目したいのは、よしきとヒカルの日常の歪さです。
血に染まったシャツを洗う場面は、罪悪感ではなく穏やかさに満ちていました。
これは共犯関係が「恐怖」を「日常」に変質させる過程を示しています。
再視聴時には、この穏やかさがどれほど不気味に設計されているかに注目すると、映像の温度が全く違って見えてきます。
次に押さえておくべきは、朝子の耳と、よしきの「嫌わんといてや」です。
彼の言葉はヒカルを庇うだけではなく、自分の選択を肯定してほしいという叫びでした。
冗談に偽装されたこの一瞬は、少年の孤独を浮かび上がらせます。
再視聴では、彼の表情や声色に潜む悲痛さを意識して見ると、より深い理解に繋がります。
三つ目は、ヒカルが初めて「痛み」を感じる場面です。
机に肘をぶつけただけの描写が、物語全体を揺るがすほど大きな意味を持ちます。
痛みは人間性の獲得であり、同時に無敵性の喪失でもある。
再視聴する際には、彼の表情のわずかな変化や、その直後の静寂に宿る「人間化の予兆」に注目してみてください。
そして忘れてはならないのが、図書館での地名の発見です。
「首断」「腕刈」「足取」が人体の形を描く。
この仕掛けは、村全体が巨大な祭壇であることを可視化しています。
もう一度見直すと、地図をなぞるよしきの手の震えや、表情の硬直が「歴史の重み」を視覚的に伝えていることに気づくでしょう。
ラストに現れる田中と暮林理恵の存在も、再視聴ポイントとして欠かせません。
田中の「化けハム」は滑稽でありながら不気味さを漂わせ、理恵の一撃は現実へと戻す救いでした。
この二人が敵か味方か不明なまま交差することこそ、今後の物語の方向性を左右する重要な要素です。
では、この「接触」が織りなす旋律は、どこへ向かうのでしょうか。
- 武田の爺さんが握る村の秘密とは何か。
- 田中は異能者として何を企んでいるのか。
- 暮林理恵はよしきとヒカルの関係にどう介入するのか。
これらの問いは第9話以降の展開を予告する布石であり、視聴者を次回へと駆り立てます。
第8話は「接触」というテーマを通じて、キャラクター・村の歴史・異能者たちを一つの盤上に並べました。
その共鳴は調和ではなく、破滅の前奏曲として鳴り響きます。
よしきとヒカルが築いた共犯関係は、この旋律の中で試され続けるのです。
再視聴のたびに新しい発見があり、次の回への期待と不安が膨らんでいく。
それこそが『光が死んだ夏』という作品が持つ最大の魔力ではないでしょうか。
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第8話「接触」の余熱が冷めないうちに、次の共鳴へ“接続”しておきたい。
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- 第8話は「接触」を通じて共鳴と破滅を描く
- よしきとヒカルは血の契約で共犯関係に進む
- 朝子の耳と「嫌わんといてや」が関係の歪みを示す
- 校庭の惨劇で“ケガレ”が日常を侵食
- ヒカルに芽生えた「痛み」は人間化と脆弱化の兆候
- 村の地名に刻まれた人体解体が呪いの構造を示す
- 「のうぬき様」は祟り神へと堕ちた共同体の罪の象徴
- 田中と暮林理恵が異能者の交差点を形づくる
- よしきの「嘘」が依存と心理ホラーを浮き彫りにする
- 全ての接触が救済でなく破滅の前奏曲として響く
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