Netflixの韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』は、ただのヒューマンドラマじゃない。
感情が絡み合い、言えなかった“好き”や“憎しみ”が、静かに胸をえぐってくる。
この記事では各話ごとの”感情の核心”と”物語の分岐点”をネタバレ解説していきます。
- 韓国ドラマ『ウンジュンとサンヨン』全15話の深い関係性の変化
- 友情・恋愛・赦しが交差する“言えなかった気持ち”の行方
- 壊れた関係を再定義するラストのやさしさと再生の物語
- 第1話:絶縁した親友が「死にたい」と言ってきた日
- 第2話:寄り添った過去と、怒鳴りつけた現在
- 第3話:現像されなかった想い、フィルムの中に残っていた人
- 第4話:あなたが好きだった人を、私も好きだった
- 第5話:写真の中に閉じ込められた“本当の気持ち”が動き出す
- 第6話:知ってほしいのに、隠していた“好き”がすれ違う
- 第7話:言えなかったこと、言わなかったこと、全部が壊れた夜
- 第8話:もう2人には戻れないとわかってしまった日
- 第9話:再会した“今の私たち”が、過去を塗り替えた
- 第10話:過去の恋と現在の感情がぶつかりあう現場
- 第11話:誰かを好きになるって、こんなに苦しいの?
- 第12話:もうこの感情に名前をつけなくてもいい
- 第13話:奪われた夢と、奪ってしまった友情の話
- 第14話:謝るのが遅すぎたとしても、遅くなかったかもしれない
- 第15話:あなたのことを、もう一度ちゃんと知りたい
- まとめと感想:「親友だった私たち」から、「それでも好きだったあなたへ」
第1話:絶縁した親友が「死にたい」と言ってきた日
この物語は、再会から始まらない。
再会の前にあったのは「絶縁」で、そして次に届いたのは「死にたい」という言葉だった。
第1話は、ウンジュンとサンヨンという2人の女の子の“過去”と、止まっていた感情が再び動き出す“現在”が交錯する、最も静かで最も痛烈なイントロダクションだ。
複雑に絡み合う、少女時代の羨望と暴力
物語の幕開けは、まるで偶然を装った運命のようだった。
ウンジュンはテレビ越しに、かつての親友サンヨンのスピーチを見つめる。
壇上の彼女は、受賞の言葉にこう付け加えた。「ウンジュンのおかげで、私はここにいる」と。
その瞬間、時が巻き戻る。
ただし甘い記憶ではなく、心に刺さった棘の方へ。
1992年の小学校。母子家庭で貧しいウンジュンにとって、転校生のサンヨンは眩しすぎる存在だった。
裕福で、優等生で、住んでいるマンションも、自分が憧れていた“別世界”の象徴だった。
最初は、ただの羨望だった。
けれど、それが「嫉妬」に変わるのに、そう時間はかからなかった。
サンヨンは学級委員になると、校則違反を注意する名目で、ウンジュンを棒で叩いた。
暴力とまでは言えない、けれど友情が壊れるには十分な一撃だった。
その日から、ウンジュンの中で“親友”という言葉は、ただの記号になった。
サンヨンは「親の見栄」で上に立たされていた。
ウンジュンは「親の不在」で下に見られていた。
社会の目に投げ込まれた子どもたちは、勝手に役割を与えられ、互いに傷つけ合ってしまった。
それでも、別れは突然だった。
ある日を境に、サンヨンは転校した。
ウンジュンはその背中を追いかけることなく、心のどこかで「これでいい」と思っていた。
「あなたの物語を書いてもいい?」という脚本家の決意
大人になった今、ウンジュンは脚本家になっていた。
けれど心は、まだあの日の教室に立ち尽くしている。
彼女はチェPDに脚本を渡す。それは、自分とサンヨンの記憶を基にした物語だった。
脚本家は、物語を描くことで“過去”と向き合う。
でも、記憶を掘り起こすというのは、感情の墓を暴くことでもある。
そんな中、サンヨンから突然連絡が入る。
場所は、夜のカフェ。久しぶりに顔を合わせたその場で、サンヨンはこう言った。
「末期がんなの。チューリッヒで安楽死をするつもり。同行してほしい」
──言葉を失う、とはこのことだ。
記憶の中で“憎しみ”とすら呼べない“微妙な棘”として残していた彼女が、「死ぬ」という理由で再び感情の領域に入り込んできた。
ウンジュンは動揺し、「もう連絡しないで」と言ってしまう。
赦す準備なんて、してなかった。
忘れようとすらしていなかった。
それでもサンヨンは、「死」をもって、二人の物語の続きを書こうとしていた。
これは「友情の再会」じゃない。
心の奥にある“あなたがいなければ、私は壊れなかったかもしれない”という感情に、再び触れてしまった物語の始まりだ。
第2話:寄り添った過去と、怒鳴りつけた現在
かつて「家に呼んだ唯一の友達」だった人に、「もう連絡してこないで」と言い放つ──。
第2話は、過去に分かち合った優しさと、現在の拒絶の温度差に心が擦り切れていく回だ。
“親友”の形をしていた何かが、友情ではなかったとしたら? そして今、それをもう一度信じ直せるか? そんな問いが静かに胸を締め付ける。
2人の間に溜まりすぎた“わかってよ”の感情
第2話は、サンヨンの「死にたい」という告白から始まる。
ウンジュンの心は揺れるどころか、むしろ強く跳ね返した。
「もう連絡してこないで」。
それは一見、冷たい言葉に聞こえるけれど、その裏には爆発寸前まで溜まった感情がある。
サンヨンの「安楽死」という選択は、まるで勝手すぎる再会の切り札だった。
絶交して以来、何の説明も、謝罪も、赦しもなかった。
ただ、「死ぬから一緒にいてほしい」とだけ言われても、心が準備できるわけがない。
ウンジュンは動揺を怒りに変え、怒りを拒絶に変えた。
なぜなら、サンヨンのその一言がウンジュンの心に埋めた“何も終わっていない”という痛みを掘り起こしてしまったからだ。
“あなたは私を見ていなかった”。
“あのとき、私は傷ついていた”。
そして“今さら、どうして?”。
この2人の関係は、ずっと「わかってよ」と「わかってるでしょ」のすれ違いで出来ている。
サンヨンは、自分の決断を伝えたかっただけなのか。
それとも、“ウンジュンなら最後まで寄り添ってくれる”と、期待していたのか。
でもその期待は、恩着せがましさにも、支配欲にも見える。
だからウンジュンは、泣くように怒るしかなかった。
初めて家に招いた夜が、友情のピークだった
一方で、第2話は過去の時間も静かに紐解いていく。
まだ中学生だったウンジュンとサンヨンが、少しずつ心を寄せ合っていく様子が描かれる。
とくに、ウンジュンが初めてサンヨンを自宅に呼ぶ場面は、彼女たちの友情が最も近づいた瞬間だった。
ウンジュンの家は半地下。
母は飲食店で働き、牛乳配達までして家計を支えていた。
そんな“見せたくなかった現実”に、サンヨンを連れて帰った。
サンヨンは道端でカツアゲに遭い、食事もできない状態だった。
ウンジュンは彼女を自宅に招き、ごはんを食べさせ、暖かい場所を用意した。
それは彼女なりの“友情の表現”だった。
言葉で「好き」なんて言えなかった。
でも「ここにいていいよ」と空間を差し出すことが、そのすべてだった。
この夜が、たぶん2人の関係における“いちばん近い”ポイントだった。
でも、近づいた先には、必ず“ズレ”が待っている。
サンヨンは兄・サンハクに惹かれていたウンジュンを、どこかで見下していた。
ウンジュンもまた、サンヨンの孤独を理解しきれなかった。
そのズレが、何年も経った今、“死”という形で押し寄せてきた。
優しかった日を思い出すほど、今の憎しみが濃くなる。
許したくないのに、昔は確かに好きだった。
それが“親友”という名の、いちばん厄介な感情だ。
第3話:現像されなかった想い、フィルムの中に残っていた人
好きだったことに、あとから気づくことがある。
しかもその「好き」は、もう二度と伝えられない相手だったりする。
第3話では、過去に交わされなかった手紙、現像されなかったフィルム、そして「死んだ人に似た誰か」を前にしたときの心のざわめきが、静かに、でも確実に物語をかき乱していく。
失われた手紙と、死んだ兄に似た“誰か”への恋
大学に入学したウンジュンは、写真部の先輩キム・サンハクに出会う。
彼の名前、雰囲気、表情──すべてが、かつての“好きだった人”チョン・サンハクを思い出させた。
逃げるようにその場を離れるウンジュン。
でもサンハク先輩は、彼女が忘れたフィルムを届けに来てくれた。
あのときの気持ちが再び揺れ始める。
10代のころ、ウンジュンはサンハクに惹かれていた。
けれどその想いは伝えることができなかった。
彼が入隊する直前、ウンジュンは彼に手紙を書いた。
「好き」と書けなかった手紙には、ただ思い出のクローバーを添えて、そっと机に入れた。
でも、そのまま彼は消えてしまった。
3日後、サンハクは山中で遺体で発見された。
自殺と報道されたが、詳細は不明。
兄の死にサンヨンは打ちひしがれ、ウンジュンはそのそばにいた。
だけどその“悲しみを共有した時間”すらも、いつかすれ違いの種になっていく。
サンハクの死が二人を繋ぎ、そして裂いた
過去と似た顔が、今目の前にいる。
サンハク先輩は、ウンジュンを真っすぐに見てくる。
言葉にしなかった想いが、現像されないままだったフィルムのように、じわじわと色を持ちはじめる。
新歓コンパでは酔いすぎて、彼に失礼な態度をとってしまう。
でも、彼はそれすら笑って許した。
そして合宿の夜、彼から告白される。
ウンジュンはサンハク先輩と付き合うことにした。
幸せなはずだった。
でも、サンヨンが写真部の新入生として現れた瞬間、空気が変わる。
数年ぶりの再会。
ウンジュンは喜び、サンヨンも微笑んだ。
けれど心のどこかに、もう一人の“サンハク”の影が立ち込めていく。
写真部で、サンハク先輩とサンヨンが映画の話で盛り上がる。
2人の波長が合っていくのを見て、ウンジュンは自分でも気づかない嫉妬を覚える。
そして徐々に浮かび上がる事実──
サンヨンも、兄に似たこの人に惹かれているのではないか。
もしかすると、兄を失った痛みが、
“彼に会った瞬間から好きだった”という錯覚を生んでいたのかもしれない。
サンハクの死は、2人を一度は繋いだ。
でも今、その“記憶の共有”が、新しい傷を作ろうとしている。
それぞれが過去に持っていた「好き」の形が、
今、同じ場所でぶつかろうとしている──そんな予感が、強く、静かに押し寄せてくる回だ。
第4話:あなたが好きだった人を、私も好きだった
「あの人が好きだった」──その気持ちを語ること自体が、裏切りのように感じることがある。
第4話では、ウンジュンとサンヨンが“同じ人を好きだった”という、決定的なズレが表面化していく。
まるで、同じ風景を撮った写真のフィルムが、少しだけズレて重なっていたように。
その微妙なズレが、2人の関係に深くて静かな亀裂を入れていく。
二重写しのような関係が、静かに綻び始める
ウンジュンとサンハク先輩の関係は順調に見えた。
けれど、そこにサンヨンが入ってくると空気は変わる。
サンヨンは、“兄に似た人”を前にして、過去と現在の感情を交差させていく。
映画の話で盛り上がるサンヨンとサンハク先輩。
ウンジュンは、2人の波長が合っていく様子に焦りと不安を覚え始める。
表面では笑顔を作りながらも、心の中では警報が鳴っていた。
その頃、ウンジュンとサンヨンは同居を始めていた。
写真部の仲間として、友人として、そしてかつての“親友”として。
でも一つ屋根の下で生活を始めたことで、心の距離が近くなりすぎてしまった。
ウンジュンは、言葉にできない感情を抱えながら、
「このままでいいのか?」という問いを心の奥に沈めていた。
サンヨンの視線が、サンハク先輩に向いていることに気づいていた。
でも、それを責めることも、避けることもできなかった。
かつて、彼女の兄を好きだった。
そして今、その兄に似た人と恋人同士になった。
この関係自体が、サンヨンの心をどう傷つけているのか。
本当は、最初からわかっていたはずだった。
“母への恨み”と“恋の嫉妬”が交差した夜
写真部の合宿で、3人はサンヨンの母・ユン先生の元を訪ねる。
かつて教師だった彼女は、今では落ちぶれ、涙ながらに過去を語る。
サンヨンは、母に対してあからさまな冷たさを見せた。
「あの人が兄を殺したようなものよ」
その台詞は、ウンジュンの心にも深く刺さる。
サンハク兄の死には、母の“恋愛への抑圧”が関係していた。
自由に恋愛すら許されなかったサンハク。
彼がウンジュンに贈ったカメラ、そして一緒に撮った写真。
そのすべてが、まだウンジュンの心の中にあった。
そして今、その写真が、今の関係をも照らし始める。
ユン先生はウンジュンに手紙を返した。
サンハクに渡せなかった、あのときの手紙。
それを読み返したウンジュンは、ようやく「好きだった」と認める。
でも同時に、サンヨンも、同じ人を好きだったことに気づいてしまう。
友情と恋愛の境界が曖昧な2人。
その曖昧さが、知らないうちに相手を傷つけていた。
誰も悪くなかった。ただ、好きのタイミングが重なっただけ。
けれど、“あなたが好きだった人を、私も好きだった”という事実は、
言葉にした瞬間から、友情にひびを入れてしまう。
第5話:写真の中に閉じ込められた“本当の気持ち”が動き出す
誰かを救おうとして、誰かを傷つけてしまう。
第5話は、“過去を癒そうとした優しさ”が、“現在の関係”を崩壊へ導くという皮肉な構図の中で、ウンジュン・サンヨン・サンハク先輩の三角関係が大きく動き出す回だ。
写真という媒体が、記憶を封じていたものを暴き出し、ついに誰かの気持ちが、壊れる。
サンヨンの“なりすまし”が救った誰かと、壊した何か
サンヨンは、亡き兄・チョン・サンハクのPCからチャットのログを見つけた。
そこには、かつて兄を“ムーニー兄さん”と慕っていた写真同好会の仲間との会話が残っていた。
その中にいたのが「マンタ」という名の後輩──サンハク先輩。
マンタは、ムーニー兄の失踪後もチャットを続けていた。
サンヨンは、そのやりとりを“兄のふり”をして再開する。
「大丈夫」「また写真撮ろう」──そんな優しい言葉を、兄になりすまして送った。
すると、マンタ(=サンハク先輩)は励まされ、大学に進学できた。
結果として、サンハク先輩とウンジュンが出会うきっかけも、サンヨンの“なりすまし”が作っていた。
けれど、それは“誰かを救った代わりに、別の誰かを苦しめる”という、言葉にならないジレンマを生み出す。
真実が少しずつ露わになる中で、サンヨンはサンハク先輩に告白する。
「私は、あのチャットの相手(=マンタ)が好きだった」
でもそれは、サンハク先輩自身がマンタだと知らずに言った言葉。
そしてサンハク先輩は気づく。
「チャットで励まされた相手は、サンヨンだった」と。
やさしさは、無垢ではいられない。
人を救ったはずの言葉が、今、恋人を壊そうとしていた。
フィルムに写っていたのは、過去でも未来でもなく、今の涙だった
ウンジュンは、ついに現像を決意する。
中学生の頃、サンハク兄と一緒に撮った写真──ずっと放置していたそのフィルムを。
現像された写真の中には、もう戻らない時間が閉じ込められていた。
兄の笑顔、誰かの恋人らしき女性、そして自分自身の姿。
その一枚一枚が、ただの思い出ではなく、“見ないようにしていた現実”を突きつけてくる。
サンヨンはその写真を見て、兄が最後に愛していた人物──ムン・ジヨンという女性を探しに行くと決める。
彼女の真実に触れないと、兄の死の理由がわからない。
それは、赦すためでもなく、知るためでもなく、“確かめたい”という衝動だった。
写真とは、不思議なものだ。
記録なのに、記憶を刺激し、記憶なのに、感情を壊す。
サンハク先輩は、サンヨンとウンジュン、どちらに惹かれているのか。
サンヨンの涙に揺れた自分に、ウンジュンは気づいてしまう。
そして告げられる、別れ。
写真に写っていたのは、過去でも未来でもなかった。
あの瞬間、ウンジュンの“今”の涙だった。
もう、戻れない。
優しさは誰のためにあるのか、正しさは誰の手の中にあるのか。
第5話は、その問いを静かに差し出してくる。
第6話:知ってほしいのに、隠していた“好き”がすれ違う
好きになるって、時に自分すら見失うことだ。
第6話では、サンヨンとサンハク先輩、そしてウンジュンがそれぞれ“まだ言えない好き”を抱えたまま、別々の方向を見つめている。
言葉にするのが遅すぎて、沈黙を選んでしまって、すれ違った感情たち。その残酷なズレが、この回のすべてだ。
「好きだった」の言葉が、あまりにも遅すぎた夜
再会は、ふいに訪れた。
休暇中のサンハク先輩と、偶然出会ったサンヨンは、静かに夜の道を歩く。
照明のない道を選ぶようにして、2人は心の奥を少しずつ照らしていく。
そして、言葉がこぼれる。
「マンタ…チャットでやり取りしてたあの人。私はあの人が好きでした」
それは一歩遅れた告白だった。
なぜなら、その“マンタ”こそ、今、目の前にいるサンハク先輩だったから。
でもサンヨンは気づかない。彼女が“兄になりすまし”励ましていた相手が、
今こうして自分を見つめていることに。
言おうと思えば言えたかもしれない。
でもサンハク先輩は黙った。
「それ、俺だよ」と口にしたら、すべてが壊れてしまうような気がしたから。
だから彼は、黙って微笑んだ。
それが彼の“やさしさ”であり、“臆病さ”でもあった。
まっすぐな告白に、まっすぐ答えられない。
それは、強さではなく、弱さの連鎖だった。
“兄の死の真実”が、恋心を引き裂いていく
サンヨンは言う。「兄の恋人だった女性、ムン・ジヨンを探したい」
それは兄の死の謎を知りたいというより、自分自身と向き合うための行為だった。
罪滅ぼし。贖罪。後悔。
どんな名前をつけても、やっぱりそれは“時間を戻したい”という、無力な願いだった。
サンハク先輩は彼女の頼みに応じ、軍の合間に手紙を書く。
ジヨンのことを調べ、彼女に届けようとする。
でもそれは、恋人・ウンジュンには話せなかった。
“兄の死”という理由があったから。
でも本当は、サンヨンへの感情に、彼自身が揺れていたから。
ウンジュンは気づく。
サンハクが、サンヨンに向けて書いた文字の熱。
彼女のために動いている時間の長さ。
そのすべてに、既視感があった。
かつて、自分も“兄を好きだったサンヨン”に嫉妬していたように、
今また、“サンハクを想うサンヨン”に心をかき乱されている。
同じ相手を、2度も奪い合う形になるなんて。
でも誰も悪くない。
誰も裏切っていない。
それでも、誰かが傷ついていく。
第6話は、そんな矛盾の中に沈んでいく。
言葉にできなかった感情と、言葉にしなかったやさしさ。
そのどちらもが、静かに誰かを壊し始めていた。
第7話:言えなかったこと、言わなかったこと、全部が壊れた夜
本音は、沈黙の奥に潜んでいる。
誰かを守るための嘘だったとしても、それはやがて、自分すら壊してしまう。
第7話は、それぞれが隠してきた過去と感情が噴き出し、関係のすべてが崩れていく“引き返せない夜”だ。
サンハク兄の“真実”と、サンヨンの涙
サンハク先輩は、兄の最後を知るために動き始めた。
辿り着いた先にいたのは、兄のかつての恋人──ムン・ジヨン。
彼女の口から語られたのは、誰も知らなかった“真実”だった。
「サンハクは、トランスジェンダーだった」
それは、誰にも明かせなかった秘密。
家族にも、妹にも、もちろんウンジュンにも。
“本当の自分”を生きようとして、“誰にも言えない自分”に潰されていった兄。
理解されるより先に、誤解されることが怖かったのだ。
ジヨンが差し出した手紙を読みながら、サンヨンは黙って泣いた。
そこに書かれていたのは、「ありがとう」と「ごめん」だけ。
愛していたけど、信じさせられなかった。
守られたけど、理解しきれなかった。
サンヨンは、兄の本当の痛みに、最後の最後で触れた。
だけど、それはもう「取り返せない過去」だった。
「サンヨンに気持ちが揺れた」──別れの引き金は“曖昧なやさしさ”
夜の山中で、サンヨンは行方不明になる。
兄の秘密に触れた直後だった。
感情を抱えきれずに、彼女は森の奥へと消えていった。
それを探しに行ったのは、サンハク先輩だった。
冷たい空気、ぬかるんだ道。
彼は、黙って彼女のそばに寄り添い、朝まで一緒にいた。
だけどそれは、ウンジュンにとって“説明されなかった感情”だった。
「急用ができた」とだけ告げられた夜。
ウンジュンが知ったのは、サンヨンとサンハク先輩が2人きりだったこと。
それだけではない。
彼はこう言った。
「気持ちが、揺れた」
その一言が、ウンジュンの心を突き刺す。
浮気でも、裏切りでもない。
でもそれは、恋人がいちばん聞きたくない言葉だった。
「別れよう」
ウンジュンは、そう告げる。
誰かのために揺れる人を、もう支えられないと思った。
自分を信じてくれなかったのではない。
自分ですら、自分を信じられなくなったから。
愛していた。
でも、愛したまま別れるしかなかった。
第7話は、誰かの“やさしさ”が、誰かの“決定的な傷”になる瞬間を描いている。
関係は、嘘で壊れるのではない。
本当のことを、言えなかったことで壊れるのだ。
そしてそれは、修復も、言い直しも、できない。
この夜、3人の間にあった「大丈夫」という言葉が、全部嘘になった。
そうして朝が来たとき、もう何も戻せなかった。
第8話:もう2人には戻れないとわかってしまった日
傷つけた側と、傷つけられた側──。
だけど時が経つと、その境界線はぼやけて、「自分も相手を傷つけていたかもしれない」と気づかされる。
第8話は、再びすれ違いながらも、どこかで繋がってしまう2人の“終わらない関係”を描いた回だった。
友情よりも、嫉妬よりも、苦しかった「見ないふり」
映画の現場。冷静さが求められる場所なのに、ウンジュンもサンヨンも、自分の感情を完璧には隠しきれない。
それは仕事の場にサンハクがいたから。
そして何より、そこに“2人が同時に愛した人”がいたからだ。
撮影の準備が進むなか、サンハクはウンジュンに告げる。
「まだ君を見てしまう」
その一言に、ウンジュンの心はざわつく。
でも表情には出さない。
だって、感情はもう置いてきたはずだったから。
一方、サンヨンはその視線の行方に気づいている。
見ないふりをすれば、楽になる。
でも、見えないふりが一番残酷だった。
だから、彼女は踏み込んでしまう。
あの一言を、口にしてしまう。
「サンハク先輩を好きになってもいい?」
それは、“友達”に言う言葉ではない。
だけど、“かつての友達”には、言っていいのかもしれない。
曖昧になった関係だからこそ、言えたのかもしれない。
その言葉に対して、ウンジュンは何も答えない。
数秒の沈黙のあと、絞り出すようにこう言った。
「勝手にすれば」
それは肯定でも、否定でもなかった。
ただの“決裂の宣言”だった。
サンヨンの「好きになってもいい?」にウンジュンが返した本音
「勝手にすれば」──。
この言葉の裏には、幾重にも重なった想いがある。
怒り、呆れ、悲しみ、そして、わずかな嫉妬。
ウンジュンにとって、サンヨンは“唯一の友達”だった。
だけど同時に、“何度も気づかぬうちに自分を押しのけていった存在”でもある。
サンハク兄を好きだったこと。
チャットの“マンタ”を通じて繋がっていたこと。
その記憶が、今もウンジュンの中で燻っている。
そして今また、彼女は「サンハク先輩を好きになってもいい?」と言った。
また同じ人を好きになった。
だけどウンジュンには、止める理由も、止める権利も、もう残っていなかった。
なぜなら、サンハクとの関係も、自分から終わらせてしまったから。
だから「勝手にすれば」としか言えなかった。
それは投げやりな言葉ではなく、“もうあなたに振り回されたくない”という最後の防衛線だった。
そして、サンヨンもまた、その言葉を受けて何も言い返さなかった。
2人とも、何も終わらせられないまま、ただ心の距離だけが遠ざかっていった。
第8話は、「戻りたくても、もう戻れない」関係の残酷さを丁寧に刻んでいく。
友情を取り戻したい気持ちと、裏切られた記憶が同時に存在してしまう苦しさ。
2人のやりとりは、もはや言葉ではなく、“沈黙の応酬”だった。
誰も悪くない。
でも、誰も救われない。
だからこそ、切なくて、目が離せなかった。
第9話:再会した“今の私たち”が、過去を塗り替えた
本当はずっと会いたかった。けど、会わないことで守っていたものもあった。
第9話は、ウンジュンとサンヨンが“再会してしまった”ことで、お互いのなかで封印していた過去が崩れはじめる。
10年ぶりの沈黙の破裂は、かつてよりも静かで、そして深く、傷つけ合う音だった。
10年ぶりの再会と、映画でつながる不器用な現在
ウンジュンが手がける映画に、サンヨンが原作脚本として関わることになった。
スタッフの間では「名コンビ復活」と噂されるが、2人の間にはまだ、微妙な距離がある。
夜、制作室で2人きりになる。
「映画の中の“あなた”と、今のあなたは違う」
そう言ったのはウンジュンだった。
脚本家として成功したサンヨンの作品は、あの頃の彼女よりもずっと成熟している。
でも、その“完成された物語”の裏に、サンヨンの本当の気持ちはなかった。
ウンジュンは気づいている。
映画の台詞も、表現も、語られなかった想いも、どれも「本当のことを避けてるように」聞こえた。
サンヨンは、ウンジュンのそのまなざしを受け止める余裕がなかった。
再会してしまったことで、“今”と“あの頃”が重なってしまったのだ。
「10年経っても、まだ私たちは変われてないんだよ」
この言葉を言い出すのは、いつだってウンジュンのほうだった。
「あの電話を無視したのは、あなた」サンヨンの悲しみがこぼれた瞬間
思い出を美化することでしか、過去と向き合えなかったサンヨン。
だけど、ある瞬間、強く揺さぶられる。
それは、“あの夜”の話になったときだった。
サンヨンが、自殺未遂に近い行動をとった日。
唯一電話をかけたのはウンジュンだった。
「あなたが出なかったから、死にたくなった」
その言葉は、記憶の底に沈んでいたはずの傷を、鮮やかに浮かび上がらせる。
でもウンジュンは、真っ直ぐに言い返す。
「出なかったんじゃない。かけてこなかったのは、あなたのほう」
ずっと勘違いしていた。
ずっと自分だけが被害者だと思っていた。
だけど実際は、記憶の中で“都合のいい物語”を自分で作っていただけだった。
その瞬間、サンヨンは泣き崩れる。
「ほんとに……ほんとにかけなかった?」
あの時、たった一度「助けて」と言えなかったこと。
それが、10年間の溝を作っていたと気づいた瞬間だった。
第9話は、“事実の食い違い”ではなく、“記憶の解釈違い”が関係を壊していたことを示す。
許せないと思っていたのに、
自分もまた、許される立場ではなかった。
2人はやっと、お互いが「加害者」であり「被害者」でもあったことに気づく。
だからこの回は、壊れた友情が“修復”ではなく“理解”に向かう第一歩だった。
ただし、理解はしたけど、まだ許せない。
そんな、宙ぶらりんな関係が続いていく。
再会したのは“今”の2人だけど、会話していたのは、あの頃の2人だった。
だから余計に、すれ違いは深かった。
第10話:過去の恋と現在の感情がぶつかりあう現場
人の感情は、過去と現在を同時に生きる。
第10話では、ウンジュン・サンヨン・サンハクという三角形の中で、「いま、誰のことを好きなのか」という問いが、それぞれの中で静かに炸裂していく。
それは、“愛”の話のようで、“友情の終焉”の話でもあった。
再び近づくサンハクとウンジュン、そして残されたサンヨンの想い
映画の撮影現場では、プロとしての時間が流れている。
でもその裏で、感情は、私情は、思い出は、止まったままだ。
ウンジュンとサンハクが、再び近づいていく。
それは自然な流れのようにも見えるし、避けられない結果のようにも見えた。
かつて恋人同士だった2人は、必要以上に会話をしない。
でも、お互いの目線の行き先は、もう誰の目にも明らかだった。
沈黙が多いほど、感情は強くなる。
それはサンヨンにも、痛いほど伝わっていた。
同じ現場にいて、同じ映画をつくっているのに、彼女だけがどこか“輪”の外にいた。
“脚本家”としては必要とされている。
でも、“人間”としては、見つめられていない。
自分を見てほしい──その願いが、どこにも届かない。
サンヨンの孤独は、恋心というより、存在の疎外感だった。
「好きな人がいる」その言葉がサンヨンの心を壊していった
ある日、サンヨンはサンハクに思いきって聞く。
「好きな人、いますか?」
サンハクは、正直に答える。
「います」
その一言で、世界が反転した。
サンヨンは、これ以上言葉を継げなかった。
誰かの“気持ちの矢印”が、自分を通り過ぎていく。
そのとき、彼女は“脚本”ではなく、“現実”にいた。
物語の中なら、報われない恋にも意味がある。
でも、現実ではただ傷つくだけだ。
しかもその“好きな人”が誰か、サンヨンにはわかってしまっていた。
また、ウンジュン。
高校時代から何度も繰り返してきた「同じ人を好きになる」パターン。
でも今回は違った。
もうウンジュンとは友達じゃない。
だから、何も言えない。
言ったところで、何も変わらない。
だから、黙って笑った。
自分を守るための「わかったよ」の笑顔だった。
でも心の中では、確かに何かが壊れていた。
第10話は、愛の告白が直接なかったにもかかわらず、
誰かが大きく傷ついてしまう回だった。
恋愛は「好き」と言うことだけで進むものじゃない。
そして友情は、「言わなかった」ことだけで崩れていく。
この回で3人の関係は、決定的にゆがみ始めた。
それぞれが“愛した誰か”を持ちながら、その愛を口にできない。
それがこの物語の、いちばん不器用で、いちばんリアルな部分だ。
第11話:誰かを好きになるって、こんなに苦しいの?
信じたいけど、信じきれない。
第11話では、ウンジュン・サンヨン・サンハクそれぞれが「優しさ」と「気づきたくない本音」に翻弄されていく。
そして、恋も友情も、“思い込み”の上に成り立っていた関係だったことに気づいてしまう──そんな痛みの回だ。
薬を買ってきたのは、あの人じゃなかった──サンハクの優しさ
サンヨンが体調を崩した夜。
誰かが薬を買って部屋に置いていった。
彼女はそれを、当然のように“サンハク先輩”だと思い込む。
「ありがとう」とメッセージを送る。
でも、サンハクは「それ、俺じゃない」と答える。
その瞬間、サンヨンの中で何かが音を立てて崩れる。
優しさは、事実ではなく願望から作られていた。
「きっと、こうしてくれたのはあの人」
そう思うことで、自分の感情を正当化していた。
でも、それは違った。
誰かを好きになるって、都合のいい幻想を信じることなのかもしれない。
この小さな“ズレ”は、サンヨンにとって決定的だった。
自分が見ていた恋は、現実には存在しなかった。
気づかないふりをしていたものが、音もなく剥がれ落ちた瞬間だった。
「勝手にすれば」ウンジュンの嫉妬と諦めの入り混じった一言
サンヨンがサンハクに好意を持っていることを、ウンジュンはもう知っていた。
でも、あえて止めなかった。
止める権利が、自分にはないと分かっていたから。
それでも、やっぱり心はざわつく。
サンハクは一度、自分を選んだ人だった。
でも今は、誰の隣に立っているのか分からない。
言葉にすれば、すべてが崩れそうだった。
だから、ウンジュンは感情を抑え込む。
けれど、その抑圧は、別のかたちでこぼれてしまう。
「勝手にすれば」
その一言に込めたのは、怒りでも拒絶でもなかった。
ただの、「私はもう何も期待してない」という静かな諦めだった。
期待しないふり。
興味ないふり。
そうやって自分を守っていたのに、やっぱり心は傷ついていた。
ウンジュンはずっと、“誰かの特別”でありたかった。
でも、その場所にもう自分はいないと気づいてしまった。
第11話は、全員が“やさしくあろうとした”結果、
誰も本当のことを言えなくなった回だった。
薬を買ってきた人の名前を、なぜ聞かなかったのか。
「勝手にすれば」のあとに、本当は何を言いたかったのか。
全部、言えなかった。
全部、言わなかった。
恋も友情も、沈黙のなかで少しずつ壊れていく。
優しさが、刃になる。
それが、この回のいちばん苦しい現実だった。
第12話:もうこの感情に名前をつけなくてもいい
“好き”って言葉は便利だ。でも、その一言に詰め込めない感情もある。
第12話では、サンヨンがついに言葉にしてしまう──17年分の想いを。
だけどその一方で、ウンジュンはずっと言えなかった。「あなたのせいじゃない」と。
「17歳からずっと好きでした」サンヨンの涙の告白
何年も何年も、胸の奥に押し込めていた。
気づかれないように笑って、友達としてそばにいて、そして逃げ続けてきた。
けど、もうこれ以上隠せなかった。
サンヨンは言う。
「17歳からずっと、サンハク先輩が好きでした」
それは告白というより、懺悔のようだった。
「好きになったこと」が間違いだったわけじゃない。
でも、その気持ちを抱えたまま、ウンジュンのそばにいた自分が、ずっと後ろめたかった。
ウンジュンの“好き”を知っていながら、自分も同じ人を想っていた。
そして、自分の“好き”が報われなかったことで、誰かを責めそうになる自分もいた。
だから言葉にした。
もう、誰にも理解されなくてもいい。
この気持ちを、自分の中で終わらせるために。
サンハクは何も言えなかった。
ただ、静かにその言葉を受け止めた。
それが、彼なりのやさしさであり、答えだった。
サンハクの答えと、ウンジュンが背負った“罪ではない罪”
サンハクの答えは、“曖昧な沈黙”ではなかった。
彼はウンジュンに向き合い、「自分の気持ちは、もう決まっている」と伝える。
彼が見ているのは、過去ではなく今。
そしてその“今”にいるのは、サンヨンではなかった。
ウンジュンは、その想いを知っていた。
でも、それが嬉しいわけじゃなかった。
なぜなら、それを知った瞬間から、“サンヨンの涙”を見届けなければいけなくなるから。
自分が望んだわけじゃない。
奪ったつもりもない。
だけど、結果的にサンヨンの“好き”を壊してしまった。
ウンジュンの胸に残ったのは、「自分が選ばれた」という喜びではなく、“罪ではない罪”だった。
友情って、正しさじゃなくて、感情で繋がってる。
だから、どんなに言葉を尽くしても、理解してもらえないことがある。
ウンジュンは、それを知っていた。
だから、サンヨンの前では何も言えなかった。
「ごめん」とも、「ありがとう」とも言えなかった。
言えば、何かが終わってしまう気がした。
第12話は、“好き”という言葉が持つ重さと無力さを描いている。
感情は届いたけど、報われなかった。
そして報われたほうも、誰よりも苦しんでいた。
サンヨンは強くなった。
自分の気持ちを言葉にできた。
でもその裏で、ウンジュンは黙ることでしか、自分を守れなかった。
誰も悪くない。
でも、全員が少しずつ壊れていた。
第13話:奪われた夢と、奪ってしまった友情の話
友情って、壊れるときに音がしない。
でも、ちゃんと“その瞬間”はある。気づかなかったふりをしても、あとから思い返せばわかる。
第13話は、その“瞬間”がやってきてしまった回だった。
撮影現場で起きた“謝罪のすれ違い”がサンヨンを壊した
撮影現場で問題が起きた。
原因は、脚本の一部をウンジュンが現場判断で改変したことだった。
サンヨンにしてみれば、自分の作品が勝手に書き換えられたようなもの。
本来なら、ひと言「ごめんね」と言えば済むことだった。
でも、ウンジュンは謝らなかった。
「演出的にそうしただけ」と淡々と言うだけだった。
そこに悪意はなかった。専門職として当然の判断だった。
でも、サンヨンにはそれが“自分の存在を軽んじられた”ように感じられた。
ウンジュンにとっては小さな判断。
でも、サンヨンにとっては、夢を共有するはずだった“映画”という場所から、自分が締め出されたような感覚だった。
脚本家としてのプライドよりも、人としての信頼が壊れる音がした。
だから、サンヨンは現場で声を荒らげてしまう。
怒ったというより、泣きたかった。
でも泣く代わりに、言葉で攻撃してしまった。
「あんたっていつも、そうやって人の気持ちを無視するよね」
それは、過去のこと全部を詰め込んだ一言だった。
『青の起源』を奪ったサンヨンがウンジュンに放った一言
そのあとに、2人きりの時間が訪れる。
もう誰も見ていない場所で、サンヨンがぽつりと本音をもらす。
「あのとき、“青の起源”はあたしの企画だったのに、あなたが名前を出した」
あの事件。
高校時代、2人で同じ映画コンテストに参加しようとしたとき、ウンジュンだけが名前を出してしまった。
サンヨンは匿名で応募したかった。
でもウンジュンは、その理由を理解せず、自分の名前だけを明かしてしまった。
結果的に、映画はウンジュンの代表作として広まり、脚本家としてのサンヨンの名は埋もれた。
「奪われた」とサンヨンは感じていた。
でもそれを、これまでずっと黙ってきた。
“親友だから”言えなかった。
だけど今、その抑えていた言葉がこぼれ落ちてしまった。
「あなたが奪ったの。あの夢を、あの物語を、あたしの青春を」
ウンジュンは、黙ってそれを聞いていた。
否定も肯定もしなかった。
ただ、目をそらした。
第13話は、友情が“誤解”じゃなくて、“記憶の違い”から崩れる瞬間を描いている。
ウンジュンにとっては、「そんなつもりじゃなかった」だけ。
でも、サンヨンにとっては、“それがすべて”だった。
謝らなかったことが、傷になった。
言ってほしかった一言が、こなかった。
それだけで、人は壊れてしまう。
特に、それが“信じていた人”だったら、なおさらだ。
第14話:謝るのが遅すぎたとしても、遅くなかったかもしれない
人間関係は、些細なタイミングで壊れる。でも、壊れたまま終わらせたくないと思うなら──。
第14話は、「本当の謝罪」と「最後のチャンス」が交差する回。
遅すぎた一言が、それでも誰かの心を揺らしたことを、わたしたちは目撃する。
「ごめん」と「ありがとう」の順番が逆だったふたり
ウンジュンは、ついに自分の言葉でサンヨンと向き合う。
第13話での言い争いのあと、距離を置いたままの時間。
でも彼女は、謝らなければいけないことがあると、ちゃんとわかっていた。
夜の撮影現場、人気のない場所で、ようやくふたりきりになる。
ウンジュンは言う。
「あのとき、謝らなかったのは、私が弱かったから」
強く見せたかった。
仕事だからと割り切って、自分の気持ちを押し殺した。
でも、それはただの逃げだった。
「青の起源」のことも、名前を出してしまったことも──。
本当はあの瞬間、あなたの気持ちに気づいてた。
ウンジュンの「ごめん」は、泣きながらじゃなくて、でも確かに震えていた。
それは自分を守るための謝罪じゃなくて、やっと届いた本当の気持ちだった。
サンヨンは、その言葉に最初、何も返さなかった。
ただ、静かに涙を浮かべて、「ありがとう」とだけ言った。
謝罪と感謝。
言葉の順番が逆だったけど、それでもふたりは、ほんの少しだけ歩み寄れた。
「私はあんたのこと、ずっと好きだったよ」友情という愛のかたち
映画のクライマックスシーンの撮影が近づく。
現場では、サンヨンの脚本に対する賞賛の声が増えはじめていた。
でも彼女は、自分の作品が認められることよりも、
ウンジュンとの“関係が終わってしまうかもしれない”ことのほうが怖かった。
一度壊れた友情は、元に戻らないかもしれない。
でも、だからこそ伝えなければいけない。
サンヨンは言う。
「私は、あんたのこと、ずっと好きだったよ」
その“好き”は、恋愛じゃなかった。
でも、恋よりもずっと深くて、ずっと繊細で、「一緒にいたかった」という祈りみたいな感情だった。
ウンジュンは、涙をこらえながら微笑む。
「私も…」と言いかけて、やめる。
言葉にすると、終わってしまいそうだった。
でも、その気持ちはきっと伝わっていた。
第14話は、“壊れた友情”に対して、“再生”という言葉を諦めない姿勢を描く。
謝るタイミングが遅かったとしても。
理解されない時間が長かったとしても。
「言葉にしようとしたこと」だけで、人は救われることがある。
そして、その言葉が届いた瞬間だけは、もう一度だけ「信じてみよう」と思える。
それが、ふたりに残された最後の灯りだった。
第15話:あなたのことを、もう一度ちゃんと知りたい
終わるって、壊すことじゃない。
変わるって、捨てることじゃない。
第15話は、ウンジュンとサンヨンが“これからの私たち”を探すために、もう一度だけ向き合う回だった。
映画のクランクアップと、「物語のあと」のふたり
映画『青の起源』が完成した。
クランクアップの現場は、笑顔と拍手で満ちていたけれど、ウンジュンとサンヨンの間にはまだ言い残したことがあった。
帰り道、ふたりきりになった車内。
ウンジュンが先に口を開く。
「今でも、“青の起源”はあんたの物語だって思ってる」
それは、ずっと言えなかった本音。
かつて名前を出してしまったこと。
誤解もすれ違いも、全部わかっていたのに、言葉にできなかった。
サンヨンは黙って聞いていた。
そして、こう返す。
「あたしも、あれがあんたの物語になってくれてよかったって思ってる」
ふたりの“過去”は、もう取り返せない。
でも、その過去にしがみつく代わりに、「あれでよかった」と思える場所まで来た。
それがどれほど遠回りだったとしても。
「私たち、もう親友じゃない。でも──」という始まりの言葉
最後のシーン。
カフェで向かい合うウンジュンとサンヨン。
かつては何時間でも一緒にいられた相手。
でも今は、お互いの心に“傷の輪郭”を知ってしまった関係。
ウンジュンがぽつりとつぶやく。
「私たち、もう親友じゃないかもしれないね」
でもそのあとに、少し笑ってこう続ける。
「でも、また“誰かとして”始められる気がする」
親友という言葉に縛られすぎていた。
友情、恋愛、嫉妬、依存。
全部ごちゃまぜにして、それを「友情」だと信じようとしていた。
でも今は違う。
それぞれが、違う痛みと歩んできた時間を経て、
「また知り合いたい」と願う関係にたどり着いた。
サンヨンは、もう“ウンジュンのことを分かったつもり”にはならない。
ウンジュンも、“サンヨンを守ってるつもり”にはならない。
ふたりは今、ようやく“対等な関係”になれた。
第15話は、別れを描いているようで、
本当は「つながり直す物語」だった。
親友じゃなくなってもいい。
もう“誰かの代わり”でなくてもいい。
ただ、あなたとちゃんと話がしたい。
あなたのことを、もう一度ちゃんと知りたい。
──それがふたりに残された最後のやさしさだった。
まとめと感想:「親友だった私たち」から、「それでも好きだったあなたへ」
この物語を“友情ドラマ”と呼ぶのは、ちょっと足りない。
でも、“恋愛ドラマ”と片付けてしまうのも、もったいない。
『ウンジュンとサンヨン』という物語は、“誰かと一緒に生きる”ということを、こんなにも痛くて優しく描いたドラマだった。
第1話で描かれたのは、「絶縁した親友が“死にたい”と告げてきた日」。
そこから始まった15話は、すれ違い・記憶・嫉妬・憧れ・裏切りという感情が何層にも折り重なっていく。
けれどその中心には、ずっと「本当は、ずっと好きだったんだよ」というひとつの想いがあった。
恋愛ではなく。
ただの友情でもなく。
相手の人生に立ち会いたいと思えるような、名前のない関係。
ウンジュンはずっと「正しくあろう」としていた。
サンヨンはずっと「わかってほしい」と願っていた。
その“ずれ”がふたりを壊し、ふたりを再び結び直す。
何度も傷つけ合って、それでも最後にふたりが交わしたのは、こんな言葉だった。
「私たち、もう親友じゃない。でも──また知り合える気がする」
このラストがあったから、全話が救われた。
“許す”のではなく、“受け入れる”。
“戻る”のではなく、“始め直す”。
このドラマが教えてくれたのは、そんな人間関係のリアルな“再定義”だった。
それは現実のわたしたちにも、きっと起こることだ。
離れてしまった友人。
わかり合えなかった恋人。
もう戻れないと思っていた相手に、「また話したい」と思える瞬間。
それを、このドラマは教えてくれる。
“壊れた関係”にも、ちゃんと続きがあるんだよ。
そう思わせてくれる15話だった。
ウンジュンとサンヨンの物語は終わったけれど、
その余韻は、きっとあなた自身の人生の中でも、静かに生き続けていく。
- 絶縁した親友が「死にたい」と言ってきた日から始まる物語
- 友情・恋愛・嫉妬が交錯する17年のすれ違い
- 同じ人を好きになった2人の“言えなかった気持ち”
- 「ごめん」のひとことで救われることもあった
- 友情は壊れたままではなく“再定義”できる
- 「親友じゃないけど、また知り合いたい」関係の再生
- サンヨンとウンジュン、それぞれの成長と赦しの軌跡
- 過去は変えられないけれど、未来は選び直せる




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