相棒17 第5話『計算違いな男』ネタバレ感想 天才天文学者が犯した“本当の誤算”とは？

「完全犯罪」という言葉には、人を魅了する響きがある。

それは計算された悪意の美学であり、ミスのない“神の視点”への挑戦でもある。

だが今回の『相棒』が描いたのは、“誤算”を重ねたひとりの天才が、人生そのものを読み違えていく姿だった。

この記事では、星野亮という男の“計算違い”が生んだ連鎖、過去と現在をつなぐ爆発事故の真相、そして右京の静かな導きについて深掘りする。

星野が仕掛けた“完全犯罪”に隠された動機とは？

神社の石段、静まり返る夜。

そこに佇む男の手には懐中電灯。だがそれは星を見るためのものではない。

男の名は星野亮──天体物理学者として名を馳せた“天才”でありながら、ある人物の殺害を計画していた。

だがその犯罪には、拳や怒声は存在しない。

緻密な計算と科学知識によって組み上げられた、“誰にも気づかれずに遂行されるはずだった殺人”だった。

キンタとして思う。

この男の本質は、“天文学”ではなく“演出”にあった。

星野が求めたのは、誰にも罪を問われない、理想的な“正義の履行”だった。

神社の石段に仕掛けられた氷の罠

物語の発端は夜の神社。

右京と冠城が出会ったのは、不審な動きをする青年。

男は「星を見ていた」と言い訳をしながら、現場を後にする。

だがその場には、凍った石段、照明、虫の群れという“不自然な演出”が残されていた。

酢酸ナトリウムの反応で意図的に凍らせた足場。

光に集まる虫──それを払おうとする人間の視界を奪い、氷の罠へと誘導する“科学の罠”だった。

殺意は見えない。暴力もない。

けれど、確実に人の命を奪う仕組みが、そこにはあった。

星野は理論と計算のもとに、“最もバレにくい殺人”を夢見ていた。

だが、そこで彼が犯した最初の“計算違い”は、

人間がそんなに簡単に思い通りには動かないということだった。

天文学者が選んだ“殺人の演出”とその意味

星野の計画は、まさに“天体ショー”のようだった。

照明、虫、凍結、そして被害者が現れるべきタイミング。

それは、天文学者として星の運行を読むかのように、完璧に整えていた。

だがここで重要なのは、なぜ彼がそこまでして“殺さねばならなかったのか”だ。

事件が進むにつれ、16年前の爆発事故、同級生の死、そして脅迫といった過去が浮かび上がる。

星野は、そのすべてを「自分が引き起こした」と思い込まされていた。

そして、その過去を知る者に口を塞がせるため、完璧な“事故”を装う犯罪を計画する。

彼が恐れていたのは、過去に犯したかもしれない罪によって、現在のすべてを失うこと。

恵美という婚約者、未来の研究、イギリス行き、そして「自分は天才だ」という社会的地位。

だからこそ、彼は犯罪を“事故”に仕立てあげようとした。

それが、天体物理学者・星野が描いた“最も静かな殺意の形式”だった。

だが、右京は言う。

「完全犯罪など存在しませんよ」

それは法の言葉であると同時に、“人間の本質”を語る警句だ。

星野は、過去から逃れようとした。

しかしその“計算”は、初めからどこかがズレていた。

人間は、星のように予測通りには動かない。

それが、彼の最も大きな“誤差”だったのだ。

星野亮の「計算違い」──すべてを狂わせた一言の重み

星を読むように、未来を予測し、すべてをコントロールできる。

天文学者・星野亮は、そう信じていた。

科学と論理、計算と因果。彼にとって世界は“式で片付く”ものだった。

だが、それを信じていたのは彼だけだった。

人は、式では動かない。

そして、彼の“たった一つの言い間違い”が、すべてを狂わせる。

──第二ビルと、第三ビル。

「第二ビル」と「第三ビル」──致命的な指示ミス

星野は、再び殺人を計画していた。

今度こそ、完全に仕上げた犯行。塩化ナトリウム、劣化ケーブル、落雷によるショート──

被害者は、高校時代の同級生であり、かつての爆発事故の“真相”を握る男・若月。

星野にとっては、「自分を脅し、過去を暴く者」だった。

だから、消さねばならなかった。

そして場所は“第三ビル”。すべての準備を整えた、まさに「最適解」だった。

だが星野は、若月に「第二ビルに来い」と伝えてしまう。

理由は些細だ。

研究で思考が“第二恒星”についての計算に集中しており、そのまま口にしてしまった。

これは、天文学者にとってよくある“混乱”かもしれない。

だが、犯罪においては致命的な“計算違い”だ。

若月は別の場所に現れ、星野の計画は、開始する前に瓦解する。

狙ったのに届かなかった、“ずれた殺意”の輪郭

このミスは単なる“指示ミス”ではない。

星野の「殺意」そのものが、実はぼんやりしていたことを浮き彫りにする。

彼は本当に若月を殺したかったのか？

それとも、「自分が罪を犯すかもしれない」という未遂のスリルを試していたのか。

「自分はあのとき人を殺したのかもしれない」

「ならば、今度は完全に殺してみよう」

そんな歪な心理が、どこか彼の中にあったように見える。

彼はずっと、“罪を引き受けきれない男”だった。

だからこそ、殺人を実行する前に、何かがずれる。

第二ビルと第三ビル。

この“住所のズレ”が意味するのは、彼の覚悟と現実の間の距離だ。

狙っているのに届かない。

自分の意思のはずなのに、なぜか“命を奪う”という行為だけはいつも宙に浮く。

それは彼の中に、最後の良心が残っていたからか。

それとも、単に凡ミスだったのか。

キンタとしては、両方だったと思う。

星野は、天文学的に精密な犯罪計画を立てながら、人間的に“ずさん”な心を持っていた。

そしてその不完全さこそが、彼を「殺人者」から遠ざけた。

そう思えば、皮肉な話だ。

完璧な知性が、最後は“言い間違い”という凡ミスに屈した。

でもそこに、人間としての輪郭があった。

計算違いは、殺意の失敗ではない。

それは“人を殺さないことを選んだ偶然”だった。

16年前の爆発事故──南雲千佳の死に何があったのか？

殺人の背景に、必ずしも“怒り”や“利害”があるわけじゃない。

時には、ずっと置き去りにされていた“過去”が、静かに現在を侵食する。

星野亮が完全犯罪を企てた背景には、高校時代の“事故”──いや、“事件”があった。

物理研究部で起きた爆発。その中でひとりの少女、南雲千佳が命を落とす。

それは、“事故”として処理された。

だが、星野と若月、そして三田。あの部屋にいた者たちの心には、決して消えない“何か”が残されていた。

塩酸と硫酸、取り違えられた実験薬品

爆発の原因は、化学薬品の取り違えだった。

塩酸と硫酸──似て非なる液体が、命の境界を分けた。

どちらかが、容器を取り違えた。

星野か、若月か。

だが、二人とも「自分ではない」と信じていた。

真実は曖昧なまま、時間だけが流れていく。

そして十七回忌。

そこに置かれた、一通の“匿名の手紙”がすべてを変えた。

「お前が千佳を殺した」

手紙には名前はなかった。

だが、星野は恐怖した。

「自分がやったのかもしれない」

その疑念が、彼を“沈黙の加害者”へと変えていく。

三田校長が仕掛けた“罪の手紙”と疑念の種

手紙を書いたのは、当時の顧問・三田。

彼は事故の真相を知りたかった。

だが、証拠も告白もない。

だから仕掛けた。

──“どちらが罪を抱えているか”を見極める心理戦。

両者に「お前がやった」と記された手紙を送り、反応を見る。

それは教師の倫理を逸脱した行為だったかもしれない。

だが三田には、どうしても知りたい理由があった。

千佳は、彼にとって“恋人”だった。

生徒でありながら、特別な想いを寄せていた。

それは千佳が寄せ書きに残した“暗号”にも現れていた。

教師としての限界を越えて、彼は知りたかった。

あの事故は、誰のせいだったのか。

そして、手紙を受け取った星野は、沈黙のまま“罪を信じ込んだ”。

「あれは、俺のミスだったんだ」

事実ではなく、“思い込み”が彼の中で肥大化していく。

そして若月は、その“誤解”を利用して金をせびった。

誰も真実を語らない。

でも誰も忘れてはいない。

過去は、記録ではなく“解釈”で人を殺す。

この爆発事故が本当に“事故”だったのか。

その答えは、今でも完全には明かされていない。

でもキンタはこう思う。

あの日、誰かが少しだけ勇気を出して言葉を交わせば、誰も死ななかった。

罪の正体は、“間違った沈黙”だった。

その意味で、爆発は事故じゃない。

これは、言えなかった言葉が起こした“人災”だった。

若月はなぜ脅迫を続けたのか？そして、誰が彼を殺したのか？

人を脅すという行為には、二通りある。

ひとつは、明確な優位性を利用して搾取する意図。

もうひとつは、自分の弱さを隠すために他人を下げようとする防衛。

若月はそのどちらだったのか。

──キンタは、後者だったと思っている。

星野を恐喝し続けた男、若月雄也。

彼の口から出るのは、「イギリス行きがパーになるぞ」「南雲のこと、バラしてもいいのか」といった脅し文句。

だがその言葉の裏には、“真実を隠したまま生きてきた罪悪感”が確かにあった。

恐喝の裏にあった罪の自覚と欺瞞

若月は星野と違い、天文学者にもなっていなければ、婚約者もいなかった。

つまり、「何も失いたくない男」ではなく、「すでに失っていた男」だった。

16年前、物理研究部の爆発事故。

星野と若月、どちらかが薬品を取り違えた。

だが若月は、自分の過失だった可能性を、心のどこかで知っていた。

だからこそ、星野が怯えている姿を見た時、「これは使える」と思った。

使えるのは、星野の“罪悪感”だ。

自分の罪を押し付け、金をもらい、優位に立つ。

そうすることで、自分が「間違えた側」ではないように振る舞える。

それは、ただの金目当てではなく、“贖罪のすり替え”だった。

彼は罪を隠して生きるために、星野の罪を利用した。

そしてそれが、自分の死へとつながる皮肉なブーメランとなる。

ビルの階段で交錯した復讐と正義──三田の告白

若月が転落死した夜。

現場は、星野がかつて“殺人装置”を仕掛けようとしたビル。

しかしその仕掛けは、星野のミスにより機能しなかった。

では、なぜ若月は死んだのか？

その答えを握っていたのが、三田校長だった。

彼は、若月のあとをつけていた。

「なぜ、十七回忌であんなことを言った？」

問い詰めると、若月は笑って言った。

「南雲？　死んだのは昔の話だろ？　あんなの、たかが実験ミスじゃん」

その瞬間、三田の中で何かが切れた。

娘のように想っていた千佳を、「ただの過去のミス」として切り捨てた若月の軽さ。

怒り、哀しみ、そして悔しさが爆発した。

──彼は、突き飛ばした。

それが事故だったのか、故意だったのか。

三田は「殺意はなかった」と言う。

だが右京は見抜いていた。

三田は、若月を“教育”しようとした。

過去と向き合わない人間に、最後の授業を。

「あなたが起こした事故の意味を、自分で考えなさい」

その授業は、命を代償に終わった。

人は皆、過ちを犯す。

だがその過ちを他人に押しつけ、金に換えた瞬間、それは“事故”から“罪”に変わる。

若月が犯したのは、“口を閉ざさなかった罪”ではなく、“他人の後悔を利用した罪”だった。

そしてそれが、一番許されない形で返ってきた。

キンタは思う。

若月は、過去から逃げたのではない。

過去を“商売”にしてしまった。

その結果、彼自身が「過去」にされた。

右京の“完全犯罪は存在しない”という真意

「完全犯罪など、この世に存在しません」

右京が放ったこの言葉は、論理の剣であり、同時に“人間の本質”への問いでもある。

この物語の中で右京は、証拠という“物”ではなく、思考の“痕跡”から真実を浮かび上がらせた。

それは、星野という男が唯一信じていた“数式の世界”の中にあった。

犯人は自白しなかった。

凶器もなければ、殺意を証明する明確な手紙もない。

だが、右京は見抜いた。

星野が「犯意を持っていた」ことを示す、決定的な証拠がひとつだけあった。

──ホワイトボードに書かれた、ある数式だ。

ホワイトボードに残された数式が語る“意図”

星野の研究室に残されたホワイトボード。

そこには、一見すると天文学的な計算が並んでいる。

だが右京は、それが純粋な研究のものではないと気づいた。

数式は、“塩化ナトリウム”の濃度比率。

そして、それが電気回路における伝導率と結びつくとき、凶器としての構造が立ち上がる。

右京は言う。

「あなたの知識と論理性が、あなた自身を裏切ったのですよ」

犯罪の痕跡とは、犯行現場にあるものだけではない。

むしろ、“犯人の頭の中”に残るイメージの痕跡こそが、何よりの証拠になる。

星野は「見つからない計画」ではなく、「見つけても理解されない構造」を目指していた。

それが彼の知性ゆえの“過信”だった。

だが、右京はそれを読み取った。

「小さなゆがみの中に、大きな罪が隠れている」

これこそが、右京という男の“捜査”であり、“哲学”でもある。

右京が星野に伝えた“人としての救い方”

だが右京は、星野を断罪だけしない。

その知性の高さに敬意を払いながら、“人としての選択”を促す。

「あなたは“星を読む”ことはできても、“人の心”はまだ読めていない」

「完全犯罪を望んだことそのものが、あなたの“計算違い”だったのです」

その指摘は、論理ではなく“情”に近かった。

右京はいつも、罪を“法”ではなく“心”で裁く。

星野は過去を隠すために未来を壊そうとした。

だがそれは、知性の敗北ではなく、誤った信念の暴走だった。

右京はそこに、ひとつの「救い」の扉を残していた。

──“殺してはいない”という結果。

「あなたの計画はすべて失敗しました。それが、唯一の救いです」

この言葉には、人として「取り返しのつく選択肢」がまだあるという希望が込められていた。

キンタとしても思う。

人は誰しも、過去に縛られる。

でも、その記憶とどう向き合うかは、今ここで選べる。

右京はそれを、静かに、しかし確実に星野に突きつけた。

完全犯罪など、この世に存在しない。

なぜなら、人間の中に“揺らぎ”という不完全性が必ずあるから。

そしてその揺らぎこそが、赦しや後悔や、再生という物語を生む。

恵美の選択──罪を抱えた男に差し出された“赦し”

誰かを愛するというのは、その人の“過去”までも抱えることなのかもしれない。

それがどんなに醜く、どれだけの罪を孕んでいても。

天文学者・星野亮は、事件後、職を失い、世間からの信頼も剥がれ落ちた。

残ったのは、後悔と、ひとつの名もなき罪。

そんな彼のもとに、ひとりの女性が現れる。

白川恵美──星野の助手であり、婚約者だった女性。

この再会のワンシーンに、キンタは息を呑んだ。

それは、ただの“和解”ではなかった。

人が人を許す瞬間、その尊さが静かに映っていた。

天文台を解雇された男のもとに届いた微笑み

事件が明るみに出て、星野は天文台を去った。

正式な罪には問われなかったとはいえ、研究者としての信用は完全に失われた。

社会的地位を求め、理論の完璧さにすがっていた男にとって、それは“死”にも等しい。

恵美は、そんな彼のもとに現れる。

「ごめんなさい」でもなければ、「大丈夫？」でもない。

ただ、微笑みながら、隣に立ち、空を見上げた。

それだけの演出で、すべてが伝わった。

彼女は彼を“赦した”のではない。

その罪も含めて、“ふたたび共に在ろう”と決めたのだ。

ここにあるのは、法では裁けない、人間としての赦し。

それは時に、判決よりも重い。

“星を見る”という再出発のメタファー

ふたりは、何も語らず、ただ夜空を見上げていた。

そこにあるのは、無数の星。

距離がありすぎて手も届かず、ただ光だけが届く存在。

キンタはこの場面を、“人間が過去と向き合うこと”のメタファーだと思っている。

星は、もう燃え尽きているかもしれない。

でもその光は、何千年も遅れて、今、私たちの目に届く。

過去も、同じだ。

終わったはずの出来事が、いまの私たちに影響を及ぼしている。

恵美の横顔に照らされた星の光は、その過去に“意味”を与えるものだった。

「星を見る」という行為が、ふたりにとっての再出発だったのだ。

それは研究でも、論文でも、栄誉でもない。

ただ一緒に、空を見上げる。

その行為に、どれほどの“共有”があるだろう。

言葉にならない赦し。

声にならない願い。

そして、もう一度始めるという意思。

それが、この回の最後に残された“最も人間的な答え”だった。

「自分は悪くない」と言い続けた人間が最後に辿り着く場所

星野も、若月も、三田も。

この事件に関わったすべての男たちには共通点がある。

「自分は悪くない」と、どこかで思い込もうとしていた。

“罪を自分の外に置きたがる癖”が壊したもの

星野は、「薬品を間違えたのは自分じゃない」と言い聞かせた。

若月は、「バレなければいい」と信じていた。

三田は、「真実を知るためなら多少の仕掛けは許される」と自分を正当化した。

でも本当は、みんな、自分の中の“ちいさな罪”を見ないようにしていただけだった。

「あのとき謝っていれば」「もう少しだけ正直でいれば」

そういう小さな“もしも”が、積もり積もって人を死なせる。

罪は、嘘より静かに、誤魔化しより深く、心を侵してくる。

現代の人間関係にもある“星野的思考”

この話、他人事じゃない。

たとえば、職場や友人関係でなにかうまくいかないとき。

つい、「相手のせいだ」「運が悪かっただけ」と思ってしまう。

だけどそれは、罪の“計算式”を自分の外に作る行為なんだよな。

星野は、科学の世界では天才だった。

でも、人間関係の方程式は、数字じゃ解けなかった。

「誰も悪くない。でも、みんな間違ってた」

この事件が語っているのは、そういう話だったと思う。

そしてその中で、唯一自分の罪を“自分の中に戻した”のが星野だった。

それが、この物語で唯一の救いだった。

『相棒 計算違いな男』が描いた、“完全”よりも尊い不完全さの真実まとめ

『相棒 season17 第5話「計算違いな男」』は、緻密な犯罪劇の中に、“不完全であることの意味”を深く刻んだ回だった。

完璧に仕上げたはずの殺人計画。

犯人の頭脳、動機、科学的仕掛け──すべてが美しく組み立てられていた。

それでも、たった一言の言い間違いが、計画を崩壊させた。

• 星野の“殺人装置”が語る天才ゆえの孤独と誤差
• 16年前の爆発事故に潜む“誰も語らなかった罪”
• 若月の脅迫が浮き彫りにする、人の弱さとすり替えた贖罪
• 右京の“心を読む捜査”が解き明かす人間のゆらぎ
• 恵美の沈黙が示す、赦しとは“そばにいること”だという真実

この物語に登場したすべての人間が、「自分は悪くない」と思いながら、どこかで罪の影を抱えていた。

でも最後、罪を自分の中に引き取った星野だけが、“もう一度空を見上げる”権利を得た。

完全な人間なんていない。

だからこそ、人は誰かと関わる。

間違いを赦され、受け入れられながら、生きていく。

『計算違いな男』は、人間の不完全さを責めるのではなく、それを前提にして“どう生きるか”を問いかける物語だった。

誰もが、いつか間違える。

でも、間違えたあとに何を選ぶかで、人生はまるで違った星座になる。

それが、星野が見上げた“もう一つの夜空”だったのかもしれない。

右京さんのコメント

おやおや…理論と感情が拮抗する、実に興味深い事件でしたねぇ。

一つ、宜しいでしょうか？

この事件で重要なのは、「人はどこまで理性に支配され得るのか」という問いでございます。

天体物理学者の星野亮氏は、自身の過去の罪を消すために、“完全犯罪”を夢見て行動しました。

しかし、彼が犯した最大の誤算は、人間の感情が“数式”では割り切れないという点にあったのです。

なるほど。そういうことでしたか。

犯罪計画としての精度は非常に高いものでしたが、言い間違い、誤認、曖昧な記憶――こうした“人間らしさ”が、皮肉にも犯行を未然に防いだ。

結局、完全な犯罪など存在しません。

それは、完全な人間が存在しないからです。

いい加減にしなさい！

自らの罪を他人のせいにし、脅し、操ろうとするような思考。

若月氏のように、他人の後悔を利用する者は、自らの人間性を切り売りしているようなものです。

そして三田校長――

あなたがその手で復讐を選ばなければ、もう少しだけ“教育者”でいられたのではありませんか？

それでは最後に。

紅茶を淹れながら考えましたが、

人の“誤差”とは、時に罪を生み、時にそれを未然に防ぐ“奇跡”にもなり得るようです。

正確無比な星の運行と異なり、我々人間は常に揺れ動いております。

だからこそ、誰かと向き合うという行為には、論理以上の“優しさ”が求められるのかもしれませんねぇ。