NHK大河ドラマ「べらぼう」で描かれる「往来物（おうらいもの）」は、江戸時代の子どもたちが読み書きや礼儀作法を学ぶために使っていた教科書です。
第17話では主人公・蔦屋重三郎がこの「往来物」に興味を持ち、出版ビジネスの新たな可能性として着目する姿が描かれました。
この記事では、蔦重がなぜ往来物に注目したのか、その種類や江戸時代の教育背景、そしてビジネス的な側面からの価値について、わかりやすく解説します。
- 往来物とは何か、江戸時代の役割を解説！
- 蔦屋重三郎が往来物に注目した理由と戦略
- 教育と出版が持つ未来への可能性を考察！
蔦重が往来物に注目した理由は「安定した需要と利益性」
江戸時代の出版市場では、派手さよりも堅実さが求められる分野が確かに存在していました。
その中で「往来物」は、庶民の生活に深く根ざした教育書としての安定的な需要を誇っていたのです。
蔦重はこのジャンルに商機を見出し、出版王としての次なる一手を打ち出しました。
流行に左右されない普遍的な教材
往来物は、現代で言えば国語ドリルや生活科教材に相当する実用的なテキストです。
読み書きや礼儀作法、商売の心得など、子どもから大人まで役立つ知識が体系的にまとめられており、時代の流行に左右されません。
そのため、一過性の娯楽本とは異なり、常に一定の需要が見込める「堅い商材」として、蔦重の関心を引いたのです。
長期的に使える板木とコスト削減
蔦重が惹かれたもう一つの理由は、製作コストの低さと長期的な再利用性でした。
娯楽本では流行の変化に応じて頻繁な改訂や新作が求められますが、往来物は内容が普遍的で、一度作った板木を何年にもわたって使い回すことが可能でした。
これは出版業者にとって非常に魅力的な点であり、初期投資が少なく済み、安定した利益を生むビジネスモデルといえるでしょう。
そもそも往来物とは？江戸時代の教科書の正体
「往来物（おうらいもの）」とは、江戸時代を中心に普及した読み書きや礼儀作法を教えるための手習い本のことを指します。
寺子屋や家庭で使われ、当時の庶民にとって教育の入り口として欠かせない存在でした。
その内容は多岐にわたり、実生活に役立つ情報が盛り込まれた、まさに庶民の知恵の宝庫だったのです。
読み書き・礼儀作法から商売までカバー
往来物は元々、往復書簡の文例を集めた書物として誕生しましたが、時代の変化と共にその用途が広がっていきました。
やがて手紙の書き方や年中行事、道徳、さらには商売や地理・歴史の知識まで網羅する教材へと発展します。
生活全般を支える教科書として、子どもだけでなく大人にとっても有用な書物とされていました。
寺子屋や家庭で使われた実用書
教育機関が整っていなかった江戸時代において、寺子屋は庶民教育の中心でした。
そこではこの往来物が教科書として広く使われ、子どもたちはこれを通じて読み書きや礼儀作法を学んだのです。
現代のドリル教材のような存在とも言えるこの本は、各家庭にも広まり、江戸の文化レベルを底上げする大きな要因となりました。
代表的な往来物とその内容を紹介
「往来物」とひとことで言っても、その種類は実に多岐にわたります。
なかでも、教育現場や商人の家庭などで頻繁に用いられた代表的な作品は、時代を超えて読み継がれてきました。
以下では、特に知られている3つの往来物をご紹介し、それぞれの特徴や活用のされ方について解説します。
庭訓往来：年中行事や宗教、日常知識が詰まった古典
「庭訓往来（ていきんおうらい）」は、室町時代末期に成立し、江戸時代を通して長く愛読された最も有名な往来物です。
手紙の文例だけでなく、年中行事、仏教・儒教の教え、そして日常生活の知恵まで収録されており、寺子屋の定番教材として全国で使われていました。
この書物が広まったことで、庶民の知識水準や文字教育の浸透に大きく寄与したと言われています。
商売往来：商人の心得を学べるビジネステキスト
「商売往来（しょうばいおうらい）」は、商人の子弟や丁稚奉公の若者たちのために作られた、実践的なビジネス教本です。
京都の手習い師匠・堀流水軒が編纂し、商人として生きるために必要な考え方や交渉術、商取引の基本などが丁寧に記されています。
江戸のビジネスマナーの教科書として、幅広い層から重宝された教材でした。
下学集：子どもも大人も使える百科事典的教材
「下学集（かがくしゅう）」は、仏教や儒教、歴史、地理といった幅広い分野を扱った総合教材です。
知識を体系的にまとめた内容で、子どもの教育のみならず、大人の学び直しにも使われたと言われています。
百科事典のような性質を持ち、当時の庶民の知的好奇心を満たすツールとなっていました。
蔦重の出版戦略：江戸市中外での流通と新作開発
蔦重が往来物の出版に乗り出すにあたっては、単に需要を見込んだだけでなく、市場の独占構造を打ち破る革新的な戦略を立てていました。
既に日本橋の有力地本問屋「丸屋小兵衛」が往来物の販売を握っていた中で、蔦重は江戸市中以外での展開と独自タイトルの開発に挑みます。
その姿勢は、現代の出版マーケティングにも通じる柔軟かつ戦略的な視点を感じさせます。
「大栄商売往来」「新撰耕作往来千秋楽」の誕生
蔦重は、往来物の中でもオリジナリティある新作を企画し、彫師・四五六（しごろく）との協業によって実現しました。
こうして誕生したのが、「新撰耕作往来千秋楽」や「大栄商売往来」といった、新しい時代の需要に応える往来物です。
従来の型にはまらない内容と流通ルートで、蔦重は往来物市場に新たな風を吹き込んだのです。
既存の出版勢力「丸屋小兵衛」との差別化
江戸の出版市場では、「丸小（まるこ）」の異名を持つ丸屋小兵衛が往来物の主導権を握っていました。
彼が築いた体制に対抗するため、蔦重は地方向けの販路開拓や内容面での工夫に力を注ぎました。
このようなアプローチは、ニッチ市場の開拓という現代的マーケティング戦略と重なる部分があり、蔦重の先見性を物語っています。
「べらぼう」で描かれる往来物のフィクションと史実
NHK大河ドラマ「べらぼう」では、蔦屋重三郎が往来物の出版に着手する様子がドラマチックに描かれています。
しかしながら、この描写の中にはフィクションの要素も多く含まれているのが実情です。
ここでは、史実として確認されている事実と、ドラマ上の演出との違いについて整理します。
ドラマ演出としての自由な解釈
「べらぼう」で描かれる往来物のエピソードは、蔦重のキャラクターをより深く掘り下げるための創作として組み込まれています。
往来物に着目する姿勢は実に彼らしく、文化と教育への貢献というドラマ全体のテーマにも合致しているため、視聴者に強く印象づけられます。
とはいえ、全てが史実に基づいているわけではないことは理解しておく必要があります。
史実上の蔦重と往来物の関係性
史実として確認できる範囲では、蔦屋重三郎が直接「往来物」を出版していた明確な記録は残っていません。
彼の出版活動の中心は、黄表紙や洒落本、浮世絵などの娯楽・芸術分野であり、教育書に関する記述はごくわずかです。
それでも、当時の出版文化に対する貢献や市場の動向に敏感な人物像から考えると、往来物に着目しても不思議ではない、という演出の巧妙さが光ります。
蔦重と往来物――“知”を届ける喜びに触れた瞬間
ドラマを見ていてふと思ったのですが、蔦重が往来物に興味を持ったのって、単なるビジネスチャンスだけじゃない気がしたんです。
彼にとって、娯楽だけじゃなく「誰かに知識を届けること」自体が、ひとつの夢だったんじゃないかなって。
往来物を通じて、見えない誰かの日常を少しでも豊かにできる――そんなささやかな願いも、蔦重の中にはきっとあったのかもしれません。
“読み手の顔”を思い浮かべた、あたたかな出版
蔦重がこれまで手掛けてきた黄表紙や洒落本は、もちろん江戸っ子たちを笑顔にしてきました。
でも、往来物って、もっと未来の誰かに静かに寄り添うものなんですよね。
寺子屋で読み書きを学ぶ子どもたちや、商売を始めたばかりの若者たち。
そんな一人一人の顔を、蔦重はぼんやりと思い浮かべながら本作りに向き合ったのかも……なんて、ちょっとロマンを感じてしまいました。
時代を越えて――「知りたい」「学びたい」は変わらない
改めて考えると、往来物に込められたのは、人の「学びたい」という純粋な思いだったのかもしれません。
江戸の子どもたちも、現代の私たちも、「もっと知りたい」「できるようになりたい」って気持ちはきっと同じ。
蔦重が往来物に託したのは、そんな未来へのエールだったんじゃないかな…と、ドラマを見ながらしみじみ思いました。
べらぼう 往来物に学ぶ、教育と出版の可能性まとめ
NHK大河ドラマ「べらぼう」で描かれた往来物のエピソードは、単なる歴史知識の紹介にとどまりません。
そこには教育の力と、出版が社会を動かす可能性が深く込められていました。
蔦重の挑戦は、私たちに今もなお響く普遍的なテーマを投げかけています。
往来物は、読み書きや礼儀、商売の心得といった「生きるための知恵」を伝えるものでした。
そして、それを届ける出版という仕事は、誰かの未来を少しずつ支える営みでもあったのです。
現代に生きる私たちも、情報を届けること、学びを広げることに、きっと同じ情熱を持てるはず。
「べらぼう」の蔦重を通して感じたのは、教育も出版も、人を育て、時代を動かす力を持っているということでした。
これからも、誰かの「知りたい」を支える存在でありたい――そんな気持ちを新たにしたエピソードでした。
- 江戸時代の教科書「往来物」とは何かを解説
- 蔦重が往来物に注目した理由は安定した需要
- 往来物の代表作とその内容を紹介
- 出版市場での蔦重の戦略と工夫を考察
- ドラマ「べらぼう」でのフィクション要素にも言及
- 蔦重の「知を届ける喜び」に独自視点で迫る
- 教育と出版が未来を支える力であるとまとめる
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